社労士として「ヒト・組織」を通して事業承継を支援されている社会保険労務士法人ネクステップ。就業規則を通して経営者の想いを後世に伝えていくことをサポートされています。
社労士だからこそできる事業承継支援について、山崎氏と菊池氏にお話をお伺いしました。
創業のきっかけ
――ネクステップをスタートしたきっかけをお聞かせください。
菊池氏:
10年間勤めてきた社労士事務所を去年の8月に退職し、個人事務所を開業しました。
社労士になる以前は、百貨店に約17年間勤めており、店頭の接客や商品開発などの様々な業務を経験させて頂き、その中でマネジメントさせて頂く機会がありました。百貨店は色々な会社様とお取引があり、実際に取引先の社員様が店頭に立って接客をしていたりもします。
そういった様々な人々をマネジメントし、多くの方の力を借りながら一つのチームとしてまとめ上げ、売り上げの達成に向けて取り組みました。その業務が私はやりがいを感じていました。
個人的にも結婚や出産を経験して、百貨店のお仕事はどうしても不規則になりがちなので、キャリアチェンジを考えて百貨店を退職しました。百貨店での原体験もあり、人と関わることが好きだったので、一生人と関わり続けられる仕事をしたいと思い、社労士になることを決意しました。
その後、10年間勤めていた社労士事務所で山崎さんと出会いました。10年間で社労士のお仕事を一通り携わらせて頂きましたが、企業様の労務関連に携わる中で、制度を整えるだけでは不十分だと感じました。就業規則などのハード面だけを整備していくのではなく、社長様や従業員の方々の想いなどソフト面にも寄り添っていく事が重要だと思いました。
勤めていた社労士事務所では、どうしても「想い」に充分添い遂げることができなかったので独立し、その後、山崎さんと合流して、現在は共に日々業務に励んでいます。
山崎氏:
私は、もともとは国家公務員として勤務していました。社会保険関係の役所に約8年間勤めており、社会保険の調査官も一時期担当していました。当時は、年金の未納問題で社会保険庁がバッシングを受けていたこともあり、様々な中小企業様へ伺うと非難されることも多々ありました。
そこで、手に職をつけたいと考えるようになりました。さらに、社労士としてご活躍されている方との出会いもあり、未知なる可能性に憧れ、試験に合格して、一念発起し、勉強したところ、1回で運よく受かりました。
勤めた社労士事務所では、正社員から始まり、管理職、最後は役員を務めさせて頂きました。役員の時には組織を大きくすることにも取り組み、従業員が約5倍の30人規模へと増員していく中で、組織を作り上げていく事を経験致しました。
また、その社労士事務所の代表の年齢もあって事業承継問題に直面する機会があったりして、やはり人・組織を専門としている社労士として、また事業承継士として人・組織の背中を押したいと思い独立致しました。
――「ネクステップ」の由来をお聞かせください。
クライアント様の次の一歩を踏み出す後押しをしたいと考え、「ネクスト」と「ステップ」を組み合わせてネクステップという社名に命名しました。
HP:https://work.sr-nextep.com/
社労士が事業承継を支援する
――御社の事業概要をお聞かせください。
まず社労士法人としての労務などに関するサポートをしており、合わせて事業承継支援を行っています。
具体的には、経営者や後継者に対して「事業承継」というものをしっかりと理解して頂く、ロジック的な方法論だけでなく、先代が築き上げてきた事業や組織への想いをしっかりと理解して頂き、後世に引き継いでいけるよう仕組みを作っていくサポートをしています。
最近では新型コロナウイルスの影響も受けて、窮地に立たされている企業様も少なくないと思います。そんな状況下もあって、”就業規則”や”評価賃金制度”の作成・見直しを支援しています。また、最近多いのが、社員の満足度調査の実施、アンケートの作成支援等を行っています。
組織変革が求められるなかで、これからどのように現組織を刷新していくべきかの方向性を明確にしていくサポートもしています。
――社労士という立場を活かしてどのように事業承継を支援されていますか?
我々は社労士という職業柄、事業承継支援をヒト・組織にフォーカスしています。あくまで事業承継を”点”の出来事だと捉えており、トップが先代から後継者へと変わる、財産・不動産の名義が変わる、といった局所的な出来事だと考えています。
ヒト・組織をテーマに→ヒト・組織の視点で考えると、事業承継を軸にビフォーとアフターがあって、その中で関わる人々の支援していくというのが我々の考え方です。先代及び後継者が5年後・10年後の事業承継をどうしていこうかと考えた時が事業承継の始まりだと考えています。
実際の事業承継が発生する前から、先代に寄り添いながら様々な組織を見てきた知見を活かしてサポートしていきたいと考えています。さらに事業承継後、トップが変わった後の組織マネジメントについても後継者に伴走しながらサポートしていきたいとも考えています。
就業規則を通して経営者の想いを未来へつなぐ
――実際にどの様なお客様をご支援されていますか?
