やきとり「ひびき」破綻約1年、再生へ承継会社が奮闘
「名物やきとりです」――。6月上旬、埼玉県東松山市の「やきとりひびき東松山駅前本店」を訪ねると、以前と変わらず秘伝の味噌だれを添えた熱々の豚肉の串焼きが出てきた。新型コロナウイルスの影響で客はまばらだが、内装もメニューもほぼ同じで、2019年8月に運営会社、ひびき(埼玉県川越市、現HM管財)が破綻した影響は感じられなかった。
ただ、運営会社は6月1日から変わっていた。テークアウト専門店を含め全約20店を統括するのは同名の新会社、ひびき(埼玉県東松山市)だ。居酒屋などを展開する、とりビアー(宮崎県都城市)が事業承継のため立ち上げた。
旧ひびきの事業を分割し、新ひびきが引き継いだ。買収額は約1億4000万円。旧ひびきは残る事業を整理し、売却益を原資に債権者に弁済を進める。とりビアーの桑畑直樹社長が新ひびきの社長を兼ね、旧ひびきの社長だった日疋好春氏は経営から退いた。
旧ひびきは店舗や事業の急拡大で人件費やM&A(合併・買収)の費用が膨らみ、資金繰りの悪化から約77億円の負債を抱えて民事再生法の適用を申請した。その後、売り上げや資産の水増しなどによる粉飾決算や、不適切な資金調達も判明。日疋氏は地元食材を使った埼玉ブランドの発信などで知られた若手経営者だっただけに、驚きをもって受け止められた。
当初は日疋氏が経営権を持つ自主再建を探ったが、粉飾決算などの発覚で債権者の賛同が得られず、19年末にスポンサー型へ移行した。金融機関を介して支援に名乗りをあげたのが、東京都内を中心に居酒屋を手掛けるとりビアーだった。
桑畑社長は親会社である食肉加工のエビス商事(宮崎県都城市)の創業者の三男。エビス商事グループの売上高は400億円ほどで、飲食店はミャンマーなど海外4店を含む27店を展開する。とりビアーはその宮崎直送の鶏肉が売り物。焼き鳥は串に刺さない皿盛りで提供し、名物の「生親子丼」は380円(税抜き)で味わえる。
桑畑社長は買収の理由を「海外展開を見据え、とりビアーで手掛けていない串打ちの業態を展開したかった」と話す。串に刺した焼き鳥の方が日本らしさを訴えやすいという。
30ほどあった店舗は旧ひびきが不採算店を順次閉めていた。メニューなどは変えずに店舗イメージは保つ。正社員やアルバイトなど約250人の雇用も継続する。コロナ禍で伸びるテークアウトの強化も検討する。
仕入れ先の見直しなどでコスト削減を進め、経営基盤も強める。鶏肉はエビス商事からの仕入れを見込むほか、目玉のやきとりに使う豚肉も食肉業界に精通するエビス商事を通じ、仕入れ価格を適正化していく。
経営陣の刷新に加え、本社も旧ひびきの川越市から、「やきとり」発祥地とされる東松山市に移した。東松山駅周辺には3店舗が隣接し、まちの名物を発信する。
同市の焼鳥組合の関係者は「旧ひびきとはトラブルもあったが、東松山のやきとりを全国発信した大事なチェーン店」と再生にエールを送る。民事再生の申請から近く1年。新型コロナで飲食業界が苦境にあるなか、堅実な経営体制を築けるかが問われている。(伴和砂)