こんな悩みを抱えている経営者の方も少なくないでしょう。
税金や法律に関係する手続きがあるために、事業承継の手続きをすべて自社内で行うのは簡単ではありません。そんな難しい事業承継を行う際に役立つのが「事業承継マニュアル」です。
この記事では、事業承継マニュアルを読むメリットや具体的な記載内容を10分程度でわかりやすくお伝えします。
中小企業庁が公表している事業承継マニュアルとは?
中小企業庁は、中小企業のスムーズな事業承継をサポートする目的で、「事業承継マニュアル」を作成・公表しています。
この章では、そんな事業承継マニュアルの大まかな内容や読んで得られるメリットを見ていきましょう。
◯事業承継マニュアルって何だろう?
事業承継マニュアルとは、事業承継を進める上で役立つ情報をわかりやすくまとめた参考書のようなものです。
中小企業庁が作成した「事業承継ガイドライン」の内容を、図表やイラストを用いてよりわかりやすく説明したものとなっているため、法律や税務に関する専門用語を知らない方でも理解しやすくなっています。
事業承継マニュアルは、平成28年12月に改定された事業承継ガイドラインに基づいて内容が構成されており、事業承継計画の策定方法や後継者の教育方法といった基本的な内容に加えて、近年増加しているM&Aによる事業承継も説明されているので、ぜひ確認してみましょう。
◯事業承継マニュアルを読んで得られるメリット
事業承継マニュアルを読めば、現在置かれている状況で何をすべきかを明確にできます。後継者の対象や資金力などによって、経営者が準備すべき内容が変わってくるので、自社の状況に置き換えながら読み解いていきましょう。
事業承継マニュアルの内容〜構成と各章で大事なポイント〜
事業承継マニュアルでは、4つの章によって事業承継を進める上で役立つ情報が説明されています。
ここからは、各章で説明されている内容と特に大事なポイントを見ていきましょう。
◯第1章:アウトライン
事業承継マニュアルの第1章「アウトライン」では、昨今の中小企業が抱える事業承継の課題(後継者不足など)や事業承継で引き継ぐ3つの資産、事業承継の手順が説明されています。
この章を読めば、「事業承継で中小企業が陥りがちな課題」や「事業承継で経営者・後継者が行うべきこと」を理解できるでしょう。
第1章で大事なポイントを以下に紹介します。
①中小企業が事業承継に関して抱える課題
まずは、中小企業が事業承継に取り組む際に抱える課題を理解するところから始めましょう。
- 後継者不足
- 事業承継の先送り
これらの課題について整理し、事業承継の準備を整えます。
②事業承継で引き継ぐ資産
中小企業が事業承継に取り組む場合、様々な資産を後継者に引き継がなければなりません。
大きく分けると、引き継ぐ資産は次の3つに分類されます。
- 人(経営権など)
- 資産(株式や機械設備など)
- 知的資産(経営理念や技術など)
これらの資産がどれだけあるのか、どのように引き継ぐのか確認しながら、自社内の状況を整理していきましょう。
③事業承継のステップ
自社内の状況を理解したら、事業承継の手順を確認していきます。
事業承継の手順を大まかに説明すると、以下のような流れになるでしょう。
- 事業承継の必要性の認識
- 経営課題などの見える化
- 経営改善
これらの準備を踏まえた上で、実際に事業承継の手続きに進みます。
- 事業承継計画の策定またはM&Aの相手探し
- 事業承継またはM&Aの実行
細かな事業承継の手続きについては、以下の記事を参考にしてみてください。
参考:事業承継の基礎知識 後継者の選び方やノウハウ、必要な資金、スケジュール、専門家・協会をまとめて解説
◯第2章:事業承継計画
事業承継マニュアルの第2章「事業承継計画」は、事業承継計画の策定目的や策定のコツ、策定のプロセスなどについて具体例を用いつつわかりやすく説明しているものです。
この章を読めば、事業承継の計画をスムーズに作成できる上に、今後事業承継を進める上で行うべきことを具体的にイメージできるようになります。
第2章で大事なポイントを見ていきましょう。
①事業承継計画を策定する目的
まずは事業承継の計画を策定するとどのようなメリットが生まれるのか抑えておくことで、事業承継の目的を果たしやすくなります。
あらかじめ計画を立てる理由は以下の2つです。
- 経営者と後継者の間で認識をすり合わせる
- 事業承継のスムーズな実行
これらを意識しながら事業承継の計画を立てていきます。
②事業承継計画を上手に策定するコツ
事業承継の目的を果たすためには、引き継いだあと、自社がどのような道を進むのか見据えておかなければなりません。
事業承継の計画を立てる際には、以下のポイントに注意しましょう。
- 経営者のみならず後継者や親族、取引先や従業員のことも考慮する
- 10年後のあるべき姿を見据える
