B1川崎、ファン関連で2冠 来季も「攻めに攻める」
元沢社長に聞く
5月上旬に行われたバスケットボール男子Bリーグの表彰式で、1部(B1)の川崎が「2冠」を達成した。ホームアリーナでの多彩な企画が評価された「ホスピタリティNO1クラブ」と、SNS(交流サイト)のフォロワー数を最も伸ばした「ソーシャルメディア最優秀クラブ」を受賞。今季も中地区を独走した強豪は、2018年に東芝から経営権を継承したDeNAのもと、オフコートでも存在感を高めている。元沢伸夫社長は新型コロナウイルスの影響が見通せない来季に向けても「攻めに攻めてあらゆる数字を伸ばしたい」と話す。

――今季は2冠に加え、ホームでの1試合平均の入場者数が昨季の3701人から4732人と28%増えた。伸び率は2季続けてB1トップだ。
「入場者数は最重要指標で、事業側のいわば通信簿。(継承から)2年連続で増やせて率直にうれしい。2つの賞を受賞できたのは、オフシーズンからの様々なマーケティングの効果だと思う。昨季終了直後から選手のディナーショーや日本代表選手の壮行会といったイベントを2週間に1度は開催。アリーナに近い武蔵小杉駅に大きな装飾を設置し、シーズン中はJリーグの川崎フロンターレなどとのコラボイベントを積極的に仕掛けた」
「デジタルマーケティングにも力を入れた。ユーチューブチャンネルの登録者が1年で3000人から4万8000人超に増え、新規来場者のタッチポイントとしてかなり有効だった。地域密着活動も含めた5点で大きく飛躍できたと思っている。2年前に川崎であいさつ回りをした際はほとんどクラブに興味を示されなかったが、今は『頑張っているね』に変わった。非常に手応えがある」
「きれいごとではなく、スポーツクラブは地域の支えがないと経営できない。スポンサーに限らず、行政や街の人は無償で様々なPRをしてくれる。新型コロナに対してはマスクを贈呈したり、オークションの落札金を市に寄付したりした。社会貢献というより恩返しに近い感覚が以前からあり、スタッフや選手の間でそういった気持ちがより強くなったと感じている」

――新型コロナの影響でシーズンが途中で終わった。昨季の営業収入は約6億6000万円(事業継承前の3カ月の収入は含まれていない)。今季の見通しは。
「チームも好調だったのでプレーオフで優勝したかった。もともと参入3年目での黒字化が目標で1年目は営業赤字が約4億円。今季は中断前の実績で赤字は2億台に縮小する予定が、コロナの影響で約2億円の減益は確実だ。一方、中断前のチケットや物販収入は昨季から50~60%増加。スポンサーも昨季の80社から140社に増えた。すぐキャッシュが止まる状況ではない」
「スポンサーに対しては、アリーナ内での露出以上にクラブの商標やアクティベーション(販促活動)でどれだけ貢献できるかが大切になる。ユーチューブチャンネルでスポンサーを紹介するコンテンツを作ったり、ドキュメンタリー映画で連携したりする形だ。これまでは冠スポンサーなど試合にひも付くことが多かったが、デジタルを活用したメニューをもっと増やしたい」
■選手と一緒に「どう収入を増やすか」
――10月に開幕予定の来季も、どのような形になるかは予断を許さない。
「開幕が遅れる、無観客試合、人数制限も半分までなのか、10%なのか……など様々なパターンを想定し、演出や空間を検討し始めている。人の少ない中でどれだけホームの熱狂をつくれるかが大きなテーマだ。(感染を恐れて)見に行きたくないと思う人もいるので、アリーナ以外でどう試合を楽しんでもらうか。川崎市内には多くの公共スペースや大型ビジョンがあるので、そこで試合の映像を流すライブビューイングなら、完全な密閉空間よりは多くの人が楽しめるかもしれない」
――無観客試合がずっと続く事態を想定し、選手の年俸を変動させるような考えはあるか。
「今のところ考えていない。選手とはそういう事態になったら、オンラインの施策やスポンサーのアクティベーションをより一緒に手伝ってくれと話をしている。試合ができないから収入が減る、ではなく、どう収入を維持し、増やすかを一緒になってやっていきたい」
「リーグに対して何も支援がいらないというわけではないが、結局はクラブがどれだけ頑張れるか。大河正明チェアマンは来季以降はしばらく守りのシーズンと話しており、その通りだとは思うが、厳しい中でも攻めに攻めたい。Bリーグがこれだけ全国的に盛り上がっている流れは止めるべきではない。こんな状態でもバスケットは成長していることを示し、リーグのポテンシャルをもっと上げられるクラブになりたい」
(聞き手は鱸正人)