そもそもM&Aとはどういうものでしょうか。
M&Aとは、Mergers & Acquisitionsの略語であり、「合併と買収」と訳されます。
「合併」とは複数の事業を一つに統合するスキーム、「買収」とは事業の売買のためのスキームですが、M&Aの手法はこれに限らず実にさまざまな手法が存在しています。
M&Aは、「新規事業の獲得」、「経営再建」、「事業承継」という3つの目的を実現する手段になりますが、最近では、事業承継におけるM&Aの件数が増加しています。
事業承継におけるM&Aの件数増加の背景には、日本の中小企業や小規模事業者が直面している深刻な課題があります。
それは、「経営者の高齢化」と「後継者不足」の問題です。
1993年から2017年までの推移を見ると、その間に中小企業の社長の平均年齢は4.5歳も上昇し、後継者がいるという企業の割合は22.5%も低下したという現実がわかります。
調査年度 | 中小企業の社長の平均年齢 | 後継者ありの企業の割合 | 出典 |
①1993年 | 54.8歳 | 56.0% | 中小企業白書1994年版 |
②2017年 | 59.3歳 | 33.5% | 2017年帝国データバンク調査 |
<差:②-①> | +4.5歳 | -22.5% |
経営者の高齢化と後継者不足という課題の深刻化に伴い、企業動向にも大きな変化が見られています。
それは、企業の「休廃業・解散」の件数が増加し、「倒産件数」は減少傾向にあるというものです。
東京商工リサーチが調べた2017年のデータによると、休廃業・解散件数が28,142件であるのに対して倒産件数が8,405件数と、休廃業・解散件数が倒産件数の実に3.3倍に上っているのです。
中小企業のうち、廃業予定企業が全体の32.4%を占めており、この廃業予定企業の35.5%が同業他社よりも業績が良いと回答しており、また、廃業予定企業の42.2%が今後10年間の事業の将来性についても現状維持か成長の見込みがあると回答しています。
つまり、廃業予定企業の廃業の本当の理由は業績悪化ではなく、別の理由―経営者の高齢化と後継者不足―によるものであり、これからの日本経済のためにも必要な企業が廃業を余儀なくされている現実があるのです。
そこで、これらの課題を解決して中小企業の存続を実現するものとして期待されているのが、事業承継におけるM&Aなのです。
M&Aとは、今ある事業をそのままに次代に引き継ぐためのスキームです。
その事業の礎を築いた創業者や、その事業を成長・発展させてきた経営者にとっては、その事業に関わる資産、技術、ノウハウ、従業員は、どれ一つとして欠けてはならない貴重な財産です。
ですから、創業者や経営者にとって、これらの貴重な財産をそのままに、事業を託せる第三者の手に委ねたいという強い想いがあります。
この想いに応える事業承継スキームこそがM&Aであって、それが事業承継においてM&Aが増加している理由であるのです。
中小企業庁によると、経済産業省の委託を受けて東京商工会議所が運営実施する「東京都事業引継ぎ支援センター」が請け負ったM&Aの件数は年々増加しており、2015年の実績では、事業承継案件の71%がM&Aによるものと言われています。
また、業界別では卸・小売業が全体の20%と一番多く、次いで製造業が19%、建設工事業が11%となっているので、業界ごとにもM&Aの取り組みには波があるのです。
さらに、M&A対象企業の従業員数別では、従業員数10人以下の小規模企業が約70%を占めています。M&Aは大企業の経営戦略だと思われがちですが、実は中小企業にこそ利用してほしい戦略と言えます。
このように、卸・小売業、製造業を中心に小規模企業を舞台としたM&Aの件数が増加しているのです。
M&Aの手法としては、次の4種類が代表的です。
このほか、広義のM&Aとして、「株式の持ち合い」や「業務提携」も含まれると言われます。
このようにM&Aには様々なバリエーションがあり、これらが対象となる企業の経営状態、規模、将来性に応じて最適なスキームが選択され、事業の将来を託せる第三者につなげられていくのです。
M&Aとは、今ある事業をそのままに次代に引き継ぐスキームであり、創業者や経営者の大切な想いもまた次代の承継者に伝えることができるスキームです。
これからも、経営者の高齢化と後継者不足を理由とした中小企業の休廃業・解散を防ぐ手段として、また、中小企業の存続を実現して、日本経済を活性化させる起爆剤として、M&Aは着実に増加していくことになるでしょう。