近年、中小企業を中心に重要な課題となっている1つが事業承継です。
さまざまな課題の中でも事業承継、特に後継者の不在は中小企業の存続に関わっているといっても過言ではありません。
最近は事業承継ファンドが解決の効果的な方法の1つになるとして注目が集まっています。
今回は中小企業の事業承継における事業承継ファンドの概要と役割、利用にあたってのメリット・デメリットを紹介します。

事業承継ファンドとは?

事業承継ファンドとは中小企業の事業承継をサポートしてくれる投資ファンドです。公的・民間の要素が半分ずつ混ざり合った組織になっています。中小企業を支援する事業承継ファンドについて説明していきましょう。

◯ファンドは事業承継の担い手になる

代表的な事業承継ファンドは中小機構(中小企業基盤整備機構)が半分出資をする公的ファンドです。
民間のファンド(民間金融機関など)に対して中小機構がファンド総額のうち半分を持ち投資を行っています。そして事業承継に関して問題を抱えている中小企業に対し、さまざまな経営支援を行います。
その他にも事業承継のサポートとして、

  • 国主導で税制優遇や事業承継ガイドラインの作成
  • 支援センターの運用

などが行われています。
つまり会社に出資して事業承継をすすめ、経営体質を改善していくのが事業承継ファンドです。また、中小機構が出資する事業承継ファンド以外にも、民間で事業承継支援を行っているファンドや金融機関が紹介する事業承継ファンドもあるのです。

◯事業承継ファンドが投資をする理由

事業承継ファンドが投資をするのは、政府が事業承継問題の改善を国策として推し進めているからです。

後継者不在を理由に、経営が黒字であるにもかかわらず廃業してしまう中小企業や小規模事業者も散見されます。廃業すると社内で所有しているノウハウや技術だけでなく、地域の雇用やサービスも失われてしまうので、国内の経済に大きな影響を与えます。

中小企業庁の調べによると、このまま事業承継が進まずに中小企業や個人事業主が廃業に追い込まれることで22兆円ものGDPが失われると予測されています。また、廃業は納税者の減少にも繋がり、国や地方自治体の予算編成にも悪影響を及ぼすでしょう。

こういった理由から、政府は事業承継の推進を急いでおり、事業承継税制の導入や事業承継円滑化方の整備を行っています。

参考記事:事業承継でかかる費用を知る 特例事業承継税制や補助金まで

また、ファンドの出資者としてのメリットもあります。中小企業への支援が成功すれば多額の報酬が得られる仕組みをとっているので、投資家の視点からすれば投資先として事業承継ファンドを活用しようとする動きがあるのです。

事業承継ファンドの活用方法

事業承継ファンドには「会社存続」のため、もしくは「経営支援」のために活用するパターンがあります。もちろん経営支援&財務面ともに活用して、会社を存続を実現しつつ企業価値を高められるのが理想的ですが、この二つのパターンを見ていきましょう。

◯会社存続のため
事業承継ファンドの活用による会社存続の手法を見てみましょう。

まず、一時的にファンドが支援先の株式を取得して株式会社の新たなオーナーとなります。その間に適任者を後継者として育てて徐々に経営権を譲渡していく事で支援先の会社を存続させます。

後継者育成では社内の人材を育てるだけではなく、必要に応じて外部から後継者になりうる人材の発掘も行います。事業承継ファンドは経営者の意向・方針を重視するものが多いので、対話を通して経営者の意向をしっかりと伝えるようにしましょう。

◯経営支援のため
事業承継ファンドは積極的に企業の運営に関与して、手厚い支援を行います。会社に必要な事業資金の調達を行うだけでなく、さまざまな経営支援の一環として販路の拡大などに取り組み、よりよい経営環境を実現していきます

また、業務管理や財務経理、組織人事などといったバックオフィス業務についても改善します。中長期的に見て余裕をもった計画をもとに支援が得られるようになっています。経験豊富なスタッフから直接的なアドバイスを受ける事で、社長だけに依存せずに従業員も自立する形で会社の成長に関わる組織作りが実現できるようになります。

事業承継ファンドを活用するメリット・デメリット

事業承継ファンドを運用した事業承継方法にもメリット・デメリットがあります。それぞれ簡単にではありますが、押さえておきたいポイントに絞って紹介していきます。

メリット①:事業承継がしやすくなる
企業の最重要目標である事業承継をスムーズに進めてくれます。その会社の特徴を把握したうえで企業が持つポリシーをしっかり後継者に根付かせてくれるため、経営者にとっては理想的な事業承継が実現しやすいというメリットがあるのです。

また事業承継に関するノウハウをもっているので、後継者としてふさわしい人の選定や教育にも貢献してくれます。ファンド自体が独自のネットワークを持っているので、企業にとって最適な方法を一緒に探せます。

メリット②:経営者の負担が減る
事業承継ファンドは経営者に代わって支援先企業のオーナーとなります。オーナーが新たに経営に参画することで、経営者としての負担が減ります。それまで一人で抱えていた問題を、一緒に解決に向かって議論できるのは事業承継ファンドが心強いポイントです。

