個人事業主が事業承継を行う際に抑えておくべきポイントとしては、事業のために利用した固定資産の扱いについてです。
例えば車や建物といった固定資産は「減価償却」という手続きによって資産価値を目減りさせていき、減耗の程度を帳簿上に反映させていきます。
実際に支払ったわけではないけれど「費用」として計上できる、非常に便利な経費のひとつが減価償却費なのです。
これによって、目に見えない消耗や価値の低下を数字で管理できるのですが、個人事業の場合は
「事業は後継者に継承したけれど、資産はこれからも変わらず利用する」
といったケースが生じやすいです。
それでは、後継者となった方は、事業用に利用している建物をどのように扱えば良いのでしょうか。
建物や備品にかかる減価償却はどのように計上すればよいのか、わからなくなってしまいますよね。
よくある例として、自宅と事務所が一緒になっている個人事業主の場合を考えてみましょう。
事務所を利用して事業を行っていた方が後継者に事業承継を行った場合、自分はこれからも自宅に居住し続けることになります。また、土地や建物の所有権(名義)も、承継しなかった場合は先代経営者が保有し続けることになるでしょう。
しかし、後継者となった方は事業用に土地や建物を利用しなければなりません。
その場合、固定資産を後継者の方に譲らなければならないように思えますが、そうなると事業承継で引き継ぐ資産が高額になってしまいます。
また、先代経営者の所有権が失われてしまうことになるでしょう。
こういったデメリットを防ぐためには、個人事業主に特有の事業承継の方法を理解しなければなりません。
次章で、事業承継のケースごとに詳しくみていきましょう。
個人事業を事業承継した場合、ケースによって減価償却を生じさせる方法は以下の2つに分かれます。
それぞれ詳しくみていきましょう。
建物などの固定資産ごと事業承継した場合、所有権も一緒に受け継ぐことになるので通常通りに減価償却の手続きを済ませられます。
しかし、建物や車両運搬具だけでなく、工場や土地、施設を承継する場合は資産価値が高くなりがちなので、贈与税や相続税が高額になってしまうのです。
そのため、個人事業を事業承継するケースでは次に紹介する方法を選ぶ事業主の方が多くいらっしゃいます。
固定資産の所有権を先代の経営者が依然として保有したまま、事業のみ承継するケースがほとんどです。
一見すると後継者が事業を行えなくなってしまうのではないか、と思えますが、事業で必要となる建物や車両運搬具、工場、土地、施設といった固定資産を「借り受ける」形にして、対価を支払うことで、これまで通りに事業を維持します。
こうした場合でも、事業のために固定資産を賃貸借しているので帳簿上は減価償却費を発生させられるのです。
高額な資産の承継を挟まないので、贈与税や相続税が高額になりにくく、個人事業の事業承継でおすすめの手法と言えるでしょう。
個人事業主が事業承継を行う際に気をつけたいのは「贈与税の計算方法」です。
個人事業主の事業を承継する際は特に「事業用」の資産と負債をしっかりと切り分けなければなりません。
資産とは、売掛金や当座預金といった流動資産に加えて、先ほど紹介した固定資産まで含んだ「利益を生むためのモノ」の総称です。
反対に負債とは、借入金や未払金といった流動負債に加えて、減価償却費累計額などの「資本を減少させるモノ」の総称となります。
贈与税は資産から負債を差し引いた金額を課税額として計算します。
贈与税には110万円の控除枠があらかじめ設けられているので、もし課税額が110万円を超えなかった場合は、建物や車両運搬具についても贈与してしまって問題ありません。
110万円を超えた金額については贈与税がかかりますが、所得税同様に累進課税制度を取っているため、少額であればさほど大きな税負担にはならないでしょう。
また、個人事業を事業承継する際の贈与税や相続税を非課税にできる制度として事業承継税制というものも存在します。
特定の条件を満たせば贈与や相続にかかる税金を猶予・免除してもらえる制度なので、ぜひ参考にしてみてください。
個人事業の事業承継では減価償却だけでなく様々な引き継ぎ上の手続きが必要となります。
後継者の教育も含めて一人で行おうとすると、本業に回す手が足りなくなったり、上手く事業承継が進められなかったりといったデメリットが生じる可能性もあるでしょう。
税制や事業の引き継ぎの専門知識がない場合はとくに事業承継のハードルが高くなってしまうので、個人事業の事業承継は専門家に依頼するのが得策です。
当メディアでは他にも事業承継で抑えておくべきポイントについて解説する記事を多数掲載しているので、ぜひ参考にしてみてください。