零細企業ならではの経営体制や慣習が事業承継を難しくしています。ポイントを整理してみましょう。
経営者の一存で迅速に物事を処理したり、経営者個人の発想、技術力、魅力、人脈によって活力ある事業を展開していくというのは、零細企業ならではの強みです。しかし裏を返せば、経営者個人と切り離しがたい経営資源に基づいて暗黙のうちに事業が展開されているという側面が強いと言えます。
そのため、事業承継においても言語化できない微妙な側面の咀嚼や対面での関係構築が大きく物を言うことになります。会社の「仕組み」を引き継いだだけではうまく行かないのが零細企業なのです。
業績のよい零細企業でも、経営者の「なんとなく」の采配で成り立っている場合が多々あり、会計が曖昧で、経営状況や資金の流れが見えにくいこともしばしばです。これでは後継者が困りますし、事業売却による承継を考える場合には買い手にアピールしにくいということになります。
親族(とくに息子)が中小零細企業の事業を引き継ぐのがかつては一般的でした。みずほ情報総研の調査(※2)によると現在でも半数程度が親族内承継ですが、この慣習はますます崩れてきており、一方でM&A(事業合併・買収)などの新たな承継方法がまだ浸透しておらず、「やる気・能力のある親族がいない」ために廃業を選択している例がかなりあります。調査で「もともと自分の代で廃業するつもりだった」と答えた経営者のなかにも、旧来の承継手段しか念頭にない人が数多く存在するのではないかと思われます。
上のような問題に対し、どのような対策が考えられるかをまとめてみます。
無形の経営資源は一朝一夕には引き継げません。現経営者が時間をかけて事業を培ってきたように、後継者候補もじっくりと知識・経験・関係を積み上げ、経営資源を活かせるだけの底力と地歩を築いていく必要があります。
引退時期が見えてきてからやっと「そろそろ誰かに」などと承継対策を考えだすのでは、遅きに失することになるでしょう。理念・技術・ノウハウの伝達、同業他社・異業種での実務修練、資格取得、同業者・取引先との関係構築などを通し、後継者育成を長期的な視点で計画的に行っていくことが大切です。
会計処理を明朗にし、会社資産と個人資産を明確に分け、経営分析を通じてコストや自社の強み・弱みを把握するといった対策を行っていくことが有用です。これらは承継をスムーズにするだけでなく、会社の市場価値を高め、従業員や取引先への責任を果たすことにもつながります。
自社には引き継ぐだけの価値がないと判断したのならまだしも、「親族に適当な後継者がいない」という理由で廃業するのは経営者個人にとっても社会にとってももったいないことです。
社内の有能な役員・従業員を後継者候補にすれば、育成もやりやすく、取引の引き継ぎもスムーズに行きやすいというメリットがあります。また、承継者を社外に求めればより広い選択肢を得ることができ、事業売却による利益も期待できます。廃業を選ぶ場合にも、一部の資源を譲渡するという選択肢があります。
たとえ血縁に伝えることはできなくても、築き上げた経営資源が社会の活力の一部として受け継がれていくことは大変有意義なことです。
零細企業の事業承継には零細企業ならではの難しさがあり、廃業を選択する割合も多いのが実情です。しかし承継対策を早期にかつ計画的に行えば、望ましい承継につなげることができるだけでなく、事業をさらに磨き上げるきっかけにもなります。
そのためには何より経営者の取り組みが重要ですが、考慮すべきポイントが多岐にわたるため判断が難しい面があるかと思われます。公認会計士や税理士、あるいは事業承継の問題を総合的にサポートする事業承継士に相談してみるとよいでしょう。
参考URL
※1)2019年版「中小企業白書」第2部第1章
https://www.chusho.meti.go.jp/pamflet/hakusyo/2019/PDF/chusho/04Hakusyo_part2_chap1_web.pdf
※2)みずほ情報総研(株)「中小企業・小規模事業者の次世代への承継及び経営者の引退に関する調査」(2018 年 12 月)(※1に引用)