2019年現在、事業承継に悩む企業は全国に127万社あると言われています。この日行われたセミナーでは、事業承継に課題をお持ちの企業経営者様に向けて、事業承継の市況や具体的な解決策はもちろんのこと、事業承継で知っておくべき重要なポイントを、実績豊富な株式会社プロフェッショナルバンクの高橋 啓氏と、後継社長として招へいされたダイアトップ株式会社の玉山隆三氏より、事例を交えながら紹介して頂きました。
――◯事業承継を基軸に企業の成長を人材面から支援
まずは冒頭、株式会社プロフェッショナルバンク経営人材紹介部事業部長・高橋 啓氏による同社の事業紹介からセミナーはスタート。株式会社プロフェッショナルバンクは顧客の継続した事業成長を人材面から支援し、今回のセミナーのテーマとなっている「ヒトで紡ぐ事業承継」について、経営人材の採用という側面からサポートしている企業です。
「事業承継で承継していくのは『ヒト』『モノ』『カネ』の3種類。モノやカネの部分については、例えば税金や個人補償といったものが挙げられますが、その道の専門家である税理士や公認会計士などにオーナーがご相談することで解決策を見出すことが可能です。ところがヒトに関しては、経営をどうやって引き継いでいくか、承継した方々をサポートする人材、組織をどうしていくかという相談に適した相手は見つかりづらいのが現状。ヒトに関しては弊社に相談してほしい。そんな会社を目指し、事業を続けております」
と会社の存在意義を力強く述べました。
――◯事業承継の3つの成功要因
現在の経営者の平均年齢は69歳。ほとんどの経営者が今後10年で自身の後継を考えておかなければならないという状況です。高橋氏は、「きちんと後継者の検討ができている会社が半数ぐらい。残りは後継者不在のまま、廃業の恐れがある」と説明し、「この状況を打破するには、早めに事業承継の手を打っていただきたい」と述べます。
「事業承継の成功要因は【後継者】と【承継後の組織】、この2つが大事。後継者は無理に時間をかけて外部から誘致せず、社内に適切な方がいればその方を持ち上げることも選択のひとつ」と説明。「後継者を支える組織、メンバーを固めることが重要だ」とアドバイスしました。
さらに「例えお子さんに継がれても、支えるメンバーについて十分に考えられていない企業も多いと聞いています。よく2~3代目が会社をダメにしたという話もありますが、むしろ2~3代目を支える幹部メンバーの方を十分に採用できなかったがために会社をうまく引き継ぐことができなかったケースも多く、基盤固めも必要なため早めに手を打つことが先決です」と解説。
そして、後継者やその周りだけでなく、
・創業者やオーナーが自分たちの事業を通じてどのような世界を作っていきたいのか
・どのような夢を持っているのか
この点をきっちり言語化して後継者に引き継ぐことが重要と説明。「創業者の方の想いがあってこそ、事業承継を成功させる2つの要因が生まれてくると思っております」と述べました。
――◯事業承継を成功させたダイアトップの軌跡
第二部では、一部で高橋氏が伝えた成功要因を見事に形作り、事業承継を進めたダイアトップ株式会社の代表取締役社長・玉山隆三氏が登壇。玉山氏が創業オーナーの想いを受け取り、自身の価値観や経験を活かして実践した事業承継の経緯と、その後の組織づくりについて語りました。
ダイアトップ株式会社は主にチェーンソー用のガイドバーとマサカリ機用のナイロンヘッドを生産している企業。前オーナーの努力もあって売上は年々増加し、高水準の利益率を確保していました。オーナーの息子さんを後継者にと考えていましたが、息子さんの体調が優れないことを受け、後継者問題と向き合うことに。
前オーナーの意向である「事業承継でさらに会社を成長させたい」という思いを実現してくれる後継者を探していたところで白羽の矢が立ったのが、大手メーカーのエンジニア職出身で、当時、文具メーカーの社長を務めていた玉山氏でした。
玉山氏は「『オーナーの意思を受け継ぎ、経営陣や社員の方々が描く夢を共に実現する』という高い目標があり、扱う商品が非常にニッチで参入障壁が高く、なかなか真似ができないということで商品に惚れて、住んでいた横浜から岐阜に行ってみようと決意しました」と当時の思いを振り返りました。
玉山氏に与えられたコミットメントは収益の確保と、それを実現するための事業戦略の具現化でした。代表に就任後、実際に行った施策について玉山氏は次のように紹介。
「お客様に対しては、主に高品質製品の安定供給と、非常に長い製作のリードタイムの短縮がミッションとしてありました。また社員に対しては、会社のゴールの共有や働き方・設備の近代化、システム・年間休日を変えつつチームワークを強化。社員自身が成長を実感しながら働く環境をつくることでした」
