贈与税がかからなくなる「事業承継税制」を理解すれば、中小企業や個人事業の経営権を後継者へ譲り渡す際にかかる贈与税がかからなくなります。
しかし、未だ発布されてから日が浅かったり、会社法や税法の詳しい知識がない方では読み解きにくかったりといった背景もあり、詳しい内容まで理解している方は少ないのではないでしょうか。
この記事では、事業承継を贈与によって行う方に向けて事業承継税制の内容をわかりやすく解説しています。
10分ほどで読み終わるので、ぜひお付き合いください。
事業承継の方法は大きく「譲渡」か「相続」の2種類
事業承継の方法は具体的に2つに大別されます。
すなわち「譲渡」と「相続」ですが、いずれの方法を選んだにせよ贈与税や相続税の支払いが必要になり、譲渡の中でも株式の買取を選んだ場合は株式の購入資金を用意しなければなりません。
こういった費用を抑えるためには、譲渡の中に含まれる「贈与」という手段を選ぶことになります。
贈与とは、無償で資産を譲り渡すことです。
贈与によって事業承継を完了させるには、経営権の証である株式を後継者に贈与しなければなりません。
また、事業を存続させるための固定資産なども一緒に贈与しなければならないので、通常の方法で贈与をすると高額な贈与税を支払わなければなりません。
節税効果を得ながら事業承継するためにも、株式を贈与する際の手順を詳しく知ることが大切です。
事業承継を贈与で進める際の手順を紹介
株式を贈与して事業承継を進めるには、いくつかの手順を踏まなければなりません。
- 贈与で事業承継を進めるために課税方法を選択する
- 自社株の贈与契約書を作成する
- 譲渡制限をクリアするために譲渡承認申請を行う
- 取締役会もしくは株主総会を招集して承認する
- 法人税申告書別表二の「株主」欄を変更する
これらの手順を詳しく解説していきます。
まずは株式を贈与する際に気をつけなければならない「課税方法」について見ていきましょう。
贈与で事業承継を進めるために課税方法を選択する
贈与によって事業承継を進めるためにまず考えなければならないのが「課税方法」の選択です。
贈与税は高額になりやすく仕組みも複雑なので、適当に課税方法を選択するとせっかく得られたはずの節税効果が得られず、事業承継後に重い税負担が強いられてしまいます。
事業の展開や新規事業の打ち出しにも支障を来してしまうので、課税方法は慎重に選ぶことが大切です。
贈与税の算出方法は大きく3つに分かれます。
- 暦年単位課税
- 相続時精算課税制度
- 非上場株式等についての贈与税の納税猶予制度
いずれかの制度を利用して株式を贈与し、事業承継を進めることになります。
通常は暦年単位課税によって贈与税を算出して納税しますが、事業承継を行ったあとに事業を維持・発展させていく必要があるので、なるべく承継直後に税負担がのしかかるのは避けたいところです。
そこで注目されるのが「相続時精算課税制度」と「納税猶予制度」でしょう。
相続時精算課税制度を利用すると、贈与税はいったん非課税として扱われ、贈与した方が亡くなった際に相続税と合算して納税することになります。
贈与直後に税負担を負いたくない場合は相続時精算課税制度を利用するのもよいでしょう。
しかし、相続時精算課税制度を選択すると暦年単位課税を選べなくなってしまうので注意が必要です。
暦年単位課税の方が税額は低くなるので、どちらの方法を選んだとしてもメリットやデメリットが生じます。
残った納税猶予制度は、贈与税や相続税を猶予・免除するための制度です。
利用しない手はありませんが、特定の条件をクリアしなければならないのでこちらも注意する必要があります。
中小企業庁が発表している事業承継の際の相続税・贈与税の納税猶予及び免除制度によると、納税猶予制度を利用して贈与税を非課税にするには、以下の条件をクリアしなければなりません。
- 中小企業者であること(規定の資本金以下であること)
- 先代経営者が会社の代表者であること
- 後継者や後継者の親族が事業承継前に総議決権の過半数を有し、後継者が筆頭株主であったこと
- 先代経営者が贈与後に代表の座を退任していること
- 後継者が20歳以上であること
- 後継者が贈与前に3年以上役員として勤務しており、代表であったこと
これらに加えて、納税猶予の期間を延長するためには後継者の経営状態についても細かな審査基準が課され、クリアしていない場合は利子税を含めて贈与税を支払わなければなりません。
納税猶予の申請が通ってから5年間は、以下の基準が課されます。
- 後継者が会社の代表者であること
