起業家もかっこいいけど、アトツギもかっこいい|ベンチャー型事業承継とは

事業承継を控えている後継者にとって大変参考になる事業を複数展開している、
一般社団法人ベンチャー型事業承継の事務局長をされている奥村 真也氏に、インタビューの機会を頂きました。

2018年6月の発足以来、様々な連携機関との取り組みを実施し、多くのアトツギ(後継者)の方々の支援を行われている具体的な内容をお伺いする機会を頂きましたので、ご参考下さいませ。

一般社団法人ベンチャー型事業承継、そして、アトツギU34に関して

 

ーー○まずは、一般社団法人ベンチャー型事業承継について概要をお伺いできますでしょうか。

「中小企業の後継者」というと、スタートアップのような若者を惹きつける魅力にどうしても乏しい面があります。
深刻化する中小企業のアトツギの在り方を一新するべく、「一般社団法人ベンチャー型事業承継」を2018年6月に発足しました。
官民さまざまな組織と連携し、中小企業のアトツギになる若者を支援することを目的とする組織として、起業のように20代の若い世代が主体性をもって希望をもってチャレンジするというイメージを持たせるべく、スタートアップ界隈や民間企業の経営者を役員に迎え設立した組織になります。
当社団は、団体が持つネットワークやノウハウを生かして、健全な野心と健全な危機感をもって新しい挑戦をしようと考えているアトツギのためのプラットフォームになっています。
具体的に主な事業は3種類あります。

イベント・研修(アトツギソンなど)
独自のプログラムによる新規事業開発支援等のイベントを展開

オンラインサロン(アトツギU34
野心系アトツギのためのオンラインサロン運営|

アトツギ総研
根本的な事業承継問題の解決を目的とした研究・分析事業・ベンチャー型事業承継政策への提言や事例発信

等を行なっています。

イベント研修としては、 地域の行政機関や民間企業と連携し、ハッカソンのように家業の経営資源で新しいビジネスを考え倒す3日間耐久レース「アトツギソン」です。
また、スタートアップのプレゼン大会のピッチのようなアトツギ限定のピッチ大会「アトツギピッチ」などを開催しています。
アトツギに「あなたたちはベンチャーの卵なんだよ」という発信をすることで、彼らの意識改革をするところから徐々に進めております。
そこから本当にベンチャー企業として事業化を進めていく人には、資金調達、ブランディング、採用戦略など、アトツギベンチャーならではの課題を解決するメニューを今後も提供していく予定です。

アトツギU34は、 家業に対して健全な”野心”と健全な”危機感”を持った「家業で何かやってやるぞ」という気持ちの強い(野心的な)34歳未満のアトツギと、家業の経営資源を使って挑戦を重ねている少し先を行く先輩アトツギベンチャー経営者(=メンター)のみが参加できるクローズドなコニュニティを運営しています。
オンライン上でのお悩み相談や情報共有だけでなく、アトツギらが自ら企画し、新規事業アイデアの“壁打ち”や事業の進捗を報告し合うオフラインでの定例ミートアップを全国各地で開催しております。

アトツギ総研は、 2019年12月にアトツギ総研という日本初の挑戦する後継者の課題に特化したシンクタンクを設立しました。
新しいビジネスの事業化に向けて同じ世代のアトツギ同士で切磋琢磨する一方で、先代との関係や資金調達など同族継承の後継者ならではの共通課題が浮き彫りになってきたからこその取り組みです。
現役経営者の課題については、官民がまとめたデータが世の中にありますが、承継予定の若い世代の課題については、情報がほとんど存在していないのが現状です。
アトツギ総研は、当団体のさまざまな取組みで得る彼らの生身の意見や定量的なアンケートを元に分析結果として広く発信することで、行政の政策立案や課題解決につながる民間サービスの誕生に寄与すると考えております。

