団塊世代のビジネスの引退が近づき、中小企業にとって事業承継は大きな問題になっています。事業承継ガイドラインは事業承継を知る資料として、企業経営者が読むのを推奨されているものです。
日本には400万社をこえる企業が存在しています。そして、長く存続している企業には必ず「事業承継」の時期がきます。
法人として会社は残り続けても、かじ取りをしていく経営者交代の必要性は生じてきます。
そんな事業承継をより円滑にしていくことを狙いとして、中小企業庁が作成したマニュアルが「事業承継ガイドライン」です。
事業承継は、具体的にすることが分かりにくく、取り組むべきことが膨大にあります。中小企業がうまく事業承継を成功させられるように基準となる項目が記されているので、事業承継の大きな味方として活用できるでしょう。
専門的で膨大な知識を必要とする事業承継は一般的に分かりづらいという評価を受けており、誰に何を相談して良いか分からない経営者も少なくありません。
そんな人を対象に、まずは最低限おさえておくべき内容がガイドラインに書かれています。
事業承継ガイドラインには、大前提として「早期で計画的な取り組みが必要」と記されています。事業承継は早くても数年、一般的には10年かけて進めていきます。計画的に進めなければ今の経営者が引退するまでに引継ぎが間に合いません。
さらに、ガイドラインでは事業承継を進めるために必要な5つのステップを詳しく解説しています。また、事業承継をする企業が活用できる制度・助成を知れるので目を通しておいて損はありません。
事業承継を進めていく経営者にとっては、ガイドラインがあるのは非常にありがたいですが、なぜわざわざ国をあげてまで資料を作成する必要があったのでしょうか。
ここでは事業承継ガイドラインが作成された背景・理由を説明します。
少子高齢化の進行と職業選択の幅が広がり、これまで標準的だった息子・娘が親の事業を引継ぐ、いわゆる「親族内承継」は件数が減ってきています。中小企業庁が出したデータによると、平成19年には事業承継全体の約65%を占めていた親族内承継が、わずか5年後の平成24年には約40%ほどになっています。
そんな中、会社としては黒字経営なのに後継者が思うように見つからずやむを得ず廃業する企業が後を絶ちません。安定して経営することの難しさを考えれば、すでに黒字化している会社が後継者がいないからという理由で廃業せざるを得ないのは嘆かわしい現状です。
[出典]中小企業庁・第2部 自己変革を遂げて躍動する中小企業・小規模事業者会社が無くなることは、それまで培ってきたノウハウや、提供してきた価値が無くなることを意味しています。日本には規模は小さくても、世界シェアNo.1を誇る中小企業がたくさんありますので、その技術が無くなると考えたら大損失です。
また、会社に尽くした社員も新しい職場を探さないといけなません。
中小企業の事業承継が上手くいかず廃業が国全体で起きれば、国全体の経済の低下にも繋がります。
大げさにも見える事業承継問題ですが、日本全体を左右しかねない大きな余波を生む可能性があるのです。事業承継をうまく進めていくための指針が必要だ、と国が判断して、事業承継ガイドラインがつくられました。
事業承継ガイドラインに関して少しずつ理解が深まってきたところで、具体的にどんな内容が書かれているのか解説していきます。作業・業務ベースまでイメージが湧くようになると事業承継もスムーズに進みます。
冒頭でも紹介しましたが、重要なのは早めに計画を立てて動くことです。
経営者が高齢化してからや、病気・けがなどにあってからのタイミングで事業承継を考え始めると、十分な準備ができないまま円滑な事業承継が難しくなります。
ガイドラインでは、最低でも経営者が60歳ころのタイミングでスタートしていくのが良いとされています。
また、経営者が60歳になるのを待って行動し始めるのではなく、早めに候補者を探し始めたり、早めに済ませられる届出や申請は出しておくことも重要です。
これから紹介するようなガイドラインに記載されている内容も、すべては早めに計画して行動できるようにするためです。
事業承継ではじめにやることは会社の現状把握です。
現状を知るには、大きくわけて2種類のことを把握する必要があります。
BS上の資産、のれん、顧客とのネットワークなど会社経営の肝となる資産です。
後継者に会社・事業を引継ぐので、会社としてどんな資産や負債があるのかを正確に把握しておかなければいけません。
後継者の有無、社内幹部の意思確認などの事業承継意識の庁さも大事。
後継者をはじめ社内外に多くの関係者がいるので、必要な書類を書くだけではもちろん終わりません。関係者を尊重し事業承継を進めていくために情報を収集する事から始まります。
状況把握ができたら、後継者にも引き継ぎやすくするために経営改善を行います。大きく分けて3つの改善事項があります。
