M&Aは、企業(A)が企業(B)を吸収合併したり、企業(B)のある事業だけを購入したりする手続きを指します。
これによって企業(A)が持っていた既存の事業に、シナジー効果を与える新規事業が手に入ったり、企業(A)だけではまかないきれなかったノウハウや取引先、のれん(ブランド)などが手に入ったりといったメリットが生まれるのです。
ただ、M&Aは企業が取る手続きの一つに過ぎません。
闇雲に他社の事業や経営権を獲得しても、本当の意味で自社が成長することはないでしょう。
よいM&Aには必ず「M&Aによって得られる成果」が明確に存在しています。
M&Aの成功事例として、日本の大手食品メーカー「味の素」がトルコの企業を買収した例を紹介しましょう。
言わずと知れた日本の大手食品メーカー「味の素」は、2018年にトルコのキュクレ食品社とオルゲン食品社を統合しています。
なぜトルコの企業をM&Aによって獲得したのか、という点が気になりますが、ここからM&Aで戦略を立てる重要性が垣間見えてくるのです。
もともと35の国と地域に拠点を持つ味の素は、中東エリアへの進出をさらに強めようと考えており、すでに拠点を持っていたイスタンブールと、M&Aによって取得したトルコの2社を統合することで、より強固な中東エリアの拠点を立ち上げることを決定しました。
また、2社が積み上げてきたマーケティングのノウハウや情報も、現地へ進出する上では欠かせない資産となるでしょう。
もちろん、自社の事業強化やマーケティング力の向上にも繋がる一手と言えます。
これから自社はどのような結果を得ようと考えているのか。
自社を取り巻く環境や社内の状況を鑑みながら、まずは中長期的な目標を見直してみましょう。
その上で、実現したい目標が定まったときに、改めてM&Aという手段を検討してみるのがおすすめです。
M&Aによって得られる効果は様々ですが、その反対に買い手側の企業は多額の資金が必要となったり、売り手側の企業は自社の事業や経営権そのものを失ったりといった影響があります。
いずれも企業内外に大きな影響を与えることになるので、M&Aを行う際はしっかりとした戦略を立てて、それに基づいて計画的に手順を踏まなければなりません。
多額の資金が水泡に帰したり、せっかく育てた事業や企業を失いかねないので、M&A戦略を理解してからM&Aに取り組むようにしましょう。
ここからは、M&Aで必要となる戦略の概要や内容について見ていきます。
先ほども紹介した通り、M&Aでは多額の資金が動き、それに伴って事業や企業、従業員など様々な方面に大きな影響を与えます。
そのため、あらかじめ綿密な計画を立てておかないと、想定外のことが起きたときに対処できなくなり、大きな損失を被ってしまう可能性があるのです。
例えば売り手側の企業にとっては、自社の事業や経営権を譲渡するわけですから、見合った対価を得なければ割に合いません。
ここで、「見合った対価」とはいくらなのかという疑念が生じます。
もちろん、競合他社や自社の株価から自社の価値を見積もることは可能ですが、企業が持つ価値というのは画一的なものではありません。
画像認証やAI開発のノウハウを有したITのベンチャー企業がGoogleによって多数買収されている、というのはよく耳にするニュースです。
このニュースから分かることは、ベンチャー企業であっても、保有しているノウハウや技術力がメタ視点で見たときに大きな価値を持っているケースがある、ということでしょう。
まずは自社がどのような分野に位置していて、どのような企業が自社の資産を求めているのか客観視することから始めましょう。
とはいえ、長くその企業に身をおいていたり、自分が一から起業して育ててきた企業だったりした場合は、自社の価値を客観視しにくくなっていることも考えられます。
確実な手法としては、M&Aや事業承継の専門家に依頼して、マッチングを代行してもらうのがよいでしょう。
M&A戦略を立てることで買い手側や売り手側にとって大きなメリットがあります。
買い手は多額の資金を、売り手は自分の事業や経営権を譲り渡すわけですから、失敗してしまうとお互いに大きな痛手を負うことになるでしょう。