- これまでの事業運営や経営者の想いを整理する
これらの点に注意しつつ、事業承継の計画を立てていきます。
③事業承継計画の策定プロセス
ここからは、実際に事業承継の計画を立てる手順を紹介していきます。
- 中長期的な目標を設定する
- 事業承継に向けた経営者の行動を設定(後継者選定や遺言作成など)
- 事業承継に向けた後継者の行動を設定(社外での実務経験や社内での研修など)
- 事業承継に向けた会社の行動を設定(定款変更や議決権の集約など)
- 事業承継計画を関係者の間で共有する
◯第3章:事業承継を成功させるアクション
事業承継マニュアルの第3章「事業承継を成功させるアクション」では、後継者の選び方や教育方法、経営権の分散や税負担の対策、資金調達の方法、M&Aによる事業承継の要点などが説明されています。
この章を読めば、個々のケースで生じる課題に対して的確な対策を行えるようになるでしょう。
第3章で大事なポイントは以下のとおりです。
第3章はボリュームが多いため、今回は大切なポイントの一部をご説明します。より詳しく知りたい方は、事業承継マニュアルの18ページ〜45ページを参照してみてください。
①後継者の教育方法
後継者の教育方法を知らなければ、後継者の教育が上手くいかずに事業承継が失敗するリスクが高まります。
どのような教育方法を採れば良いのか見ていきましょう。
- 各部門をローテーションさせる
- 他社での勤務を経験させる
- 責任ある地位で働かせる
これらは一例であり、業種や職種、社内の状況などによっても適切な教育方法は異なるでしょう。
「どのように後継者を育てればよいのか分からない」という方には、専門家にコンサルティングを依頼し、適切な教育方法を一緒にプランニングしていくことをおすすめします。
②経営権の分散を阻止する方法
事業承継後に経営権が分散してしまい、後継者が経営の実権を握れないケースも少なくありません。
ここからは、上手く後継者へ経営権を譲り渡す方法を紹介します。
- 自社株式の生前贈与
- 遺言の作成
- 種類株式の発行
事業承継は自社株を後継者に譲り渡すことで完了しますが、経営権を握るために必要な株数を譲り渡していなければ、後継者が思い通りの経営に臨めなくなってしまうでしょう。
必要な株式の数や株式譲渡の方法について詳しく知りたい方は、以下の記事も参考にしてみてください。
参考:株式譲渡で事業承継する手順と注意点を紹介!贈与と譲渡の違いも解説します
③税負担を軽減する方法
税負担を軽減する方法を知っておくと、事業承継時にかかる相続税や贈与税を節税できる可能性があります。
中でも事業承継税制を利用すれば相続税や贈与税が非課税になるケースもあるので、ぜひ理解しておきましょう。
- 事業承継税制の活用
- 小規模宅地等の特例の活用
事業承継税制を利用したい事業者や中小企業は、いくつかの条件をクリアしていなければなりません。
条件や手続きについて詳しくまとめた記事があるので、ぜひ参考にしてみてください。
参考:事業承継でかかる費用を知る 特例事業承継税制や補助金まで
◯第4章:中小企業の事業承継をサポートする取り組み
事業承継マニュアルの第4章「中小企業の事業承継をサポートする取組」では、事業承継で悩んだ際の相談機関が説明されています。
相談内容別にオススメの相談先が説明されているので、事業承継マニュアルを読んでも分からない部分については、オススメされている機関に相談すると良いでしょう。
今回は事業承継マニュアルに載っている中から、主要な相談機関をいくつか紹介します。
- 相続税や贈与税の相談→税理士
- 資金調達に関する相談→金融機関や信用保証協会
- 後継者探しの相談→事業引継ぎ支援センター
- 事業内容や経営戦略に関する相談→商工会議所
このように、相談内容によって推奨される相談先は異なるので、悩みの原因ごとに相談先を選定して尋ねてみるのがよいでしょう。
今回は事業承継マニュアルの内容から、とくに大事な部分を抜粋して説明しました。
よりくわしく事業承継マニュアルの内容を知りたい方は、下記のリンクから読むことができますので、ぜひ参考にしてみてください。
まとめ
事業承継マニュアルでは、節税の方法や事業承継計画を策定するコツなどがわかりやすく説明されています。
役立つ情報が盛りだくさんなので、事業承継を行う際には不可欠なマニュアルとなるでしょう。
マニュアルの中でも説明されていますが、事業承継には5年から10年もの時間がかかります。
そのため、何から取り組むべきか分からないと考えているうちに、事業承継のタイミングを見失ってしまうかもしれません。
確実に会社のバトンを後継者に渡すためにも、事業承継の準備は早いうちから始めましょう。
事業承継マニュアルを参考にすれば、法律や税務面の知識に不安があっても、スムーズに事業の引き継ぎを進めることができます。