事業承継が注目され始めて、改めて事業承継のメリットやデメリットに触れる機会が増えたのではないでしょうか。事業承継税制や事業承継円滑化法、事業承継補助金の存在も、事業承継を目指す中小企業や小規模事業者を強力にバックアップしています。
しかし、これらのほとんどは中小企業や小規模事業者といった「事業の送り手」を対象にした取り組みでした。
後継者にスポットを当てた取り組みは多くなく、依然として後継者が不足している問題について、魅力的な改善案は見つからないまま、という方も少なくありません。
この記事では、若年層がアトツギとして事業承継に取り組むベンチャー型事業承継の概要や、一般社団法人ベンチャー型事業承継の取組内容を解説し、ベンチャー型事業承継を検討している方に向けて分かりやすく内容を紹介します。

ベンチャー型事業承継とはどのような取り組みなのか

ベンチャー型事業承継という言葉に聞き馴染みがない方も少なくありません。
まずは、ベンチャー型事業承継とはどのような事業承継なのか、分かりやすく解説していきます。

既存の事業を若者が受け継ぎ、イノベーションを起こす

ベンチャー型事業承継をひとことで言い表すと、「若者が既存の事業を受け継ぎ、イノベーションを起こして事業を発展させること」を目的とした事業承継です。
中小企業や小規模事業者が高齢化するにつれて、新たな時代のニーズに答えにくくなったり、最新技術を使いこなせなくなったりといったデメリットが生まれてしまうこともあるでしょう。

ニーズは時代とともに移り変わっていくものなので、常に顧客が求めているもの(ニーズ)や、まだ存在しないけれど、存在すれば確実に利用されるもの(シーズ・潜在ニーズ)を見つめ続けなければ、事業は維持・発展していけません。
近年は特に「データドリブン」と称されるように、様々な方法で顧客データを収集し、そのデータを分析してニーズを先読みしながらサービス内容を変更していく方法が採られます。ヒト・モノ・カネだけでなく、顧客のデータにも価値が生まれている社会になっているので、最新技術を積極的に取り入れて、データを解析する技術が求められているのです。

こうした状況を鑑みると、情報の扱いに長けている若年層の視点から既存事業を見直してみると、新たな市場の開拓や、自社の強みを活かした新商品の開発など、イノベーションを起こす余地は多く眠っていると言えます。

経営者が守り続けてきた既存事業の強みと、若年層の新鮮な息吹を掛け合わせて企業や事業を更に発展させる。それがベンチャー型事業承継を通して目指す最大のゴールです。

一般的な事業承継との違いは?

一般的な事業承継とベンチャー型事業承継の違いとしては、目指すゴールの明確さが挙げられます。
一般的な事業承継でスポットが当てられているのは経営者で、リタイア後の人生設計を考えたり、企業を売却した際の売却額に焦点が当てられがちです。
だからといって、事業承継後の企業存続に意識が向いていないというわけではありませんが、どうしても先代経営者に重点を置いた情報提供がなされているのが現状でしょう。

ベンチャー型事業承継でも、先代経営者の意向や既存事業への意識を持って事業を継承していきますが、重点を置くのはむしろ「事業承継後の事業」です。
既存事業だけに依存するのではなく、新たな市場への進出や新商品の開発など、ベンチャー型の名の通りに気鋭の経営方針を打ち立てて、受け継いだ企業の未来を切り開いていきます。

歴史ある企業であったり、保守的な経営体制を取っていた企業であれば、こういった革新的な動きに対して否定的な意識を持つこともあるでしょう。
しかし、ベンチャー型事業承継が目指すのは、そういった風土や理念を受け止めた上で、これからの時代を戦い抜くための新たな風を吹き入れることです。

ベンチャー型事業承継が見ているのは「事業承継後の未来」であるのに対し、一般的に語られる事業承継は「事業を受け継いで経営者が引退すること」にスポットが当たっています。
この点が事業承継とベンチャー型事業承継の大きな違いと言えるでしょう。

