事業承継センター株式会社(一般社団法人 事業承継協会)
代表取締役社長 金子一徳

「事業承継」という言葉すら存在しなかった時代から、経営者の悩みを解決し続けてきたパイオニアとして知られる事業承継センター株式会社・代表、金子一徳氏にインタビュー。事業承継の現在(いま)と未来についてお聞きした。

 

事業承継センター株式会社のお取り組み内容

――○まずは事業概要からお聞かせください。

事業承継のコンサルティングを主たる事業としている会社です。さらに、その周辺業務として、後継者育成を目的とした「後継者塾」を全国18か所で運営。労務や法務といった基本を押さえながら、先代からどうやって会社をスムーズに引き継ぐか、その方法論を指導しています。例えば、創業からこれまで、どのように会社が変遷してきたのか、それぞれに持ち帰って先代に聞くという課題を出したりします。こういったカリキュラムは普通の経営スクールにはないでしょうね。

この塾は創業前からスタートし、現在は9期生が動いています。“10年は一昔”といいますが、それ以上に激しい変化を感じています。一期生はそれこそ、“自分が社長になるしかない”という覚悟を持っている方が多かったのですが、最近は、学びながらも引き継ぐ過程で大きなリスクがあったら、“会社を継がないかもしれない”と考えるタイプが増えてきました。

それは、中小企業において親族外承継が増えてきたことに起因すると捉えています。要するに、親族ではない従業員や他社に在籍していたサラリーマンが継ぐケースでは、その奥様は住宅ローンより大きな借金を見たことがなくて、「給料が二倍にならなくてもいいから、今のままでいい」と考える傾向があります。やはりご家族の影響は大きいですからね。

ここ10年で大きく変わってきたので、さらに10年が経過したら、どういう人が後継者になっているか、まったく予測がつきません。

 

事業承継士の資格と役割について

――○事業承継士の資格について教えてください。

元々、私と共同経営者の二人でこの事業承継に関するコンサルティング業務を始めたのですが、当時からこの仕事の難しさを実感していました。体系化できず、一品料理のようなケースバイケースで、一つひとつ自分たちで考えながら対応しなくてはならない仕事です。

その一方で、当時からどこかのタイミングで一気にニーズが広がっていくという予感もありました。それは行政の中枢と一緒に仕事をしていく中で感じていました。二人で仕事をしているだけでは、九州や北海道で案件が発生しても対応できません。自分たちの会社を大きくするか、もしくはノウハウを持った人間をたくさん作るか、どちらしかないと考えて後者を選びました。資格を作りカリキュラムを作って体系化し、事業承継をサポートできる人を増やそうと、今から4年前に設立した一般社団法人 事業承継協会で事業承継士講座を立ち上げ、資格付与を始めたのです。

 

――○事業承継士の役割について教えてください。

事業承継には大きく三つの側面があります。まず一つ目が不動産など目に見える資産の承継二つ目が責任、権限、代表権といったもの、三つ目に会社のノウハウやブランド、業界地位など目には見えにくいけれども会社の価値を形成しているものがあげられます。それぞれに課題がありますが、それらを一体として承継するというところまで導くのが事業承継士です。

本人が実務もやりますが、事業承継士が一人で解決できる分野は少なく税理士、弁護士、社会労務士とその時々でチームを組み、事業承継士が要になってコーディネートしながら解決していきます。現在は500名ほどの資格保有者がいますが、制度が始まってから4年間が過ぎたばかりですから、他の関連資格に比べても非常にスピーディに受講者、資格取得者が増加している印象があります。

事業承継のコンサルティング業務は“地産地消”で行うのがベストです。ですから全国に事業承継士が存在する状態を作りたいと思っています。やはり、地域の風習や文化を理解する“顔の見える人たち”が地元の企業のためにお手伝いするのがもっとも良いスタイルではないでしょうか。会社は生き物なのでずっと続いていきます。だから先代のことも後継者のこともよく知っている人が常にそばにいて、何かあったときにすぐに相談に乗ってあげるのが理想です。

事業を始めたきっかけ

――○この事業を始めたきっかけを教えてください。

事業承継を専門とするコンサル会社を作りたいという構想は25年前からありました。大学を卒業して、新卒で中小企業に投資していく政府系のベンチャーキャピタルに入社。経営者と対峙してコンサルをしていくなかで、事業承継について悩んでいる経営者が多いことを知り、“何かお役に立てないか”と考えるようになったのがきっかけです。独立志向もあったので、そのジャンルの第一人者になろうと思いました。

