非上場企業の経営者が親族に事業承継を行う場合、承継するタイミングが重要になります。大別すると、生前の承継(生前贈与)死後の承継(相続)とに分かれます。そして、課税される税金の種類も下のように変わります。

中小企業のオーナーが自社株式を後継者に生前贈与したときに課税される➡贈与税
中小企業のオーナーが死亡して後継者が自社株式を相続したときに課税される➡相続税

(相続税と贈与税の参考記事:事業承継における資産の引き継ぎ 売買・贈与・相続と税金の基礎知識

税金の問題の詳細は税理士に相談することがほとんどですが、事業承継を考える経営者としては概要を知っておくことが望ましいでしょう。中小企業庁のページでも事業承継に伴う財務のサポートを行っていますが、やや難しいと感じられるかもしれません。

この記事では、「事業承継は死後の相続ではなく生前贈与にするべきなのか、生前に事業承継をする方が得だと聞くがどの程度なのか」という焦点で解説していきます。

生前贈与の課税額がコントロールしやすい:贈与税の仕組み

不慮の事態で選択肢がない場合を除き、生前の承継を選ぶほうが税制面で得をする場合がほとんどのため、生前贈与を選択するケースが増えています。理由のひとつとして、贈与税は相続税よりも税負担のコントロールがしやすい点が挙げられます。

贈与税が課税される対象:税負担を計算する基本の考え方

贈与税の仕組みは、次の考え方が基本となります。

<贈与税の課税対象>

事業用資産(預貯金・売掛金など)事業用債務(借入金・買掛金・未払い金など)

資産と債務の差が110万以下➡課税は生じない

資産と債務の差が110万を越える➡110万を越えた分に課税

<贈与税の申告タイミング原則>

贈与を受けた年の翌年3月15日までに贈与税の申告書を提出し、納税

数回に分けて贈与をすることも可能なので、相続税よりも計画を立てて事業承継を進めやすいといえます。結果的に、トータルの税負担を軽減することが可能です。また、今後会社の株価が上がる見込みがある場合、通常の贈与制度である暦年課税制度ではなく、相続時精算課税制度を利用することによってさらに税負担を減らすこともできます。

贈与税の申告方法:暦年課税制度と相続時精算課税制度

贈与税の申告には、暦年課税制度と相続時精算課税制度という2つの方法があります

暦年課税制度と相続時精算課税制度の制度比較

贈与税の申告方法である暦年課税制度と相続時精算課税制度の違いを比較すると、次のようにまとめられます。

区分暦年課税制度相続時精算課税制度
概要1月1日から12月31日までの1年間のうちに贈与された価額の合計に対して贈与税がかかる制度将来相続関係に入る親から子への贈与の場合、選択すれば選べる課税制度。贈与の時に軽減された贈与税を納付し、相続時に相続税で精算する。
贈与する者制限なし65歳以上の親(父・母ごとに選択可)
贈与を受ける者制限なし20歳以上の子(兄弟姉妹ごとに選択可)
選択の届出が必要か不要必要(一度選択すると相続時まで継続適用)
控除基礎控除額(毎年):110万円特別控除額:2,500万円(複数年にわたり使用可)
税率基礎控除額を超えた部分に対して10%から50%まで累進税率特別控除額を超えた部分に対して一律20%の税率
税務署への手続き贈与を受けた年の翌年3月15日までに贈与税の申告書を提出し、納税選択を開始した年の翌年3月15日までに、本制度を選択するという届出書を提出
相続時の精算相続税とは切り離して計算される
(相続開始前3年以内の贈与は相続財産に加算)
相続税の計算時に精算(合算)される。
(贈与財産は【贈与時の時価】で評価される)

中小企業庁事業承継ガイドライン20問20答「生前贈与を活用したいのですが、どのように行えばよいですか?」を元に表を再構成)

相続時精算課税制度がお得になる場合とは:株価の予測

注目すべきは、相続時精算課税制度は、贈与時の時価で株式を計算する点です。

会社の事業成長が見込めない、あるいは残念ながら株価が下がる見込みであれば、通常の暦年課税制度で問題ありません。しかし、これから自社の株価が上がっていくことが見込まれるのであれば、相続時精算課税制度を選ぶことによってトータルの税負担が抑えられると考えられます。

贈与税は条件次第で納税免除になることもあるので税理士相談がオススメ

さらに、非上場株式等についての贈与税の納税猶予特例という制度もあります。原則の規定で計算した贈与税額の全額が納税の猶予を受けることができ、かつ一定の要件を満たすと猶予された贈与税が免除されることもあります。詳しくは専門家である税理士に相談することになりますが、相談するための前提知識を知っとくと、相談しやすくなりますね。

贈与税特例の適用要件とは何か?

生前贈与した非上場株式に対する贈与税特例の適用を受けるには、以下の3つの要件があります。

①会社の要件

中小企業における経営承継の円滑化に関する法律に基づいて認定を受けた中小企業であることなど、複数の要件があります。

②贈与をする経営者の要件

贈与をする日の前のいずれかの日に会社の代表権があること、贈与時には会社の代表権を有していないことなどの要件が定められています。

③贈与を受ける承継者の要件

20歳以上であることや贈与を受ける時点で会社の代表権を有していること、贈与を受ける時点で役員などになって3年以上が経過していることなどがあげられます。

要件によっては、生前贈与をする前から準備しておく必要があるので、事業の生前贈与を考えた段階で 計画を立てておきましょう。

「生前贈与を申告せずに納税をごまかす」のは税務上リスクが大きい

「いっそ、生前贈与を申告せずにおけば、税務署は気付かないのでは?」と思われる方もいらっしゃるかもしれません。実際、贈与税や相続税の税務調査はどの程度行われているのでしょうか。

贈与税の税務調査の実態:相続時に調査されやすく追徴課税9割以上

贈与税の税務調査は全国で4000件弱行われており、9割以上のケースで追徴課税が課せられています。

税務署が特に厳しくチェックするのは相続税の申告時です。亡くなった方の過去10年の預金通帳がチェックされ、結果として生前贈与をしていたことが判明するケースが多いそうです。

贈与税よりも相続税のほうが税務署は税務調査を行う傾向にあります。大体5件に1件の割合で調査が入り、多くの場合追徴課税が課せられます。

安易な脱税は後が大変です。正しく申告しつつ税負担を減らす策を講じるほうが安心ですので、早い段階から事業承継を得意とする専門家と相談の上、計画的にコスト削減をしていきましょう。

まとめ:事業承継をするなら相続よりも生前相続が得なケースが多い

ここまでの解説をまとめると、次のようになります。

・生前相続を計画的に進めれば、経営者死亡時の相続税よりも贈与税の税負担を総合的に減らすことができる

・贈与税の申告方法は、暦年課税制度と相続時精算課税制度の2つがあり、自社の株価が上がる見込みが高ければ、相続時精算課税の方が得になりやすい

贈与税の猶予特例が適用できる条件を満たせば、納税の猶予や免除を受けることもできるので税理士に相談しておこう

生前贈与を申告せずに、税務署の課税を逃れる方法はリスクが高い。早めに計画を立てて税負担を減らす方法を考えよう

事業承継は色々なコストがかかるプロセスです。事前に計画を立て、専門家の力を借りて、計画的に事業の生前相続をすすめることで、承継者の負担を減らすことができるでしょう。