赴任した玉山氏は、まず前途に述べた商品・サービスの特徴とオーナーの実績を承継しつつ、新たな会社の目標を設定したのです。
「全体として足りていなかったチームワークを意識した働き方を社内へプレゼンしていきました」
――◯改革による危機に直面、しかし行動を続けた
新体制でスタートした直後は、高品質製品の安定供給のために、4つの製品にフォーカス。これ以上の製品は取り扱わないことを明言したという玉山氏。しかし、この新方針に対して否定的な意見を述べる社員が多数現れ、いきなり組織的な危機を迎えることになったのだとか。
「部・課長職をはじめとする計8名が退職。設計部長がやめてしまったため、開発がストップする事態に陥り、生産納期がこれまで以上に長期化してしまいました」
さらに社員のモチベーションが明らかに低迷したことで生産性も低下。組織の維持すら危ぶまれる状態になってしまったのだとか。しかし、玉山氏はそのような状況に陥っても諦めず、自ら顧客のもとに行くなど出血が最小限に収まるように奔走。
「そういった危機的な局面にあってもトップに立つ人間が逃げずに、自分の責であることを認め、行動を続けることが大事です」と、自らの理念を武器に改革を推し進めた当時の思いを振り返りました。
――◯新たな評価制度やユニークなディスカッションで社内に笑顔が戻る
玉山氏は社内の信用規則の整備を進めるとともに、従業員向けに「チャレンジシート」を導入。「自発的な行動を評価する制度を策定して定期的な上長との面談の場を設け、しっかり頑張った人に正しく評価が与えられる制度を制定した」と説明します。
玉山氏の取り組みはそれだけにとどまりません。「働いている父をサポートしてくれている家族がいてこそ会社が成り立っている」という考えのもと、前職のつてを活かし、社員の子どもの入学祝いに文房具を贈呈。
「また、新しいシステムを導入し、スケジュール共有・気軽な連絡を可能にしました。すると徐々に社員が笑顔になり、やめた2人の社員も戻ってきてくれました」
さらに玉山氏は、社員が自分で気づいて行動するためのワークも実施した、と解説。
「大学生の寄せ集めチームであるアイスホッケー米国代表が金メダルを獲得し、“氷上の奇跡”とよばれた実話を基にした映画『ミラクル』を社員に見せて、グループディスカッションを行いました。何が起こって、何を感じてこの奇跡がうまれたのかを各部で議論。そこから発展して、『つまらない会社を面白くするには?』をテーマにワークを実施し、“白鳥の奇跡”を起こそう!と話しました」
アイデアあふれる独特の手法で進めた社内改革について、分かりやすく紹介していただきました。
また顧客との取引においても、大手顧客と新製品開発に向けたディスカッションを実施。新ジャンルの開拓にチャレンジするなど、まさに【承継後の組織】づくりを推進していることを示した好事例の紹介となりました。
「ダイアトップは社員モチベーションを保つための活動を続け、明るく笑顔の絶えない職場を実現し、優良中小企業NO.1になることを目指している」と玉山氏。「映画のように、秘境の地にある日本の企業が、ニッチワールドながらユニークな製品力とブランド力で世界で活躍する。そんな“白鳥の奇跡”に向けて、働いている社員が何をすべきかを理解しました。今のダイアトップは、まさに高いモチベーションをもって希望に満ち溢れた状態にある」と述べました。
――◯“リアルな事業承継”を知ることができるのがセミナーの魅力
セミナー終了後、株式会社プロフェッショナルバンクの高橋氏と、ダイアトップ株式会社の玉山氏に下記のようなコメントをいただきました。
「きれいな話というより、オーナーとの関係性や離職者の増加など、リアルな話を文面にしても温度感が伝わらないので、そこはセミナーが最適。だからこそ経験者に登壇してもらって、リアルを伝えたいという意味では、今回は非常に良い結果を得られたと思います」(高橋氏)
「事業承継を考えてる人に伝えたいのは、任せるか任せないのかはっきりした方がいいということ。僕も苦い経験があり、前会社ではでは大活躍したのに、状態がよくなればオーナーが口出しをしてきて嫌な思いをしました。自分はどうしたいのか心の整理された方がいいかと思います」(玉山氏)
さらに高橋氏は今後、商工会議所など各地域に根ざした小規模セミナーを実施していきたいと意思表明。
「他の業界からの参入が増えているものの、事業承継というテーマで人材ビジネスを提供できている会社は他にはない。承継したいオーナーだけでなく、サポートする幹部の方々にもぜひ参加いただき、事業承継のプロフェッショナルの私たちに相談してほしい」と力強く語りました。
株式会社プロフェッショナルバンクは、今後も「ヒトで紡ぐ事業承継」をテーマにしながら、「オーナー側と後継者の対談」など、切り口を変えつつセミナーを実施していく予定。「今後のセミナー情報にご期待ください」と締めくくりました。