ーー○具体的にありがとうございます。設立に至った背景もお伺いできますでしょうか。

関西を中心に中小・ベンチャー企業に対する支援を行なってきた代表理事の山野は、関西学院大学と関西大学で「後継者ゼミ」を開講しておりました。
そこで、事業承継のテーマは株の承継、相続税対策、資金手当などの実務的な話題が中心になっており、「継ぐ側」の目線に立った支援が世の中にほとんど存在していないことをついう関してきました。
先代らが築いてきた事業を守るということに地味なイメージがつきまといワクワク感がない。
これでは、若者が家業を継ぐことを嫌がるのも当然だと感じたそうです。

しかし、家業を継いだとしても、時代の変化に事業を持続し成長させていくにはイノベーションが不可欠。
「ベンチャーに負けない抗争力や冒険心、実行力で家業を盛り立てて行こう」「アトツギだってかっこいい」という思いが、「ベンチャー型事業承継」や「アトツギベンチャー」という言葉を創造しました。
関西発のこのムーブメントを産業界と連携して、もっと大きい波にするために2018年6月ほに法人を設立、多くの企業を巻き込みながら活動を広げやすくするために一般社団法人とした。

支援対象を34歳未満としている理由としては、この年齢だと先代がまだ現役で、たとえ後継者の新規事業が失敗しそうになっても、会社の存続に関わる前にブレーキが掛けられることや、
後継者本人に体力があり、情報感度が高く、フットワークも軽いことが挙げられます。
これが事業を引き継ぐと、既存事業の維持、人材、業務改善など日々の経営に忙殺され、新規事業に着手する時間はなくなります。

したがって、「10年後のメシの種を蒔く」新規事業開発は、アトツギが経営を引き継ぐまでの期間にしかできない。
現役経営者に対する支援メニューは行政をはじめとしてごまんとあるが、アトツギ支援メニューは皆無と言っていいほどない。これらの事により、当社団として34歳未満のアトツギ支援に特化しています。

アトツギソン|独自のプログラムによる新規事業開発支援等のイベントの具体的な内容

アトツギソンブラッシュアップの様子

 

ーー○アトツギソンは、オンラインサロンよりもより実践的な印象を受けました。実際に、家業の経営資源を開示して3日間考え倒すと思うのですが、そういった場合やはりアトツギの皆様の本気度は変わってくる物なのでしょうか。

アトツギソンはオンラインサロンよりも手前に位置付けています。
なんとなく家業を変えられないかと考えているアトツギの人が自身の家業を変化に変化を与えるヒントを持ち帰って頂けるという目的で運営されています。
実際には、4,5人のチームになって一人家業に対して、事業の変革プロセス一緒になって考えることで事業を立案するプロセスを学べるということが、アトツギのみなさまにとっては大変有益な環境だと考えています。

その場での大胆な事業変革が生まれるケースはまだ少ないですが、同じ志や環境・背景を持った方々が繋がり、日夜お酒を交わしながらも、一つの目的に対してアプローチする経験を共有できるという環境を提供することでアトツギのみなさまの本気度が増していくことを運営しているメンバーは感じています。

また、そこで出会ったアトツギという同じ境遇のコミュニティも持ち帰って頂けるというのもアトツギソンの魅力だと思います。

ーー○アトツギの皆様のお持ちの家業で興味深い事業などがございましたら、是非お伺いさせていただけますでしょうか。

現存するレガシーな産業に対して、イノベーションを起こすことができる可能性をまだまだひめているという点に面白味があります。
参加されるアトツギのみなさまの家業は、想像以上にレガシーな産業が多く、またその産業が日本を支えていたことを感じることができます。

例えば、袈裟(けさ)を販売されている企業や、瀬戸内海のタコを販売されている企業のアトツギなど、レガシーな産業で変化を与える余地がまだまだあるため、それぞれが自分の事業に向き合うという点でも経験を積み重ねることができます。

家業によっては、国内産業ととらえられていたものを、グローバルの視点であったり、AIを活用したアイデアだったり、若い方のフレッシュな思考でたくさんのアイデアが出るところが魅力です。

まだ、家業に入っていなかったり、まだサラリーマンをやっているアトツギの方も多数参加されており、家業に入っていないが故に新しいアイデアが生み出されるというところにも面白さがあります。