ベンチャー型事業承継が生まれた背景

一般社団法人ベンチャー型事業承継の代表理事を務め、株式会社千年治商店の代表取締役を務める山野 千枝さんが執筆したブログでは、ベンチャー型事業承継が生まれた背景について詳しく語られています。

山野さんは、初めのころは事業承継に対して以下のような意識を抱いていました。

”ベンチャー支援では、夢を実現するために挑戦する起業家をかっこよく発信するのに、事業承継では、税金や株価対策、廃業問題など、まぁ要するにワクワクしない話ばかり。

両者とも「将来、経営者になるかもしれない」同じ世代の若者なのに、大人から見せられる世界はまったく違うわけです。ベンチャーは若者視点で描かれるのに、事業承継は完全に「継がせる立場」からのオジサン目線。”

これでは後継者が集まらないのもうなずける、と、山野さんはベンチャー型事業承継という言葉を用いて事業承継にまとわりついている角ばったイメージを払拭し、家業の資産を活かして経営者としてベンチャーしよう、という呼びかけを始めました。

事業承継という言葉の特性上、どうしても主役は事業を後継者に託す先代の経営者になってしまいがちですが、これから新しく事業を興して企業を引っ張っていくのは後継者。後継者が誰よりのめり込んで家業を受け継ぎ、発展させていくためには既存の「事業承継」では不十分だったのでしょう。

”彼らが家業を継ぐのは、親の人生を歩むためでもなければ、日本の廃業問題を解決するためでもない。
家業というステージで、彼ら自身のビビッドな人生を生きるためだ。
親と同じことをするのが事業承継じゃない。
経営資源がすでにあるのは絶対的なアドバンテイジ。でも立ちはだかる障壁も苦労も重圧も起業家以上にテンコモリ。
プラスもマイナスもいっさいがっさい引き受けて、生き残るために新しいビジネスに果敢に挑戦する。”

ベンチャー型事業承継は、後継者にスポットを当てて、新しく生まれ変わる企業をさらに発展させていくための取り組みと言えるでしょう。

参考:「ベンチャー型事業承継」という言葉が誕生した時の話

ベンチャー型事業承継をバックアップする施策や税制優遇も

ベンチャー型事業承継は、事業承継をバックアップするための施策である事業承継税制の対象でもあります。
他にも補助金の受給が認められていたりと、利用できる制度は様々です。
ここからは、ベンチャー型事業承継に取り組む際に利用したい制度について紹介します。

事業承継補助金|中小企業庁

中小企業庁は、事業承継に取り組む中小企業や小規模事業者に向けて補助金を支給しています。ベンチャー型事業承継に取り組む方も利用可能なので、ぜひ利用を検討したいところです。

参考:事業承継補助金|中小企業庁

また、以下の記事では事業承継で受給できる補助金の金額や条件について詳しく解説しているので、ぜひ参考にしてみてください。

事業承継でかかる費用を知る 特例事業承継税制や補助金まで

事業承継税制|国税庁

事業承継税制を利用することで、先代経営者から資産や株式の譲渡・相続を受けた場合であっても、贈与税や相続税を負担せずに事業承継を完了させられる可能性があります。
細かな条件について、以下の記事で詳しく解説していますので、ぜひ確認しておきましょう。

事業承継でかかる費用を知る 特例事業承継税制や補助金まで

アトツギの若い知性が既存事業の発展につながる

アトツギとして親や親族の事業を受け継ぐことを親族内承継と呼びますが、親族内承継が進まない理由としては、事業に将来性を感じられないという意見が挙げられます。
ベンチャー型事業承継を活用することで、後継者が主体的に、ワクワクしながら事業承継や承継後のビジネスに働きかけることができるでしょう。

家業の承継を考えているアトツギ候補の方は、ぜひ以下のリンクから一般社団法人ベンチャー型事業承継協会にも問い合わせてみてください。

参考:一般社団法人ベンチャー型事業承継