事業承継を行う際は、後継者へ経営権を委譲する手続きを踏まなければなりません。
具体的には株式の譲渡や相続を行って、経営権を継承させます。
先代の経営者が存命のうちに親族へ事業を承継する場合は、株式を譲渡してもらう形で事業承継を進めるケースが一般的でしょう。
ここでは、株式を譲渡する際の手順を詳しく紹介していきます。
まず、事業承継を果たすためにどれだけの株式を譲渡してもらえばいいのか、という点について理解しなければなりません。
安定した経営を行うためには100%の株式を保有しているのが理想です。自社株を全て保有していれば、株主総会を開いたとしても自分の思い通りに経営を進められるでしょう。
もし100%の保有が難しい場合は、最低でも全体の51%以上の株式を獲得するように心がけます。
経営方針や約款を定める株主総会においては、出席した議決権を行使できる株主のうち過半数以上の賛成をもって会社の決定とみなされるので、最低でも51%の株式は保有しておきたいところです。
さらに、企業を経営していく上では需要事項(役員の解任や他社との合併)を決断しなければならない場合も出てくるでしょう。
こういった重要事項の決定権を得るためには、最低でも全体の2/3以上の株式を保有しておかなければなりません。
議決権を獲得できなくなってしまうと、せっかく事業承継が上手くいっても思い通りの経営ができなくなる可能性がありますので、まずは獲得すべき株式の数を算出するところから始めましょう。
また、株式を後継者に譲渡するためには譲渡承認請求を行い、承認してもらう必要があります。
事業承継で後継者となる方へ株式を譲渡するには、企業の意思決定機関で「譲渡承認請求」を承認してもらわなければなりません。
企業の意思決定機関がどのような形で設置されているかによって手続きの内容は変わっていきますが、一般的には取締役会、取締役会がなければ株主総会が意思決定機関としての役割を持っているので、事業承継する企業にあわせて譲渡承認申請を進めましょう。
また、このような手順を踏む理由は、譲渡制限株式に由来します。
中小企業の多くは非公開会社ですが、非公開会社の株式は「譲渡制限」が設けられており、日本の会社法第136条から139条にかけて細かな規約が制定されています。
譲渡承認申請の手順は以下の通りです。
株式を譲り受ける方の氏名や名称を明らかにする
といった流れで譲渡制限株式を譲り渡すことになります。
株式の譲渡によって事業承継を完了させる場合、相続に比べてどのようなメリット・デメリットがあるのでしょうか。
先代経営者と後継者の両者の立場から、メリットやデメリットを見ていきましょう。
先代の経営者や後継者は、株式の譲渡によって事業承継すると以下のようなメリットを得られます。
株式譲渡で事業承継を済ませるメリットは、株式を現金化できるという点にあるでしょう。
老後の資金を獲得したり、新たな事業にチャレンジするための元手にしたりと、まとまった金額が手に入るので様々な用途で利用できます。
後継者が株式譲渡で事業承継を行う最大のメリットは、経営を軌道に乗せやすくなるという点です。
相続によって事業承継を行うと、先代経営者が亡くなった状態から事業をリスタートさせなければなりません。
事前に準備しておかなければ、浮足立った社内の環境を整えつつ経営権を確立するのは至難の技でしょう。
先代経営者が存命であればアドバイスを求めることもできるので、事業承継後に経営がしやすくなるというメリットがあります。
次に、株式譲渡で事業承継するデメリットについても見ていきましょう。
先代経営者にとって、株式譲渡で事業承継を済ませるデメリットは、株式譲渡で得た譲渡所得に所得税が課されることです。
株式譲渡では高額な資産が移動するため、比例して譲渡所得も大きくなってしまいます。
譲渡所得には経費が設定されているので、上手く経費を利用すれば節税に役立てることができます。
経費とは「取得にかかった費用」のことです。
つまり株式を取得するためにいくら捻出したのか、ということですが、創業者の場合は「資本金」が経費にあたります。
株式を売却して得た金額から資本金を差し引いたものが譲渡所得となりますが、もし資本金の金額が分からない場合は概算方法として「売却価格の5%」を経費として算入することが認められているので、参考にしてみてください。
また、こういったデメリットを排除するために「事業承継税制」が導入されており、特定の条件を満たせば非課税にすることもできます。
事業承継の手順とあわせて理解しておくと節税効果を高められるでしょう。
後継者にとって、株式譲渡で事業承継を済ませるデメリットは、株式を買い取るための資金を調達しなけばならない点です。
買取資金を用意できない後継者も多く存在するため、事業承継がうまく進まないケースも散見されます。
こういった背景を受けて、「経営承継円滑化法」が導入されました。
この制度を利用することで、特定の条件を満たした場合は日本政策金融公庫から買取資金の融資を受けられます。
株式の譲渡で事業承継を進めるための手順について紹介してきましたが、ここからは気をつけておきたい注意点について解説していきます。
ポイントは大きく2つです。
それぞれ詳しく見ていきましょう。
近年はさらに事業承継が注目を集めるようになり、中小企業や個人事業主の事業承継を推し進めるために様々な税制優遇が行われています。
なかでも抑えておいてほしいのが「特例事業承継税制」です。
贈与や相続によって事業承継を果たした場合は株式を後継者に引き継ぐことで事業承継を行いますが、贈与や相続においてはそれぞれ贈与税や相続税がかかってしまうため、事業承継直後に多額の税負担が強いられてしまう背景がありました。
新たな事業を打ち出したり、経営改革を行ったりするためにも資金は大いに越したことはありません。
しかし、重くのしかかる税負担が事業承継に向かう足を鈍化させている、と政府が判断し、特定の条件を満たした場合は贈与税や相続税を非課税にする特例事業承継制度が始まったのです。
こうした節税効果を生む施策は、理解しているといないでは大きな差が生じてしまいます。
事業承継を有利に進めるためにも、この機会にぜひ事業承継税制について理解しておきましょう。
事業承継を行う際に気をつけたいのが「タイミング」です。
株価だけでなく企業内の雰囲気や後継者のモチベーションなど、事業承継の成否を分ける要素が多岐にわたるためタイミングを見極めて承継することが成功の鍵となります。
一般的には、株価が下がったタイミングで事業承継を進めるのがセオリーですが、後継者の育成が不十分だったり、社内の雰囲気が悪かったりする場合は要注意です。
事業承継で大切なのは承継することではなく、承継後に「維持・発展」していけるかどうか。
未来を見据えて事業承継を進めるためには、豊富な知識とノウハウを有した事業承継の専門家に依頼するのが最も近道と言えるでしょう。
事業承継を株式譲渡で進める際の注意点や手順、メリットなどについて紹介してきました。
会社法の理解や税金対策など「取り組まなければならないことが山積みだ…」という感覚を覚えた方も少なくないでしょう。
こういったハード面の手続きに加えて、社内環境の整備や後継者の育成などのソフト面も手がけなければならないので、事業承継は段取り良く進めていかなければなりません。
事業承継の専門知識と確かなノウハウを有した専門家に依頼すれば、ハード・ソフトの両方から適切なアプローチを行い、事業承継後の経営も見据えた事業承継が可能になります。
事業承継で悩んでいる方は、いちど専門家に相談してみることがおすすめです。