強みを伸ばし弱みを改善し競争力強化を図ります。
自社にとっての強みは何かを再認識して強化していきます。
社内の風通しやマニュアル整備などを行う経営体制の点検を行います。
少しでも次期社長が経営をしやすい体制を作れるようにします。
経営強化するために、会社の現状を改めてステイクホルダーに公表し信頼を得ます。
関係者に事業承継をすることを明確に案内していくことが大切です。
会社の経営改善を終えたら後継者へ引き継ぎがスタートします。
具体的には、下記の手順で進みます。
この間に助成金などの手続きなどもしながら慎重に進めていきます。
会社、従業員、取引先など多くの関係者がいる取引なので、計画に沿って確実に実行します。
参考記事:事業承継でかかる費用を知る 特例事業承継税制や補助金まで
事業承継ガイドラインは国民に無償で公開されているので、誰でも簡単に閲覧できます。
資料を見てみると事業承継の基礎を知れるので役員クラスの人や事業承継に関係している経営者や後継者の方は一読しておくと良いでしょう。
ガイドラインのステップにそって進めていくことで、自社の会社状況を正確に把握したり、複数の事業承継方法の中で該当する項目をピックアップして適用できそうな内容を知ることができるからです。
現状と課題を洗い出せばこのさき起こりうる問題を予測できるので、実践的な計画を立てられます。
また、後継者も巻き込んで計画を立てることで、引継いだ後継者がどのような展望で会社を運営していくかという流れもスムーズに共有できるでしょう。
企業経営者の方は、まず事業承継ガイドラインを手に取ってみることをおすすめします。
無料でダウンロード・閲覧ができますので気になったタイミングでいつでも確認できます。
テキストばかりの資料は読むのがつらい方にはイラストが入った資料や20問20答形式で回答が記載されている視覚的に分かりやすい資料が用意されているのでそちらからはじめてみるのがおすすめです。
[ 出典 ]中小企業庁ガイドラインには事業承継の支援体制も記載されており、各専門家がどんな内容の仕事をしているかわかります。
税金関連は税理士、財務会計は公認会計士、といったように専門家ごとのフィールドを理解して、適切な内容に切り分けて相談できるようになるでしょう。事業承継にかかわる意思決定の速度も高まり、これまで声をかけてこなかった専門家を見つけられる可能性もあるので、ぜひ活用することをおすすめします。
自社にとって最適な支援体制がわかれば、後は各分野において信頼できる専門家を集められると事業承継はスムーズに進みやすくなります。
事業承継を支援するチームの仲介役やまとめ役を担うアドバイザーも存在するので、ぜひ確認してみましょう。
参考記事:親子承継を検討している経営者のパートナー「事業承継士」ってどんな資格?
事業承継ガイドラインの具体的な内容をお伝えしてきました。
ガイドラインを見れば大枠の知識を得られます。しかし、実際に事業承継を進めるのはかなり大変です。ガイドラインを基礎としつつも実際に事業承継をしていくとなったら専門家を味方につけることをおすすめします。
事業承継を進めるためには専門的な知識が必須です。
会計・税務・法務など絶対に必要になる知識に加えて、どんな事業承継をするかによって必要となる知識は異なります。
知識を持ったうえで処理をしないと思わぬ損失が生まれるので、注意が必要です。
また、経営者は時間的な拘束もあり、事業承継に関わるすべての業務を一人でやっていくのは現実的に厳しいです。ただでさえ専門的な項目が多く時間がかかる事業承継ですが、素人が下手に手を出せば余計に時間と労力がかかります。スムーズに進めるためにも、極力専門家の手を借りるのがよいでしょう。
あなたの相談ごとは誰に相談しますか。その分野における知識・技術が確かであることに加えて、相談相手に求めるのは、何かあった時にすぐに相談に乗れるかどうかではないでしょうか。
何か問題が起こったとしても何とかしてくれる、という安心感は初めての事業承継を迎える経営者にとっては心強いものです。たとえ事業承継のタイミングが直ぐでなくても、常に相談できる存在を作っておくだけで安心して仕事に集中できます。
もう少し事業承継の理解を深めたい、動き始めたいなら事業承継自己チェックシートから初めてみてはいかがでしょうか。チェックシートは多くの事例を踏まえて参照した結果作られた資料です。事業承継の際には参考になるはずです。
[出典]事業承継自己チェックシート 中小企業庁事業承継に大事なのは早期に計画を立てること、具体的にどのように動けば良いのかを決めることです。気になることがある、周りに頼れる専門家がいない、誰にアドバイスを求めれば良いか分からないという人は事業承継ラボへ気軽にお問い合わせください。