山崎氏:
現在、東京や大阪に店舗を構えておられる創業95年の和菓子屋様の就業規則を見直すご支援をしております。現経営者である2代目から、これまでアバウトに規定されていた就業規則を見直したいとご依頼頂きました。
先代は創業者ということもあり、時代の流れを読み解いたトップダウンの手法でパワフルに経営されてきました。
一方で、2代目は「従業員の方々の意見をしっかりと吸い上げながらチームで組織を作り上げていきたい」という想いがありました。そこで我々がサポートさせて頂き、創業者と2代目の双方の想いを乗せて、かつ今の時代に合った就業規則の作成・見直しを行っております。
菊池氏:
就業規則は法律に則る必要があり、監督署にも提出しなければいけないものですが、実は、就業規則には経営者の想いや理念が込められており、その想いや理念を見える化するものと考えています。それを実現する為の取り組みとして、大阪の社労士の先生で”100年就業規則”という取り組みをされている方がいらっしゃり、私も昨年その先生の勉強会に参加致しました。
そして、現在ご支援している創業80年の製造業のお客様と100年就業規則を作成しました。
100年就業規則の作成は、まず既存の就業規則に明記されている会社のルールについて、「なぜそのようなルールを決めたのですか?」「お休みってどう考えていますか?」「どういう基準で採用していらっしゃるのですか?」など、経営者様がどんな想いでその就業規則を設けているかをヒヤリングします。
就業規則をもとにヒヤリングをしていくと、子供のころの思い出や、先代のことを思い出す経営者様が多いです。そうすると先代がどんな思いで会社を経営していたか気づくことができ、また、次の代に引き継いでいこうという想いが芽生えてきます。
実際に、就業規則の条文それぞれに対する想いをライティングし、条文と感情を隣り合わせで表現した100年規則を作成した時に社長がすごく喜んでくれました。経営者に問いをかけて思い出してもらうことで、事業承継に対する準備にもなる素晴らしいツールだと実感し、就業規則を通して事業承継を支援できる社労士ならではの支援だと感じました。
また、就業規則以外にも、社史を作ったりしながら会社の歴史や想いを次の世代に繋げていくことで、事業承継に対するお手伝いができるのではないかと考えています。
――事業承継に関する悩みはどのように吸い上げていますか?
事業承継の問題や悩みは、簡単に外に出てくるものでは無く、潜在的な悩みだと感じています。また、多くの経営者様にアンケートを実施してみると、「事業承継」というワードを出した途端に「何か商品・サービスでも売られるのではないか?」と、支援者に対して身構えてしまう実状があることにも気づきました。
事業承継を通して相続なども発生するので、不動産や金融資産を購入して相続税を抑えるといった話をされる機会も多くあるようです。
我々は事業承継との接点をシンプルに考えており、まずは先代がこれまでどのような想いで会社を経営されてきたかを聞かせて頂く・学ばせて頂くという意識を心掛けています。
ネクステップの強みとこれからの展望
――ネクステップの強みはなんですか?
私共は、お客様によく「社労士っぽくないね。」と言われます。では、社労士の一般的な業務が何かというと、各種社会保険関係手続き、給与計算、助成金の申請などの定型業務が主で、これらは発生した事象の事後対応の業務です。
我々が得意としていることは、会社に伴走しながら、未来を共に描いていく役割です。また、それは実際に事業承継の課題に直面する先代もしくは後継者からも求められていることでもあります。最近のトレンドで言うと、働き方改革のような大きな法改正もあり、労務問題やハラスメント、また新型コロナウイルスにに対応した在宅ワークの検討など、働く環境が大きく変化しつつあります。
そのような時流に対応しながら、先代及び後継者と共に未来を創っていくことが重要だと考えており、サポートしていきたいと考えています。
――今後の注力していきたいことはございますか?
事業承継に対して社労士ができることには限りがあると考えています。
ヒト・組織を作り上げていくことはもちろんサポート可能ですが、逆に相続や株式の譲渡などは、税理士などの士業の方々と連携しながらご支援していければと考えています。
私共だけの力ではなく、プロの専門家の皆さんとワンチームになることで企業様の相互に入り組んだ複雑な課題解決に取り組んでいきたいと考えています。何をやるかも大切ですが、誰と一緒にやるかという仲間集め、なぜ、それを今やるのか?といった動機合わせを最優先に考えてサポートしていければと考えています。
事業承継をお考えの経営者・後継者へのメッセージ
――最後に事業承継で悩まれている経営者・後継者へのメッセージをお願い致します。
山崎氏:
私は、経営に正解は無いと考えています。正解の無いなかで会社を維持・発展させていくために、会社に帰属している人財(経営層、従業員)が、どのような持ち味があるかを理解し、活かしていくこと→どのような持ち味を持っているかを把握し、適材適所に活かしていくことがきわめて重要だと考えています。
その際に真っ先に相談されるのは、弁護士でもなく、税理士でもなく、ヒト・組織の専門家である社労士でありたいと考えています。共に伴走し、最善を尽くしていくことで、経営者が抱えている事業承継の悩みを少しでも楽になって頂ければと考えています。
誰にも言えない悩みを打ち明けて頂けるような相談相手を目指していますので、是非お気軽にお声がけ頂ければ幸いです。
菊池氏:
一緒に考えていける良き相談相手でありたいと考えています。急に「お悩み事を聞かせてください。」と言われても、すぐに信頼して、すべてを開示してくれる方はいないと思います。信頼して頂くためにも、我々としては長くお付き合いしていきたいと考えています。先代及び後継者と共に幾度の試練を乗り越えて、共に成長しながら取り組んでいければと考えています。
士業は「先生」と呼ばれることが多いですが、私共はそう呼ばれることが多くはありません(笑)。私共の想いとしては「先生」ではなく、経営の伴走パートナーという立ち位置でご支援していければと願っています。