新社長は親族でなくても、旭川信金などが「禅譲」支援
旭川信用金庫(北海道旭川市)と日本政策金融公庫は貸衣装業の駒屋(同)に対し、親族以外への事業承継のための株式取得や運転資金として1億円超を協調融資した。中小企業の事業承継は経営者の高齢化や後継者難で難しくなっている。親族以外の人材への円滑なバトンタッチとして、中小企業のモデルケースになる可能性がある。
「着物など商品に対する価値観が同じだった」。2017年秋、子供がおらず70歳代後半だった駒屋の創業者は、取引先として10年近く付き合いがあった坂口純氏に後継を打診。京都市に本社を置く着物卸の札幌支店長だった坂口氏は悩んだというが「挑戦しようとの思いが強かった」といい、転身を決意した。
事業の継承には株価対策など円滑な経営権の禅譲が欠かせない。今回活用したスキームでは、坂口氏個人に対する株式取得資金について旭川信金と公庫が協調融資する。両者によると北海道信用保証協会による「特定経営承継関連保証」が付いたのは道北初といい、法人の駒屋にも運転資金などを融資。融資額は計1億円以上に上る。
45歳の坂口氏は当初、札幌商工会議所を通じて日本公庫と地元の旭川信金に相談。税理士、司法書士を交えてバトンタッチへの手続きを慎重に進めてきた。「40年以上にわたり一代で築いた、創業者の会社への思いに応えたい」と坂口氏。継承の手続きには1年近くを要し「地道で大変だった」と振り返る。
18年12月、社長に就任。1976年設立の駒屋の売上高は1億円(19年6月期)と、ここ数年は横ばいにとどまる。結婚式に対する考え方が変化してウエディングドレスなど婚礼関連が低迷する一方、成人、卒業式の振り袖、袴(はかま)レンタルが伸びている。
同社は本社1階の試着スペースで客に着物が見えるようにレイアウトを変更し、訪れた顧客が選びやすいようにした。高齢から事業の継続に不安を抱えていた前社長時代から一転、坂口氏は「まず札幌に営業攻勢をかける」と意気込む。
旭川信金は親族以外への承継、個人への融資が今後増えると見ている。「代表者の変更登記さえすればよいと考え、株主変更などについて問題意識を持たない経営者も多い」(旭川信金)。こうした実務や事業環境の分析に明るい金融機関の出番というわけだ。
帯広信用金庫など道内13信金で構成する一般社団法人、しんきん事業承継支援ネットワークは、事業承継が優先課題となる65歳以上の取引先社長へアンケート調査を実施した。「後継者を決定している」とした回答は、「後継者は決定していないが候補者はいる」などを含め計79%。「後継者、候補者ともいない」「廃業を検討」の計20%を引き離す。
一方、交代時期を「決定している」は5%どまりで、8割以上は未定。事業承継の際の課題として「事業の先行きが不安」がトップの29%、「社長自らの決心がつかない」が17%あった。
経営者の悩みは広く、経営の代替わりについては漠然としたイメージしか持たないケースも多い。同ネットワークでは「しっかり継承できるよう社長の本音を引き出し、第三者の立場で適切な意見が言える相談相手が必要だ」と指摘する。
(大槻亨)
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