中小企業をはじめとして、日本国内の企業では深刻な人手不足が問題となっています。その延長線上にあるのが後継者問題です。
近年はとくに、経営者の跡を次ぐ後継者が見つからず、せっかく立ち上げた企業や事業が廃業や休業に追い込まれてしまうケースが散見されます。中には黒字のまま休廃業を選択する企業も少なくありません。
少子高齢化の煽りを受けて、中小企業の代替わりについても大きな余波が届いている状況と言えるでしょう。
こうした後継者問題がなぜ生じているのか、理由を詳しくみていきます。
――◯経営者が事業承継に対して前向きでない
事業承継が進まない背景には、後継者問題の他に「経営者が事業承継に対して前向きでない」という背景があります。そもそも事業承継を行う気持ちがなければ、いくら後継者候補がいたとしても事業承継が果たされることはないでしょう。
経営者が事業承継に対して後ろ向きな姿勢を取る理由としては、以下のようなものが挙げられます。
これらの理由から、事業承継を積極的に推し進めようと考えている中小企業や個人事業主は少数派の域をでません。
経営者の意識改革を進めようと、一般社団法人ベンチャー型事業承継の活動や事業承継税制などの取り組みが進んでいますが、まだまだ意識の壁は高くそびえている状況です。
――◯事業の将来性が薄い
先ほども紹介した通り、事業そのものの見通しが悪く、将来性がないのではないか、という懸念から事業承継に対して後ろ向きな態度を取る中小企業も少なくありません。少子高齢化によって出生率は減少しており、需要の先細りが予想される業種は多岐にわたります。
こういった日本全体の風向きもあり、事業を存続させる必要性を感じづらい雰囲気が流れているのは確かでしょう。
しかし、事業承継によって存続された事業が「そのまま」存在し続けているケースは、そう多くありません。事業を承継した後継者は、事業承継税制の納税猶予条件でもある経営革新を行い、半数以上の企業が業績を上向きに転向しています。
こういったポジティブな影響が起こりうるので、事業承継は中小企業がリスタートを切って事業を存続させていくための良い機会となるでしょう。
――◯少子高齢化によって人材の確保が難しくなっている
日本企業の後継者不在率は全体の66%以上にのぼり、人材の確保が難しい現状を如実に表しています。こういった背景もあり、事業承継に前向きになっている中小企業であっても、後継者を見つけにくい状況が続いていると言えるでしょう。
事業承継は5〜10年という長い年月をかけて事業を後継者に受け継ぐ作業です。後継者候補がいる場合でも、経営者としての素養を養うために様々な教育を施さなければなりません。時間的にも費用的にも大きなコストがかかるので、後継者候補を探す際には、事業承継を行う企業と後継者のマッチングにも気を配る必要があるのです。
このような背景も踏まえると、後継者を探すだけでも骨が折れる今の状況は事業承継のハードルを高くしている一因と言えるでしょう。
参考:特別企画:全国「後継者不在企業」動向調査|帝国データバンク
――◯後継者がいないため親族内承継が進まない
伝統工芸や伝統芸能の分野では、企業や事業所の息子や娘が後継者となって、代々受け継がれてきた技術や伝統を次世代に継承していく流れがありました。しかし、中小企業や個人事業主というフィールドで見ると、経営者の子孫が親の事業を受け継ぐという文化は根付いておらず、親族内での事業承継が進みにくい現状があります。
事業の将来性が見えないことなどを理由に、中小企業の経営者の息子や娘が親の事業を継ぎたいと思わなくなっているため、事業承継のセオリーとも言える親族内承継がうまくいかなくなっているのです。先代経営者の意識だけでなく、後継者側の意識もハードルとなって、事業承継が浸透しにくい状況に陥っています。
中小企業や個人事業主が事業承継に取り組みにくい状況は続いていますが、それでも事業承継に取り組むことで得られるメリットにはかけがえのないものがあります。
ここからは中小企業や個人事業主が事業承継に取り組むことで得られるメリットについて見ていきましょう。
――◯事業や資産を次世代へ引き継げる
事業承継を行うことで、既存の事業や資産を次世代へ継承できるのが最も大きなメリットです。
事業が存続するということは、その事業を依頼する顧客や外注先を守ることにもつながります。また、自社の雇用を守るという視点でも、事業が存続するだけで大きな価値が生まれていると言えるでしょう。
事業を営むためには様々な資産が必要ですが、こういった資産を残して事業そのものを引き継げるのも重要なポイントです。ゼロから起業する場合、取引先や企業の文化・風土といった無形の資産を築き上げなければなりません。また、建物や土地、従業員といった有形資産も引き継げるので、後継者はそれらをうまく活用しながら新しい事業を始められるのです。
――◯既存の資産やノウハウを新たな事業に発展させられる
