若手人材に投資・承継結実 山口FGのサーチファンド
山口フィナンシャルグループ(FG)は10日、若手人材への投資を起点に中小企業の後継者問題を解決するサーチファンドの第1号案件を実行したと発表した。サーチファンドによる事業承継の実現は日本では初めて。山口FGは今後、若手人材への投資を増やすとともに、この仕組みに関心を持つ他の地方銀行などと連携して全国に広げることも検討する。
後継者問題を抱えていた土木工事業者の塩見組(北九州市)の末吉政人社長(66)は同日、東京出身の若手人材である渡辺謙次氏(38)のサーチファンドに全株式を譲渡する契約を結んだ。渡辺氏が近く社長に就任し、経営を引き継ぐ。株の買収資金は山口FGが設立した投資ファンドから調達する。
渡辺氏は山口FGなどからの呼びかけを受け、2018年末から同社の営業地域内の企業調査を始めた。19年5月に設立したサーチファンドに山口FGから出資を受け、同社の支援の下、20社を超す承継候補企業の中から塩見組を選定。19年末までに末吉社長と引き継ぎで実質合意した。
塩見組は1955年創業で、西日本を中心に大型くい打ち工事を手掛ける。売上高はピークの94年には45億円あったが、近年は10億~20億円程度で推移。約20年にわたって経営を担ってきた末吉社長の後継者が親族や社内にはおらず、大きな課題となっていた。
北九州銀行本店で記者会見した末吉社長は「先代から受け継いだ会社を残し、従業員42人の雇用を守るため、引き継ぎを決めた」と述べた。
山口FGは現在、渡辺氏のほかに3人の若手人材のサーチファンドに出資しており、3人は引き継ぐ企業を探している。同社は地域の後継者不在企業を引き継ぐ若手経営者候補を10人程度に増やしていく方針。
日本でサーチファンドの普及に取り組むジャパンサーチファンドアクセラレーター(東京・江東)の嶋津紀子社長は「通常2年程度のサーチ期間が今回、半分未満だったのは山口FGの全面支援があったから」と指摘。今後、同社と山口FGが協力してサーチファンドの仕組みを全国に広げていくことも検討する。
米国発の第三者承継法 中小、後任見極めやすく
サーチファンドは企業経営者を目指す若手人材と後継者不在の中小企業をつなぐ事業承継手法のひとつで、米国で開発されて広がった。投資家は企業ではなく若手人材にまず投資し、その若手人材が自ら引き継ぎたいと思う企業を探し出し、事業承継によって企業価値を高めるという投資モデルだ。
投資家から見込まれた若手人材(サーチャー)は特別目的会社の形でサーチファンドを設立し、受け入れた資金を経費にして引き継ぐ企業を探す。企業が見つかれば事業承継に向けて自ら交渉し、投資家から資金調達して買収する。若手人材は買収した企業の経営者になり、サーチファンドは持ち株会社として残る。
後継者難の経営者が事業を存続させるため、大企業や投資ファンドに売却するケースもあるが、企業の独立性や社名は失われがちだ。今回のサーチファンドの場合、投資家が山口FGということもあり、地域に確実に企業が残り、若手人材の経営によって成長する可能性も高まる。
中小企業の経営者にとっては、交渉相手が後任の経営者になることが分かっているため、交渉中に相手の考え方や人柄、会社との相性などを見極めて判断できる。
後継者不在の中小企業を社外の第三者が引き継ぐ第三者承継は日本でも増えており、サーチファンドはその一手法として今後広がっていく可能性がある。
(谷川健三)
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