- 雇用の8割以上を5年の間平均で維持すること
- 後継者が筆頭株主であること
- 上場や風俗営業に該当しないこと
- 猶予対象となった株式を継続保有していること
- 資産管理会社に該当しないこと
5年が経過したあとは、以下の基準が課されます。
- 猶予対象となった株式を継続保有していること
- 資産管理会社に該当しないこと
また、猶予が5年間継続し続けた場合、以下の条件を満たせば贈与税の支払いが免除されます。
- 代表者が死亡した場合
- 代表者がやむを得ない理由で代表権を失い、後継者に猶予継続贈与を行った場合
- 破産手続きの開始または特別清算の開始
こういった制度を利用すれば、贈与税を支払わずに事業承継を果たすことも可能です。
事業承継と贈与税の関係が理解できたところで、具体的な方法についてみていきましょう。
自社株の贈与契約書を作成する
贈与契約書を交わすことで、株式の贈与があったことを証拠として遺すことができます。
また、譲渡人と譲受人の間でお互いに意思表示がなされていたことを裏付ける意味も含まれているので、贈与によって事業承継を果たすためには欠かせない手順です。
譲渡制限をクリアするために譲渡承認申請を行う
非上場企業(非公開会社)の株式は、基本的に譲渡制限株式と呼ばれるものです。
上場企業の株式のように無条件で売買できないような取り決めが課されており、代表者から後継者への贈与の場合であってもそれは変わりません。
贈与によって株式を譲渡する場合は「譲渡承認申請」を企業の意思決定機関へ提出しなければならず、意思決定機関は企業によって異なります。
取締役会もしくは株主総会を招集して承認する
取締役会を設置している場合は取締役会が意思決定機関となるので、取締役会で譲渡承認申請を承認します。
しかし、中小企業の中には取締役会を設置していないケースもあるでしょう。
取締役会が設置されていない場合は株主総会が意思決定機関としての役割を持つので、株主総会を招集し、承認してもらう必要があります。
法人税申告書別表二の「株主」欄を変更する
法人税申告書には株主欄が設けられており、自社株を保有している株主の情報を記載しなければなりません。
株の保有者が変更された場合は上書きする必要があるので、事業承継が完了したあとは法人税申告書にも変更を加えましょう。
事業承継を贈与で進める際に気をつけるポイントは?
贈与によって事業承継を進める手順について紹介してきましたが、他にも気をつけなければならないポイントが存在します。
ここからは事業承継と贈与の関係性について、注意しておくべきポイントについて詳しくみていきましょう。
贈与税の仕組みを理解する
贈与によって事業承継の手続きを進める際は贈与税の仕組みを理解する必要があります。
国税庁が贈与税がかかる場合の計算方法を紹介しているので、こちらを参考にしながら計算方法を簡単に紹介しましょう。
まず前提として、贈与税を支払うのは「贈与した人」ではなく「贈与された人」です。
相続税の支払い方法を選択したり、納税額を申告したりする場合は、贈与があった翌年の2月1日から3月15日の間に申告と納税を済ませなければなりません。
延納や猶予を希望する場合は、申告書の提出期限までに税務署に申請書を揃えて提出する必要があるので、あらかじめ準備を整えておきましょう。
事業承継税制でさらに節税効果を高める
事業承継税制を利用することで、相続税や贈与税を非課税にできますが、これは先ほど紹介した「納税猶予制度」のことです。
事業承継で扱われる資産は高額になりがちなので、こういった節税に役立つ制度を理解して利用することで大きな節税効果が得られるでしょう。
贈与の仕組みを理解してスムーズに事業承継を進めよう
事業承継と贈与の関係性や、贈与による事業承継の手順について解説してきました。
事業承継をスムーズに行うためには、様々な節税制度や税金の仕組み、会社法、人材の育成などを包括的にケアしていく必要があります。
これらを経営者と後継者だけでまかなうのは難しい反面、どれかを疎かにしてしまうと事業承継をうまく進められなかったり、承継後の事業が芳しくなくなったりといったデメリットを被ってしまうでしょう。
事業承継の知識やノウハウを有した専門家に依頼することで、企業内部の環境作りから外部の手続きに至るまで包括的なサポートが受けられます。
事業承継をお考えの方は、ぜひ一度専門家に相談してみてはいかがでしょうか。
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