事前にM&Aの戦略を立てておけば、先ほど紹介したように「M&A後に得られる結果」から逆算してM&Aに取り組めるので、失敗するリスクを大きく引き下げられます。
買い手企業から見れば、支出した費用をムダにせずに済みますし、売り手企業から見れば、自分たちが予想していたよりも高額な対価が得られるかもしれません。少なくとも相場より低い金額でM&Aの契約を締結することは避けられるでしょう。
M&Aの戦略を立てることが大切だと理解したところで、実際に戦略を立てるための手法について見ていきましょう。
M&Aの戦略を立てるには、5つのステップを踏まなければなりません。
それぞれ詳しく見ていきましょう。
まずは自社の成長戦略を策定し、その過程にM&Aという手段を置きます。
ただ、M&Aによって得られる効果は莫大なので、パートナー候補となる企業によっては自社の成長戦略そのものが変更されるほどに大きな影響を与える可能性もあるのです。
M&A戦略を立てる際にはパートナー候補の企業が複数上がってくるでしょう。
それらをつぶさに検証し「この企業と統合したらどのような結果が生まれるのか」を明確にシミュレートする作業が必要となります。
その上で、どの結果が最も望ましいのか判断し、自社の成長戦略と合わせて練り上げていく時間が必要です。
財務諸表や提供しているサービスを眺めるだけではなく、実際に足を運んで査察することも重要なので、M&A戦略を立てる際は、候補先企業の調査を日常的な業務に落とし込んで実測的なデータ収集に務めましょう。
候補企業を絞り込むには、以下の2通りの方法があります。
いずれの方法を選んだとしても、適切なパートナー企業を選ばなければM&Aが失敗してしまうリスクがあるので注意しなければなりません。
M&Aを行う相手企業を選ぶためには、自社の成長戦略が明確になっている必要があります。とくに、異なる事業領域の企業とM&Aを行う場合は、どのようなシナジー効果が期待できるのか理解していなければ、失敗するリスクが高まるでしょう。
また、自社の成長戦略に基づいて、M&Aを行う際の条件や基準を社内で打ち出しておくことも大切です。あらかじめ基準が設けられていれば、突発的なM&A案件が浮上してきたときも浮足立つことなく冷静に評価を下せるでしょう。
候補先企業を絞り込んだり、ある程度の選定が済んだりしたら候補先企業の調査に移りましょう。これを「デューデリジェンス」と呼び、調査対象となる企業の問題点や課題を洗い出す作業を指します。
M&Aのリスクを極力少なくするためにも、デューデリジェンスは重要な手続きのひとつと言えるでしょう。
M&Aに取り組もうと考えている場合は、先ほど紹介したように、実務に落とし込んで候補先企業の調査にコミットする体制を作ることをおすすめします。
M&Aを完了させたからと言って、すぐにシナジー効果が生まれるわけではありません。
M&Aによって統合されたとはいえ、もとは別々の企業に属する事業。企業文化やノウハウが適切に共有されないと、ばらばらの足並みで進むことになってしまいます。
せっかく一つの企業に統合されたのですから、それぞれの良さを引き出し合って事業を拡大していきたいもの。
統合後のマネジメントはM&Aの最後に位置する手続きですが、M&Aの成否を分ける最も重要なフェーズとも言えるでしょう。
統合後のマネジメントを適切に行うためには「PMI」と呼ばれる指針を用意しておくことが大切です。
異なる文化や背景を受け入れて、互いに歩み寄りながら事業を推進していきましょう。
参考デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー株式会社 基礎からのM&A講座
M&Aは事業承継の手法としても有効です。この記事で紹介したように、事業を拡大するためにも利用できますが、様々なポテンシャルを秘めている手段なので、国内でもM&Aに取り組む企業は増加の一途を辿っています。
M&Aの戦略を立てる際にも言えることですが、目的に合わせて適切な方法を取ることで得られるメリットやポジティブな効果を最大化できるでしょう。
ぜひこの記事を参考に、M&Aの戦略を立ててみてください。