ーー○上限の年齢制限がおありだと思うのですが、若い方では何才ぐらいの方がいらっしゃったりするのでしょうか。

若い方では、高校生の参加者もいました。学校では学べないビジネスの構造を学んだり、家業を知ることができます。
当然、学校では出会えない、経営後継者とのコミュニティが形成されるので本人にとっても魅力的だと思います。

アトツギU34|野心系アトツギのための新規事業開拓オンラインサロンに関して

壁打ちの様子

 

ーー○ありがとうございます。健全な”野心”と健全な”危機感”というのが特徴的だと思うのですが、参加される34才未満の方々は、そういった、野心や危機感をお持ちなのでしょうか。

我々のサービスにたどり着いたアトツギは、抽象的ではあるものの、何かしらの危機感を持って来てくれている人が大半です。

「このままじゃダメなんだ」という危機感を持って、アトツギソンを経て参加してくださったり、セミナーを通してオンラインサロンに参加して下さいます。

ご質問の”野心”に関してですが、一般的には「一旗あげてやろう」「起業家と渡り合えるような事業を立ち上げよう」ということを言われることが多いですが、このオンラインサロンでは”野心”はこのコミュニティを通して徐々に火が付いていくケースが多いという印象です。

コミュニティの性質として、野心的であることに拘って運営しております。

入った当初は、一般的な”野心的”がなくても、徐々に周囲に感化され、同じ境遇を持つ”野心”を持ったアトツギのみなさんと会話を重ねることで、健全な”危機感”が徐々に健全な”野心”に変化していきます。

また、メンターの方々の話を聞く、サロン内でやりとりをする中で、自身の家業に対するアプローチのバリエーションが広がることで、チャレンジ精神のようなものが芽生えていくケースがあります。

ーー○オンラインサロンという形式での運営は、設立当時からお考えだったのでしょうか。

オンラインサロンという形は考えていたものの、アトツギソンを運営していく中で必要性が確信に変わりました。

オフラインのみのイベントにしてしまうと、どうしても開催当日の熱量が継続されないケースが多いというのがありました。

ある種、イベントが「お祭り的」になってしまい晴れの日があっても、翌日には日常業務に戻ってしまい折角心に灯った火を消さずに維持させることが難しい、課題として感じてた部分があります。

ただ、アトツギソンを実施した後も、アトツギソンで繋がったコミュニティが小さなコミュニティとして偶発的に複数発生していることがわかっていたこともあり、オンラインでその繋がりを維持し、常に複数のアトツギやメンターの方々が繋がりを維持し、投稿することで心に灯った火を消さずに維持することができると考え、早期に事業の柱として立ち上げを行いました。

オンライン内で悩みが共有されたり、エリアや業種でコミュニケーションが生まれます。
また、コロナ前では、オフラインでも集まってみたり、悩みの共有、事業の相談が発生していました。

ーー○2年間実施してみて、アトツギの皆様の意識の変革などが感じられたシーンなどはどのような物がございますか?

先ほどの”野心の連鎖”に類似するのですが、スタ★アトピッチという日本経済新聞が主宰しているイベントや、アトツギピッチなどに、U34の会員が様々なピッチ型のイベントに参加するというのが事象として出ております。

コミュニティに参加メンバーが、実際に新規事業を考え、壁打ちし、実際にピッチ大会にエントリーし、実際に優勝者が出ています。

身近なアトツギが、実際に外部のイベントに参加し優勝をしていることに刺激を受けて、年々外部のイベントにエントリーするアトツギが増えています。そう言った刺激の連鎖が着実にでき始めています。

アトツギ向けのイベント以外でもスタートアップ向けのイベントであったりと。エントリーしているイベントも広がっている印象です。

アトツギの方々は今まで、アウトプットをする場が少なかったのですが、世の中でも応援する環境が増え、次の世代に火を付けるような仕組みが出来始めているというのは、すごくいいサイクルだなと思います。

