親子承継でかかる税金はなにか?税制の基礎知識を解説!

近年、中小企業の経営者を中心に高齢化が年々進み、経営者の平均年齢は上昇しつつあります。2017年での平均年齢は69.3歳でした。経営者の平均的な引退年齢は70歳といわれているため、親子承継やM&Aによる事業承継の数が急増しています。この年齢に近しい経営者は、事業承継を意識している方が多いと思います。ここでは、事業承継にかかる税金について解説していきます。

これから事業承継を行う方、事業承継を検討されている方はぜひ参考にしてみてください。

事業承継で発生する税金

中小企業での事業承継時には、個人の相続という問題と切っても切れない問題がたくさん出てきます。いざ社長個人に相続が起こったときには、自社と個人の間の権利関係の問題や、法定相続人間の利害の不一致などがあらわになってきます。

 

また別に、切っても切れない問題が、税金です。事業承継を実施する際には、後継者のために税金対策を行う必要があります。事業承継の後に多額の税金を支払うと、経営に必要な運転資金が減少した、という事例は多数あがっています。

 

とりわけ中小企業であれば、税金は大きな負担となります。昨今、事業承継の形は多様化しています。親子や親族間での事業承継、役員や従業員への事業承継、またM&Aによる第三者への事業承継もあります。実は、この3パターンによって、事業承継時に発生する税金が異なります。ここでは、親子や親族間での事業承継時でのパターンを主として説明します。

 

事業承継にかかる税金には、以下の5つがあります。以下ではそれぞれの税金と課税対象について説明していきます。

相続税

贈与税

法人税

登録免許税

不動産取得税

――○相続税

ある人が亡くなったとき、その人が持っていた資産は配偶者や子などの親族に相続されますが、対象となる資産には相続税が課せられます。

相続税には累進課税制度が採用されており、相続される資産の額が大きいほど税率が高くなりますが、親族に相続する場合は控除制度があり、相続税額を抑えることができます

例えば、配偶者に資産を相続させる場合、相続額の1億6000万円については配偶者控除の対象になります。また、生命保険の相続では被相続人1人に対して600万円が控除されます。

ただし、相続税は現金で納めなければならないため、不動産など現金以外のものを多く相続する場合は納税についても考えておく必要があります。

 

――○贈与税

贈与税とは、贈与人が被贈与人に資産を譲渡したときに課せされる税金のことをいいます。贈与税も累進課税制度であり、贈与される額が高ければ課税される額は多くなります。

近年は日本人の寿命が延びており現役世代の所得が減少していることから、贈与税を控除できるケースが増えています。例えば、子や孫のための教育や住宅購入目的による贈与は控除対象となっています。

また、親族外贈与についても、2500万円を上限に控除される相続時精算課税があります。事業承継では親族内の後継者に対して贈与税が猶予されていましたが、平成30年の税制改正で後継者の範囲を広げ、親族外の後継者についても贈与税が猶予されるようになりました。

 

――○法人税

法人税とは、法人が得た利益に対して課せられる税金のことです。法人税は相続税や贈与税と異なり、法人の規模により一定の税率が課せられます。一般的な事業承継では法人税はかかりません。

ただ事業譲渡による事業承継の場合、売却益は法人が得ることになるため、それに対して法人税が課せられます。

 

――○登録免許税

登録免許税とは土地や会社の登記、資格登録などの登録に対して発生する税金です。登録免許税は、登記する対象によって税率が変わります。

土地の所有権移転の場合は土地の評価額に対して2%、会社の合併による移転の登記に関して0.4%、会社分割による登記は2%課税されます。事業承継ではさまざまな登録変更や登記変更が必要になるため、登録免許税は必ずかかるものになります。

ただし、事業承継税制で条件を満たした事業承継については、登録免許税が軽減されます。例えば、合併に関しては0.2%に、会社分割に関しては0.4%に、その他事業承継に伴う移転登記については2.0%から1.6%に軽減する措置が取られています。

 

――○不動産取得税

不動産取得税とは、土地や建物を取得したときに課せられる税金であり、不動産登記の有無にかかわらず課税されます。

土地や建物の取得については固定資産評価額の3%、住宅以外の家屋の取得に関しては4%課税されます。なお、贈与による不動産の取得の場合、不動産取得税はかかりますが、相続による取得の場合は不動産取得税はかかりません。