デメリット①:ファンド選びが難しい
事業承継ファンドにもさまざまな種類が存在します。事業承継をうまく進めるためにはファンドの選定も必要でしょう。なかでもファンドの経営支援に関するノウハウは玉石混交です。
どれだけ事業承継や経営支援に関する経験値や実績を積んでいるかによって、経営支援の技術レベルは大きく変わってきます。ファンドによっても重ねてきた実績が違い、得意分野も異なります。業種や業界が異なれば取引形態も変わるので、自ずと経営支援のアドバイスも異なってきます。

会社の方針と合ったファンドを見つけることで、自社にぴったりな支援を受けられるようになるでしょう。根気よく適切なファンドを探すのが大切です。

デメリット②:状況が悪ければ支援が難しい
事業承継ファンドは支援先企業の事業承継を支援して、企業価値を高めていくことの実現を前提としています。

  • 事業承継前なのに金融機関からの借入が多額で残っている
  • 規模の大きい不良在庫

このような状況は中小企業によくあるケースです。ファンドはこのような状況をあらかじめ想定しており、借り入れや不良在庫を踏まえた上で実益のある支援を行います。しかし、どうしても改善の兆しがないほどに窮地に陥っている場合は、支援に入れないケースもあります。

ファンド側も利益が出せるか否かを見ながら査定するので、最悪の場合は審査を通れない可能性がある、ということは覚えておきましょう。

事業承継ファンドの選び方

◯事業承継に強いファンドを選ぶ
事業承継ファンドの最終目的は、支援先企業の企業価値を上げたり売却益を高めるために支援を行います。
しかし、ファンドが利益優先で事業を進めてしまうと、今いる従業員がついていけなかったり、従業員の雇用継続が確保されない可能性もありえます。
また、ファンドが短期的に売却益のみを重視すると、事業承継した企業を別のファンドに転売するなど、経営体制が不安定になるケースもあります。目的に見合ったファンドを選択しましょう。

◯事業承継向きのファンド
ここでは、事業承継に適しているファンドの例をいくつか紹介します。

・中小機構の事業承継ファンド
中小機構は、中小企業向け経営支援を目的として設立されているので、財務労務マーケティング等など、さまざまな分野の専門家を多く抱えています。多彩な専門家からの充実したトップリーダー教育も可能ですから、後継者育成も十分に期待できます。

中小機構は、独立行政法人という利益追求型ファンドではないので安心して仕事を託しやすい傾向にあります。
一般的にイメージされるような投資をしたら大きなリターンが期待できそうな企業だけでなく、事業承継に困っている多種多様な会社が支援を受けられます

・日本投資ファンド
日本投資ファンドは日本M&Aセンターと日本政策投資銀行が折半で出資して設立したファンドです。
こちらも中小機構ファンドと同様に公的なファンドです。日本投資ファンドにはさまざまな事業承継や投資に関する確かな実績を持った機関が名を連ねているので、実益のあるアドバイスをもらえます。

また、中小機構ファンドと同じように公的な資金も交じっているため、審査のレベルはそこまで高くありません。支援に関しては、会社の状態次第になるので、少しでも会社を良い状態にしておく努力が必要です。

・PEファンド
未上場の企業を育て上げて、上場時に多額の売却益を得るために投資するのがPE(プライベート・エクイティ)ファンド。PEファンドが企業に投資する主な目的は売却益を得ることです。

買収した企業へPEファンド側からさまざまな経営支援を行うことで企業価値を増大させます。株主という立場で支援を施し、最終的には企業を売却することでその売却益を得るのが一連の流れとなりますが、本質的に企業価値を高める支援が受けられるので、PEファンドは中小企業にとって魅力的な株主と言えるでしょう。

◯事業承継に向かないファンド
逆に、事業承継に向いていないファンドの例もいくつかご紹介します。

・利益追求型ファンド
利益追求を最重視したファンドも中には存在します。中には、事業承継の際に買収される企業の資産を担保にして借り入れを行うLBO(レバレッジド・バイアウト)を行い利益の最大化を狙うファンドも。LBOとは、買収される側の企業が持つ資産やキャッシュフローを担保に金融機関から資金を借り入れ、それを元手に買収を行う手法です。LBOを実行されると買収された側の企業は、自身が借り入れしたわけではないのに借入金が増えてしまいます

利益重視のファンドに任せると借金を増やして投資などを行うことがあるので、会社の収益構造が変わる可能性もあります。ファンドを活用する際には、そのファンド自身にLBOを使わなくても投資可能なほど自己資本があるか、利益のみを重視する体質ではないか、などの点を慎重に確認しましょう。

◯迷ったらまずは専門家へ相談をするのがおすすめ
経営者にとって事業承継は非常に頭の痛い問題です。しかし、企業に第三者が入ることで、経営を見直し事業の更なる成長を実現できる良い契機とも言えます。

事業承継ファンドは後継者不足で廃業が続く中小企業を救い、社会の受け皿になる仕組みです。しかし、まだまだ世間に知られておらず情報収集が難しい状況にあります。

事業承継についても様々な承継方法があるため、どの方法が自社に最適なのか判断するのは難しいのが実情です。事業承継ラボでは、事業承継を会社の方針に合った方法で進められるようにサポートします。どんなファンドがいいかわからない、事業承継の方法をゼロベースで考えたいという方は是非ご相談ください。