広島の4信金、事業承継で連携 買い手候補互いに紹介
広島県内の4つの信用金庫は9日、取引先の事業承継を後押しするネットワークを立ち上げた。引き継ぎ先の候補となる企業を紹介し合うほか、信金中央金庫の提携先の専門機関も活用する。県内では後継者難に加え、新型コロナウイルスによる業況悪化で中小の廃業が増えかねない。各信金は地域の技術や雇用を守る取り組みを「点」から「面」で展開する狙いだ。
同ネットワークに参加するのは広島信金(広島市)、呉信金(広島県呉市)、しまなみ信金(同三原市)、広島みどり信金(同庄原市)。信金中央金庫や同中金が提携する専門機関、信金キャピタルなども入る。
4信金は事業承継の相談があった場合、買い手となる可能性がある取引先の情報を交換する。従来はそれぞれの金庫の取引先内で引き継ぎ先を探すことが多かったが、営業エリアが限定されているために限界もあった。他の信金の協力を得ることで、事業基盤を県内にとどめることにつなげる。
今回の取り組みでは信金同士の横の連携に加え、信金中金が業務提携を結んでいるスタートアップ企業や専門機関なども力を発揮する。トランビ(東京・港)が手掛ける事業承継の仲介サイトに各信金が案件をあげることで、より広域で買い手企業を探すことができるようにする。
事業承継を検討する売り手企業は相手探しに時間や費用がかかることが多く、煩わしさから廃業を決める例も少なくない。買い手とのマッチングまでは売り手に費用がかからない仕組みにすることで、廃業ではなく事業譲渡や売却といった承継につなげることを目指す。マッチング後の監査や株式譲渡にかかる契約書類の作成などはミロク情報サービスグループなどが税理士や会計士を紹介する。
同様の仕組みは昨年秋に岡山県でも立ち上がっており、今回は全国で2例目。岡山では既に複数の成功事例が出ているという。
広島でも同ネットワークが立ち上がった背景には、県内の後継者不足の問題がある。帝国データバンク広島支店がまとめた調査によると、県内企業の後継者不在率(2019年)は7割超。全国で4番目に高い水準だ。県内の経営者の平均年齢は59.8歳と、高齢化も年々進行している。
足元では新型コロナの影響で、幅広い業種で収益環境が悪化している。呉市では日本製鉄が呉製鉄所(現・瀬戸内製鉄所呉地区)を23年9月末までに閉鎖することもあり、県内での廃業増も懸念されている。19年の県内における休廃業・解散件数は650件と、3年ぶりに増加。帝国データバンク広島支店の藤井俊氏は「今後はさらに増加基調になる可能性が高い」と指摘する。
9日の発足式で、広島信金の武田龍雄理事長は「コロナによる廃業は何としても防ぎたい」と話した。地域金融機関としては取引先に事業を継続してもらうことが最も望ましいが、「事業承継も一つの選択肢として提示できることが大事」(呉信金の向井淳滋理事長)。廃業を防ぎつつ、円滑な承継の好事例を県内で共有する取り組みも欠かせない。
(田口翔一朗)
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