中堅・中小企業の組織の「戦略実行推進役」を担ってきたKANDO株式会社代表取締役の高橋 輝行氏。承継後の社長が嵌りがちな落とし穴と、今後の事業成長への課題についてお話をお伺いしました。

高橋氏の今までのキャリアとKANDOの事業概要

ーー○現在に至るまでのキャリアと事業概要を教えてください

大手広告会社、知財コンサルティング会社、そして企業の経営実行支援のコンサルティング会社を経て、2010年にKANDOを創業しました。現在は、中堅・中小企業の戦略実行の推進役として企業の変革実現に並走しています。

前職のコンサルティング会社では、クライアント企業へ出向し組織の内側から変革を推進する仕事をしていた経験から、これから多くの企業で「推進役」が必要になると感じていました。特に、企業の変革タイミングとなる事業承継にニーズがあるだろうという確信がありました。

というのも、承継後の社長には推進役を必要とする局面が大きく3つあるからです。

1つは、ある程度の方針はあるものの古参従業員との食い違いや抵抗勢力との衝突で、組織を思うように動かせないケース。次に、総論賛成だが各論に入ると急に組織の動きが遅くなる、止まってしまうケース。最後に、そもそも社長自身が方針を決め切れない、決めたとしても行動に移せず組織全体がモヤモヤしているケースです。いずれも互いに考えがすり合っていない“だけ”か、考えの解像度が低い“だけ”なのですが、ついアクション探しに走ってしまい、経営目標を掲げる、戦略の策定、経営管理の整備、人事評価手法の導入といった「外形的規定」、つまりハードウェア作りに没頭し組織全体が疲弊してしまう場面をよく見てきました。これが悪いとは言いませんが、戦略実行を推進する機能(人材)というOS(オペレーティングシステム)があってはじめてワークします。このOSの存在に多くの企業が気付いていないところに、問題の根深さを感じています。

 

承継後の社長に必要なのは「推進役」

ーー○どうして「推進役」に多くの企業が気付いていないのでしょうか。

ほとんどの人が企業を「ヨコ」から動かした経験がないことに起因します。一般的には企業は「タテ」の繋がりで形成されます。それゆえ、自然と上意下達で動くことになりますが、そこには「上は明快で納得感のある方針を持っている」と「下は実行する能力を備えている」という暗黙の前提が存在しています。しかしながら、変革を推し進めるフェーズでは未経験のことが多いため、その前提が崩れ組織活動がフリーズしてしまうことは多々あります。そのような状況下で、上から下へ「何か問題はないか?」と聞いても答えようがありません。私たちは「ヨコ」から組織に入り、経営者や従業員と議論を重ねながら事業成長を阻む問題と推進すべきテーマを特定していきます。まれに「組織サーベイ」(従業員アンケート)を行われる企業がありますが、このフェーズでは従業員の不平不満や個人的希望等、表層的状況把握に留まり、事業の成長に向けた取り組みから遠ざかることもあるので要注意です。

 

 

ーー○具体的に「推進役」とはどのような役割を担うのでしょうか。

主な機能としては大きく3つあり、① 経営方針の組織的な合意形成② 組織上抜け落ちがち、停滞しがちな重要テーマの拾い上げと進捗③ 社内だけではブレークスルーが起こりづらいテーマのプロジェクト管理です。①によく見られるのは、社長が「こうしよう!」という掛け声に対して幹部以下はついていけない、もしくは冷ややかに見ている状況です。ここで大事なのは、経営者と幹部との「議論の進め方」で、双方が納得いくプロセスの設計進行が推進役に求められます。②でよくあるのが、複数部門に関わる問題で互いに対立しているケースです。「そちらがやってくれないと!」「こちらにも優先順位というものがあって」「双方事情があるだろうから出来るところからやっていけば…」会議でそんなやり取りがされていたら危険信号です。ここでは、真の問題の特定と、解決に向けた関係者の取り組み整理が推進役の腕の見せどころです。③は新規事業開発やM&Aなど、外部の知見を必要とするケースです。推進役は、実行役と共に外部の専門家探しやプロジェクトへの引き込み、知見を上手く引き出しながら価値を生み出すディスカッションをリードしていきます。「推進役」を一言でまとめるなら、議論を通じて組織の知的活動を引き出し実行へ導くエキスパートと言えるでしょう。