アトツギ総研|根本的な事業承継問題の解決を目的とした研究・分析事業 ・ベンチャー型事業承継政策への提言や事例発信サービス

ーー○2019年12月にリリースされたサービスの第三弾としてアトツギ総研はこれからどのような事業を展開しようとされてますのでしょうか。

大きくは3つありまして、一つは「アトツギを科学する」と言っているのですが、まだ、アトツギにまつわる情報はまだ整理されいません。
例えば、成功しているアトツギが所属していた業界はどのようなものがあるのか、成功した後継者の事業承継を行った年齢がいくつであったかであったり、どういう業種・業態・過去の経験の掛け合わせが成功しているか。などそう言った情報を整理し、分析を行っていくことを考えています。

2つ目は、我々の目的はアトツギが「新規事業」を開発をしていくことを支援する。という点が根幹にありますが、そのアトツギが実施する新規事業はまだまだ分析・研究されていないと考えています。
スタートアップの企業・新規事業の場合、「起業の科学」のような書籍が出版されており、アメリカのスタートアップの成功事例を元に抽象的に咀嚼され、分析されたものが存在しています。スタートアップはゼロイチで考えるケースが前提です。

アトツギの場合、どうしても提供するソリューションの中に「家業」をどう活かすかというのが含まれます。
そのビジネスを遂行していく中で、既存の事業・既存の人材が良くも悪くもついて来ます。その部分は、現在のスタートアップの事例とは異なるため、その部分を分析し提供していこうと思います。

3つ目は、コラムの形式でアトツギにまつわる話について情報提供を行っていこうと思ってます。

3つの形式で、アトツギの成功確率をあげていくための情報を発信していきたいと考えております。

最後に

ーー○話は前後しますが、奥村様が本プロジェクトの事務局長になられた背景をお伺いできますでしょうか。

地方に行った際に、地方の街並みに「多様性」がなくなって来ていると感じました。

私自身は広島出身なのですが、どこに行っても、海外資本・東京資本の企業の看板を見ることが増えていることを感じました。そこに物寂しさを感じ、地方には地方の色があると感じていました。

その地方の色を打ち出していく、地方を元気にする際に未来をになっていくと考えたのは「地方企業のアトツギのみなさん」だと感じました。

僕自身はアトツギではないのですがそんな未来をになっている、アトツギのみなさまの支援ができるのであればと思い、本事業の運営をまかせてもらいました。

ーー○3つのサービスの柱が立っておりますが、今後強化して行きたいサポート形式などがあればお伺いできる範囲でご教授頂けますでしょうか。

今後は、サービスを追加というよりは、現在の事業をより強化していくことを考えています。
中心に据えているのはオンラインサロンですので、そこに仲間をもっと増やしていきたいと思ってます。
セミナーなどをもっと拡充していき、オフライン・オンラインサロン共に絶対数を増やし、現在の300名という会員規模から一桁上回った規模にしていくことが足元の目標です。

規模を増やしていくことで、存在感や発信力が増していき、多くの情報やナレッジが集まってくると考えています。

その情報やナレッジが結果としてアトツギのみなさまの家業の発展に活用できると考えています。

ーー○まだ、アトツギU34に参画されていないアトツギの方にメッセージがありましたら、お願いできますでしょうか。

オンラインサロンという形式に、まだハードルが高いのかと感じてますが、騙されたと思って入ってもらいたいと思ってます。笑
そこでしか会えない、アトツギ同士の繋がりを作ることができ、学びを得られると思います。

オンラインサロンでは、全国どこのアトツギの方々でもつながることができます。

ーー○お忙しい中ありがとうございました。

 

一般社団法人ベンチャー型事業承継 事務局長 / 奥村 真也氏

事業承継ラボ

日本は大廃業時代に突入するとも言われ、 「事業承継」をいかにうまく行うか。そして、次の世代交代で新たなチャレンジを「IT」と「マーケティング」を活用して実施していく必要がある。 そんな、チャレンジングな強い日本企業の成長を支えて行きたいと考えています。 Facebook URL https://www.facebook.com/jigyoshokeilabo/ Twitter URL https://twitter.com/jigyoshokeilabo