しかし、当時は勉強をしようと思っても、書籍もなければ教えてくれる人もいません。独学ではわからないことばかりで限界を感じたこともあって、そのアイデアを少し温めておこうと思っていました。その後、別な仕事で独立してしばらくたって、同じような思いを持っている内藤(現:取締役会長)と知り合い、二人でチームを組んでやってみようと考え、個人事業から創業へとつながっていきました。とにかく一つひとつ業務をこなしていく中でノウハウを磨いていきましたね。

始めたころは、そこまで需要はありませんでした。その数年後に国が事業承継の相談窓口を設立。そのうちいくつかの競合ができてマーケットが認知されていきました。そもそも当時は事業承継という言葉すら一般的ではありませんでした。競合が現れましたが私たちはパイオニアとして圧倒的な数の案件を経験してきたため、その引き出しの数は強みとなっています。

 

――○改めて、事業承継の重要性について教えてください。

本来であれば、事業承継は早めに考えなくてはいけません。先進諸国の社長交代の時期はものすごく早いですよね。アメリカでは下手をすれば40代で引退して次の世代に渡していきます。ところが日本では50代の社長でも“ひよっこ”みたいに思われる傾向があります。30代だと“早すぎる”みたいな。そういった日本人特有の社長観が続いています。しかも10年計画で承継していくという、、、

 

――○気が長すぎますね(笑)。

そう、気が長すぎる。弊社は最長でも3年でやり切ろうというスピード感で臨んでいます。なぜなら、社長も後継者も必然的に年を取ります。70代の先代が50代の後継者に会社を譲って、そこから自分の力を発揮していきますといっても、10年で60歳になりますから、すぐに自分の後継者を育てなければなりません。わずか10年ではできないことだらけですよ。

事業承継のニーズは、ここ10年がピークで、その後は下降線をたどっていくのではないかとよく言われています。しかし、この10年間で社長交代を迎えようとしているのは、ほぼ創業社長の会社で、彼らは若いときに事業を始めて何十年も突っ走ってきました。それこそ40~50年も経営している人もいます。2代目社長は結構な年齢から始めることになるので、どうしても次のサイクルは短くなります。以降は、この短サイクルが繰り返されることになるので、急に需要が落ちることはないと思われます。

それどころかむしろ、ますます短い期間で事業承継を行わなければならなくなるので、第三者に入ってもらってきちんとつなぐということが一般化され、さらに私たちのニーズが増えていくと踏んでいます。今後も事業承継の分野はひとつのコンサルのテーマとして確立されていくでしょうね。

今後、目指していきたいこと

――○今後の動きについて教えてください。

一般社団法人 事業承継協会としては、今年の7月、新たに「事業承継プランナー」という資格をリリース。この4年の間に事業承継士の数は増えてきましたが、まだまだ事業承継の時に“プロに入ってもらう”という意識づけは浸透していません。そもそも“自分の会社に問題がある”ということすら自覚していないケースがほとんど。一見して問題がなさそうに見えても、実は我々が入ってヒアリングしてみると問題が浮き彫りになることもあります。こういうことは第三者から指摘されないとわからないものです。

そういった課題を掘り起こすのがこの事業承継プランナーの役割です。士業ではなく、日常的に経営者に接している方、例えば保険会社のライフプランナーや商工会議所で経営相談を受ける方、行政の窓口の方、小売業のスーパーバイザーなどに適しています。ニーズを掘り起こして整理して、事業承継士にトスアップする、いわば、一次ジャッジメントをする方々を急激に増やしていこうと考えています。

私たち事業承継センター株式会社としては、決して規模の拡大を目指してはいません。ここで磨いたノウハウを事業承継士、事業承継プランナーに共有財産として提供していきたいですし、後継者塾はフランチャイズ展開をしたいと考えています。先ほども述べたように、事業承継は地産地消が基本。一都道府県に一か所の後継者塾を設立して、地元で後継者育成をしていきたいですね。

 

■事業承継士
https://www.jigyousyoukei.co.jp/shoukeishi/
■事業承継プランナー
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■一般社団法人事業承継協会
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■事業承継センター㈱
https://www.jigyousyoukei.co.jp/