事業承継で受け継いだ資産やノウハウを新たな視点で見つめてみると、新規事業に発展させるためのポイントが見えてくる可能性があります。先代経営者では見えなかった資産の活用方法が、後継者の若い視点でなら見えてくるかも知れません。
市場のニーズや時代の流れを敏感にキャッチして、自社の資産を活用しながら新規事業を立ち上げるためには新たな視点を取り入れる必要があります。事業承継に取り組んで経営者を代替わりさせることで、既存の事業をアップデートしたり、新規事業を立ち上げたりといった流れを生み出せるでしょう。
――◯経営体制をアップデートさせて新時代を戦い抜ける
経営体制をアップデートさせることで、より有効に経営資源を活用したり、時代の流れに合わせて柔軟に経営方針を変更できたりといったメリットがあります。事業承継に取り組むことで、経営陣の代替わりを果たすことができるので、自ずと経営体制が刷新されるでしょう。
最新のテクノロジーを利用したツールを取り入れたり、新たなマーケットへ漕ぎ出したりといった、これまでにない取り組みも生まれてきます。トップ層の意識が変革することで、業績の改善やコストカットを果たすことにもつながるでしょう。
事業承継で生じるメリットやデメリットについてさらに深く知りたい方は以下の記事も参考にしてみてください。
ここからは中小企業の後継者不足に焦点を当てて、どのような組織やサポート体制があるのか見ていきます。
中小企業が事業承継を果たすためには、後継者不足を解消することから始めなければなりません。
先ほども紹介したとおり、後継者を親族内だけで見つけるのは至難の業です。ここからは、後継者を見つけるために利用してほしい組織や施策を紹介します。
――◯株式の譲渡や相続によって事業承継を行う
後継者に株式を譲渡・相続することで事業承継が完結するのです。譲渡の場合は後継者が株式を買い取り、相続の場合は生前贈与や相続によって株式を委譲します。いずれの場合でも税金がかかるので、節税効果を得られる事業承継税制にも注意しながら承継の準備を進めましょう。
一般的に、株式譲渡で事業承継を果たすケースは親族内承継や社内の役員へ経営権を譲渡する場合によく用いられます。
――◯事業引き継ぎセンターを活用する
事業引き継ぎセンターは、各都道府県に設置されている事業承継を推進するための行政機関です。国の中小企業政策の中核的な実施機関として、起業や事業の継承をサポートする中小機構が本部となって、事業承継についても専門家の視点からアドバイスを行います。
M&Aのマッチングサービスを紹介してくれたり、後継者探しについてサポートしてくれたりといったメリットがあるので、利用しない手はありません。
また、同センターが提供している人材バンクというサービスも魅力的です。後継者になりたい方と事業承継を検討している企業との橋渡しを行うものなので、後継者問題を解決する一助となることが期待されています。
事業引き継ぎセンターは、事業承継を検討したとき、まずはじめに頼りにしたい機関です。
――◯M&Aや事業承継の専門家へ相談し事業承継の準備を進める
民間のM&Aマッチング会社や事業承継の専門知識を有する士業の担当者へ相談するのも有効です。後継者問題や事業承継税制について詳しくヒアリングとアドバイスを受けられるので、依頼している税理士や公認会計士以外にも事業承継に詳しい専門家を探して相談してみることをおすすめします。
事業承継は、いずれも会社法や税法を理解して適切に手続きを進めなければなりません。
事前に大まかな流れを理解しておくことで、後継者が見つかったときにスムーズに対応できるでしょう。
事業承継の手順を理解するためには、以下の記事を参考にしてみてください。
中小企業が人手不足や後継者不足に喘いでいる現状を打開するためにも、事業承継を支援しようと様々な施策やサポートが充実してきています。それでも事業承継がうまくいかない場合は、M&Aも視野に入れて、後継者へ経営を譲る方法を模索しましょう。
M&Aを通して事業承継を果たすことも可能です。
細かなM&Aの手順やポイントについては以下の記事を参考にしてみてください。
株式を別の会社に購入してもらい、企業を売却することで経営権を譲るのがM&Aです。中小企業の場合は株の保有者が経営者(オーナー企業)というケースも多く、その場合はM&Aで取引された価格がそのまま経営者に支払われます。
新たなキャリアに進むための資金調達としても活用でき、ハッピーリタイアを夢見ている方からすれば退職金代わりに多額の現金を得ることができるでしょう。また、自社では開拓できないチャネルを持っていたり、広大なマーケットを持っている企業に売り渡すことで、自社のサービスを国内外に広く浸透させる一手にもなりうるのです。
事業承継の手段としても、経営手法のひとつとしても、M&Aについて理解しておくことをおすすめします。