 

ーー○これまで「推進役」をされて思い出に残ったケースがあれば教えてください。

ある老舗メーカーの3代目社長とご一緒した事業構造改革です。その会社は、3代目が事業承継後、市場の急速な縮小により5期連続赤字に陥っていました。社長は、経営幹部やコンサルタントと話し合うものの、方針をまとめきれずにいました。知人を介して社長を紹介頂いたのですが、私たちはあえて、環境変化要因・売上テコ入れ余地・コスト削減可否といった前提条件を個別に、段階を追いながら実行レベルまで議論を丁寧に積み重ねました。結果、事業からの撤退が方針としてまとまり、その後従業員との条件合意や、顧客・取引先との調整を進め、方針決定から7カ月で撤退を完了、その1年半後には黒字化を実現しました。ポイントは、撤退案は当初からぼんやりと存在はしていたが、重すぎる判断であるためずっと目を背けられていた点。事後の社長コメント「何となく事業を撤退すべきではと思っていたものの、どのように進めたらいいかも含め決め切れなかった。しかし、議論であらゆる方向を潰し、事業撤退が可能でありベストなプランである、と腹に落ちた」にみられるように、重要な意思決定や方針合意にはそれに資する議論の設計と進行、組織の巻き込み方には特に気を配りました。推進役として結果を出せたことは専門家としての自信にも繋がりました。

 

社内の「推進役」育成の重要性

ーー○高橋さんは「社内推進役」の育成もされていますが、その理由をお聞かせください。

私どものような「社外推進役」は、変革待ったなしの状況で機能すべきものであって、本来は社内に推進役がいることが望ましいと考えています。中堅・中小企業ではどうしてもトップダウン型で従業員の自主性が薄まりがちですが、従業員自ら問題に気付き解決へと動く自律自走型組織への転換が求められる昨今、「社内推進役」の重要性は高まっていると感じます。以前、総合人材サービス企業の創業社長の事業承継案件では社内推進役のOJTを行いましたが、これまで何となく思っていたもののウヤムヤにしていた問題に正面から切り込めるようになりました。組織を巻き込み推進する経験を重ねるうちに、みんなの共創意識が醸成され、自然と組織の足並みが揃うようになっていきました。OJT開始前の「従業員に何度言っても思うように動いてくれない」との社長コメントから、「みんなが活発に議論し合い楽しそうに仕事に取り組むようになった」と変わられたことに、自身が推進役としてのやりがいとはまた一味も二味も違った喜び、面白さを感じています

 

ーー○最後に、事業承継された社長へのメッセージをお願いします。

承継社長には私と同世代(70年代生まれ)の方も多いですが、共通認識として「このまま同じことを続けていては生き残れない」がベースにあると感じます。現業を深めながら新たなことに挑むといった両利き経営が求められる時代にこそ、みんなで頭を賢く使ってワクワクする創造的な仕事を創り出し、事業を伸ばして行きましょう。私たちは、組織の戦略実行を推進する強い意志と経験スキルを兼ね備えた「推進役」の提供・育成を通じて、企業の変革実現に伴走できれば幸いです

KANDO株式会社 代表取締役:高橋 輝行

東大卒業後の2000年、博報堂に入社。数々のブランドプロモーション、 大手通信教育サービスの開発・広報などのプロジェクトを経験したのち、SBIグループで大手メーカーと知財戦略の構築に携わる。2007年からはハンズオン型コンサルティング会社、経営共創基盤にて、大手エンタメ企業の再建に尽力。同社の経営陣、従業員と共に年間18億円の赤字から黒字化を実現する。2010年7月にKANDO株式会社を設立。思考と行動を劇的に高速化する独自の思考フレームとディスカッション手法で、数々の企業の課題解決を支援し、事業成長へ導いている。著書に『ビジネスを変える!一流の打ち合わせ力』(飛鳥新社)、『頭の悪い伝え方 頭のいい伝え方』(アスコム)。

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制作:株式会社エーアイプロダクション

取材・撮影・編集:伊藤秋廣(Akihiro Ito)

執筆:武田光晴(Mitsuharu Takeda)