近年では、コロナ禍の影響もあり急速にデジタル化(DX:デジタルトランスフォーメーション)を進める企業が増えています。それに伴い、デジタル化に対応できる人材を育てるための人材戦略「リスキリング」が注目されています。

今回は、リスキリングの重要性について解説していきたいと思います。

第四次産業革命とリスキリング

現在、世界では「第4次産業革命」とも呼ばれる革新的な変化が起きています。
IoTやビッグデータ、AIの活用によって今ある仕事のデジタル化・自動化が進み、従来人が行っていた労働の補助・代替などが可能となるため、多くの労働者の仕事が消失することが予想されています。実際に、さまざまな業種や分野で、DX(デジタルトランスフォーメーション)への取り組みが推奨されており、各企業対応が求められています。

DX:デジタルトランスフォーメーションとは、「ITの浸透が、人々の生活をあらゆる面でより良い方向に変化させる」という概念のことを指します。2018年に経済産業省が公表した定義には、「企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること」と具体的に提唱されています。

 

具体例としては、インターネットバンキングやオンラインショッピング、作業ロボットやドローンの導入等が挙げられます。各企業及び従業員はこの流れに適応する必要があります。今後DXによって、失われる職業もあれば新たに生まれる職業もあり、変化に適応できるスキルを獲得することがマストになるでしょう。

そこで現在、DX時代に対応するための人材戦略として「リスキリング」という概念が注目されており、実際に多くの企業でリスキリングが行われているのです。

※2020年11月に日本経済団体連合会(経団連)が発表した「新成長戦略」においても、失われる雇用から新たに生まれる雇用へと円滑に労働力を移動できるよう、企業が従業員のリスキリングを推し進めることを推奨しています。

 

リスキリングとは

リスキリングとは、「新しい職業に就くために、あるいは、今の職業で必要とされるスキルの大幅な変化に適応する必要なスキルを獲得するさせること」です。

端的に言えば、職業能力の再開発・再教育のことを意味します。
DXの定着には、特定のデジタル人材だけでなく、複数部門の社員が対応する必要があります。実際に、昨今の新型コロナウイルスの影響で、zoom等による「オンライン会議」や「テレワーク制度」の導入といった形でデジタル化を推し進めた企業も多いはずです。帝国データバンクの調査では、企業の 75.5%が新型コロナウイルスを契機にデジタル施策を推進していることが分かっています。そのため、企業が今後必要となる仕事上のスキル・技術を、再教育で社員に身につけさせるリスキリングが今後重要な人材戦略となるのです。

 

リスキリングの重要性

現状、多くの企業が「人材不足」という課題に頭を悩ませています。人材不足といっても、単純に人手が足りないということではありません。

DXのために必要な、高い専門性を持った人材が不足しているのです。
日本IBMおよびIBMの調査によると、AIや自動化の影響で、2022年までに世界の12の大規模経済圏における1億2,000万人の労働者は、リスキリングが必要になる可能性があります。

ただし、外部からデジタル人材を集めるのではなく、リスキリングによって、自社内の社員を再教育するべきだと言えます。なぜなら、企業が必要とする高度なスキルを自社の社員に習得させることで、採用コストの削減のみならず、これまで既存人材が作り上げてきた組織独自の文化を継承できるメリットがあるからです。

 

「私は理系じゃないからデジタルのことは分からない」「DXなんて自社には関係ない」といった固定観念は捨て、各々の適性の把握や自社のビジネスにおけるDX戦略立案を早急に行い、いち早く組織的なリスキリングに取り組むことが企業経営の安定につながります。

個人のリスキリングを行うことは容易ではありません。また中にはベテランの方で新しいスキルの習得にネガティブな方もいらっしゃるのではないでしょうか。しかし、社員には古い知識を捨ててもらい、新しい知識へのアップデートが求められている現状の認識を促してリスキリングを行いましょう。自社にデジタル人材育成のノウハウがなければ、外部の研修会社などの活用も考えてみましょう。

 