不動産取得税においても、事業承継税制により条件を満たした事業承継には軽減措置が取られており、土地や建物の取得は2.5%、住宅以外の家屋の取得は3.3%に減税されます。

 

次項では、読者の皆さんが特に気になるであろう、相続税贈与税について補足していきます。

 

贈与税

そもそも、贈与というのは、民法で「当事者の一方が自己の財産を、無償で相手方に与える意思表示をして、相手方が受託することによって、その効力を生ずる契約である」と定められています。つまり、あげる人が「この土地と現金をあなたにあげる」と伝え、もらう人が「わかりました。ありがとうございます。」と返事した時に契約が成立します。実は、この贈与、契約書などの書面は必要ではなく、口約束だけでも成立します。ただ、後々のトラブルを回避するためにも、贈与が大きい場合は、書面で残しておくことは推奨されます。

 

「贈与」と一口に言っても、いくつかに区別できます。

死因贈与

負担付贈与

暦年贈与

――○死因贈与

一般的なイメージでは、双方が生きているうちに受け渡す、といういわゆる「生前贈与」だと思います。ただ、「私が死んだら、1億円をあげます。」「わかりました。ありがとうございます。」というように、贈与者の死亡を条件とした契約も結ぶことが可能なのです。これを「死因贈与」といいます。

 

――○負担付贈与

贈与はなにも、プラスの財産だけとは限りません。例えば、「マンションをあげる。ただ、残りの住宅ローンも支払ってくれ」と、子どもに財産を贈与する代わりに、何らかの義務も同時に負担してもらおうという贈与のことを「負担付贈与」といいます。ここでの注意点は、不動産などの負担付贈与の場合は、相続税評価額ではなく売買時価で評価しなくてはいけないということです。

 

――○暦年贈与

暦年贈与、または暦年課税は、1年間(1月1日~12月31日)に贈与を受けた財産の合計額から110万円の基礎控除を差し引いた残額に課税するという、最もオーソドックスに財産を移転させる方法です。これは裏を返せば、1年間に110万円までの贈与を受けるのであれば、無税ということになります。

 

さらに、事業承継に当てはめてみると、贈与税は株式を譲った際に発生します。相続税対策で生前贈与を行った場合にも、発生する税金です。株式の贈与によって発生する贈与税も、一般の贈与税で使われるのと同じ税率が適用されます。ただし、事業承継の一環で株式贈与を進める場合、贈与税にはある程度気を付けておく必要があります。

 

株式は、贈与税の評価額当たりの税率が高いです。そのため、贈与する株式が多いと税金の負担がかなり大きくなります。また、贈与者が亡くなった場合、亡くなる3年前までの間に発生した贈与は、相続税扱いになります。つまり、相続税に加算されてしまうのです。株式の生前贈与を実施する際は、上記の点に留意しなくてはいけません。株式の生前贈与をするならば、経営者が元気なうちに実行しましょう。

 

相続時精算課税精度

相続時精算課税制度は、受贈者が贈与時に贈与税を支払い、その後の相続時にその贈与財産と相続財産を合計した価格をもとにして相続税を計算し、相続税からすでに支払った贈与税を控除するという制度です。

 

ケースによっては相当得になります。贈与から相続が発生するまでの間に価値が上がる可能性が高い場合は、財産の評価額を贈与時の低いままで固定させることができるため、結果として、納税額が減るというパターンです。ただ、確実に上がる見通しは難しいため、損になることもありえることを忘れないでいただきたいです。

この制度は、2,500万円までの贈与であれば相続時精算課税制度として贈与税は課税されません。ただ、それを超える贈与金額は一律して20%の贈与税が課せられます。

 

相続税

経営者が亡くなってから事業承継する場合には、相続税が発生します。事業やそれに付随する建物、設備、経営権を確保するうえで欠かせない株式など、事業承継ではさまざまなものを引き継ぎます。それらを承継する際には、一般的な財産の相続と同様、相続税が発生します。

 

事業承継で課される相続税では、個人での相続と同じ税率が設定されています。よって、税務署が公開している税率に合わせて計算すれば問題ありません。

 

相続税は対策が難しい税金でもあります。極端な話、経営者はいつ亡くなるかわかりません。突然経営者が亡くなった場合、相続税も突如として発生します。つまり、事前に準備をしていなければ、対策することはできないのです。

