まずは中小企業の後継者不足の現状について、統計データに基づいて理解しておきましょう。帝国データバンクが中小企業庁の委託によって行った統計によると、「現経営者が引退した後に事業を引き継ぎたいか?」という質問に対して、以下のような回答が得られています。
小規模事業者のうち2割が「自分の代で廃業することもやむを得ない」という回答をしている点が注目されます。
なお、ここでいう「小規模事業者」の定義は以下のとおりです。
参考:「中小企業者・小規模企業者の経営実態及び事業承継に関するアンケート調査」(2013年12月・株式会社帝国データバンク)
上の統計で「自分の代で廃業することもやむを得ない」と回答した事業者が、「事業を後継者に引き継ぐのが難しい」と考える理由としては、以下のようにアンケート結果が得られています。
事業そのものの将来を悲観して事業承継に消極的になっている人が半数を超えています。その一方で、「事業承継を行う気はあるけれど、現実問題としてそれを実現できない」という状況の経営者も一定以上いることが見えてきます。
つまり、中小企業においては「事業そのものは好調なのに、自分の引退後に事業を引き継ぐ後継者がなかなか見つからない」という悩みを持つ経営者は少なくないのです。こうした現状への対策を考えるために、現在の経営者が事業を次代に引き継ぐための方法として、具体的にどのような選択肢があるのかについて見ていきましょう。
経営者が引退後にも事業を引き継いでいくための具体的な選択肢としては、以下の3つが考えられます。
以下、それぞれの方法のメリットやデメリットについて解説いたします。
実際に選択される事業承継の方法のうち、もっとも多いのが親族への事業承継です。親族への事業承継のメリットとしては、比較的早期に後継者を決定することが可能である点が挙げられます。
また、オーナー株式の譲渡や相続によって事業承継を行えますから、事業の「所有と経営」の分離を避けられるというメリットもあります(会社の所有と経営は分離するのが望ましいという理解が一般的ですが、中小企業経営においては必ずしもそうでないケースも少なくありません)。
一方で、親族への事業承継においては、事業を引き継ぐ意欲と能力がある親族がなかなか見つけられないという問題があります。また、親族にオーナー株式を引き継ぐにあたっては、事業継続に相続の問題が絡むために円滑な事業承継に支障をきたすことも少なくありません。
2つ目の事業承継の方法は、親族外の人への事業承継の方法です。親族外への事業承継は、会社の内外から広く人材を募ることができるというメリットがあります。
特に、自社の従業員として事業に貢献してきた人が後継者となる場合には、社内でのコンセンサスが得られやすいということもメリットとして挙げられるでしょう。親族関係にない人でも経営者になれるという事実は、従業員のモチベーションにも良い影響を与える可能性があります。
一方で、事業承継にあたっては、会社の債務や個人保証などリスクがともないますから、親族外の人にこうしたリスクをとってまで経営にコミットしてくれる人がいるかという問題が考えられます。また、従業員に経営者への道をひらくことは、無用な権力争いや派閥意識といった内紛を招く可能性もありますので、慎重な判断が必要になるでしょう。
最近注目されている事業承継の方法が、競合他社や業界内の大手企業に対して事業を譲渡する方法です(いわゆるM&Aと呼ばれる方法です)。M&Aを選択すれば、事業を引き継ぐ事業社の既存事業とのシナジー効果もあいまって、事業のさらなる発展を期待できるというメリットがあります。
また、資金力のある買い手が現れれば、現在の経営者は自社株式の売却を通して多額の金銭的利益を得られる可能性もあります。一方で、希望条件でM&Aに同意する買い手を見つけてくることは簡単なことではありませんので、仲介を依頼する専門事業者を利用する必要が生じます。仲介事業者に対しては仲介手数料等のコストを支払う必要がありますから、売却価格に応じて手数料を計算する仕組みを採るなど、仲介事業者とWIN-WINの関係を築くことが重要な課題となります。
今回は、中小企業における後継者不足の現状について整理するとともに、具体的な解決策として考えられる方法について解説いたしました。経営者にとって、自分の引退後にも事業が継続性をもって運営できるよう対策を考えることは、重要な責務の1つといえます。事業承継について検討している経営者の方は、本文で解説した事業承継の3つの方法をぜひ検討してみてください。