 

相続税の節税方法には、先に述べた「生前贈与」や、他には「評価額を減らす」などがあります。これは、現金をあらかじめ不動産などに変えておくことで、相続人に引き継がせる税金対策です。不動産は相続税の評価額が低いため、同じ金額分でも不動産に変えておけば、相続税を節税できます。

事業承継は、ただでさえ手間がかかるものです。経営者が突然亡くなった場合、事業承継のためにさまざまな手続きを行う必要があります。税金対策にせよ事業承継にせよ、経営者が健康なうちに完了させるのがおすすめです。

経営者が正常な判断をできる状態でなければ、理想的な事業承継は実現できません。また、後継者か相続人をしっかり決めておかなければ、相続争いで事業承継どころでなくなる可能性もあります。その点を踏まえて、事業承継および税金対策を実施しましょう。

事業承継の税金対策

後継者が会社の経営を引き継ぐときにも相続税がかかります。理由は、会社も財産としてみなされるからです。しかし、会社に対する課税額が大きいため、相続税を収めた後、会社を経営することが困難になる場合があります。

 

それを回避するために後継者は事業承継税制を利用することになります。この事業承継税制について解説していきます。

 

事業承継税制は、別名「相続税猶予のための税制」とも言われています。会社を引き継ぐときに一定の条件を満たせば、非上場株式分に対する相続税を猶予してもらうことができます。その条件には大きく分けて3つあり、いずれも満たす必要があります。

経営者自身の条件

経営する会社の条件

経営する期間の条件

――○経営者自身の条件

事業承継の際に支払う相続税を払う人がその会社の代表者であり、かつその会社の筆頭株主である必要があります。つまり、後継者が会社の運営を行う立場でないといけません。なお、相続税の猶予を受ける後継者は先代の親族である必要はありません。

 

――○経営する会社の条件

相続税猶予を受けるための会社の条件としては、中小企業でなければなりません。中小企業の定義については、中小企業基本法に記載されており、この条件に当てはまる中小企業者でないと、相続税猶予は受けられません。

 

中小企業者を対象に相続税の猶予を行っている理由については後で詳しく述べますが、簡単に述べると背景には、優良な中小企業程が莫大な相続税がかかることになります。中小企業は経営ができなくなり、日本経済が成り立たなくなる可能性があるため、事業承継税制を行っています。

 

――○経営する期間の条件

相続税の猶予を受けるために会社を5年以上経営する必要があります。会社を経営しているということを示すためには、事業承継税制で定義されている条件をすべて満たす必要があります。その条件の一例として、会社の代表者と会社の筆頭株主が5年間同じであること、5年間従業員数を約8割維持し続けることなどがあります。

 

会社を引き継いでから5年後以降は、会社の代表者である必要はありませんが、相続税を猶予され続けるためには、その会社の株主であり続ける必要があります。この条件が満たされることで一生相続税が猶予されることになります。

 

これら3つ以外の条件は以下があります。

企業規模:資本金3億円以下もしくは従業員300人以下(小売・卸売・サービス業除く)に該当

経営者:会社の代表取締役であること

後継者:会社の代表取締役でかつその会社の筆頭株主になること

対象株式:後継者に相続された該当する会社の非上場株式

期間:5年間

この「事業承継税制」の詳細は別稿に譲るものとします。

 

さいごに

いかがでしたでしょうか。

事業承継を実施される際には、事業承継の後に多額の税金を支払わなくてもよいよう、税金対策をご検討ください。

 

また、本稿でも触れているよう、事業承継では株式や事業だけでなく資産の引き継ぎが必要なケースも多いです。売買や贈与、相続を行う際に必要となる税金の具体的な算出方法を解説した別稿がございますので、そちらもご参考になさってください。

 

事業承継における資産の引き継ぎ 売買・贈与・相続と税金の基礎知識

事業承継ラボ

日本は大廃業時代に突入するとも言われ、 「事業承継」をいかにうまく行うか。そして、次の世代交代で新たなチャレンジを「IT」と「マーケティング」を活用して実施していく必要がある。 そんな、チャレンジングな強い日本企業の成長を支えて行きたいと考えています。 Facebook URL https://www.facebook.com/jigyoshokeilabo/ Twitter URL https://twitter.com/jigyoshokeilabo