リスキリングへの誤解

リスキングに誤解持たれている方も多く、リスキングを以下のように考えてしまっている方も少なくありません。

リスキリングは、一部のデジタル人材の育成・獲得である

DXは、企業の価値創造の全プロセスを変化させ得る取り組みです。デジタル戦略を考える際にはフロントラインの人々を含む全人材に対して必要と考えるべきだと言えます。

 

リスキリングのコンテンツは、社内開発するしかない

そのようなことはなく、デジタルに強い企業でない場合、すべてを内製化しようと思う必要はありません。外部にあるコンテンツやプラットフォーマーを活用したほうが費用と時間の節約になる可能性が高い場合もあります

例えば、国内で活用できるものとしては、経産大臣が認定する「第四次産業革命スキル習得講座認定制度」があります。IT・データ活用などこれから雇用創出に貢献する分野について、高度な専門性を身に付けてキャリアアップを図ることができる講座のことです。

 

リスキリングとOJTの同じ

リスキリングとOJTは混同されがちですが、明確に異なります。
OJTは、社内に今ある部署の今ある仕事を通じて、やり方や流れを教育し、社員にスキルを習得してもらう手法です。「存在している業務のやり方を新しく着任した人が学ぶ」が基本形で、連続系での人材開発になります。

これに対し、リスキリングは社内 に「いまない」仕事、「いま、できる人がいない」仕事のための新たなスキルを獲得することです。よって、リスキリングは、「非連続性」の人材開発となっています。

 

リスキリングに必要な3つのステップ

リスキリングを始めようとしても、何をどこから学べば良いかという壁にぶつかります。残念ながら、現時点では、日本国内に参考となるような包括的なリスキリングプログラムは見当たりません。

そこでリクルートワークス研究所の「DX時代のリスキリング」プロジェクトは、このように手探りでリスキリングの仕組みを作っていかなければいけない際に絶対にはずせない3つのステップがあることを明らかにしました。

 

スキルの可視化

リスキリングを実行するためには、今保有しているスキルの実態とこれから必要になるであろうスキルを明確に認識することが大前提として必要です。しかし、多くの日本企業ではそれぞれの職務に必要なスキルを定義しきれていません。

また、一人ひとりの従業員がどんなスキルを持っているかも、厳密には明らかにしていません。日本企業はスキルデータベース、スキルマップへの信頼が低いことや、特定のポジションに必要とされるスキル明確に定義しないことで、自由自在に役割定義を変更しながら人材を活用してきた、特有の文化が関係しています。

スキルの可視化にAI技術や様々なデータ活用を通して、職種に求められるスキルを明確にし続けるべきだと考えられています。

 

スキルの獲得方法

「デジタルスキルを”仕事で使えるレベル”に高められるコンテンツはどこにあるのか」という課題があります。eラーニングや座学だけでは実際に仕事で使えるスキルが身につくとは限りません。

企業が従業員向けにリスキリングを提供する場合は、どんな仕事が今後必要で、その仕事をする人が持つべきスキルとは何かを明確にする必要があります。その上で、それを身につけるための最適なプログラムを峻別して、効果の高い学習プランを作ります。これは企業のみならず、プログラムを受ける個人にとっても大きなメリットと言えます。

コンテンツは社内で準備する以外にも、国内外を含めた社外からも見つけるべきです。Google、Microsoft等が提供するマイクロ・クレデンシャル(自社が提供する講座修了者にスキル認定証やバッジを付与する仕組み)を有効活用する方法があります。また、Udemy、Coursera、LinkedInラーニングなどのオンラインの教育コンテンツプロバイダーによって、汎用的なデジタルスキルの学習プログラムも提供されています。

 

リスキリングに抵抗のある社員

リスキリングに抵抗する人々は一定の割合で存在することが想定されます。この人たちをいかにリスキリングしていくかが課題になります。

そこで、リスキリングしなければ、企業内で「価値を生み続ける」人材として、DX時代を生き残れないこと。逆に言えば、上手にリスキリングすれば社内で価値を発揮し続けることができるということを伝える必要があります

そのために、リスキリング教育のゴールに対して、どこまで進んでいるのか、社員それぞれのスキルを可視化した上で、新しい職務の可能性を見せ、社員のモチベーションを維持していくことが重要になります。そこで、学習自体のプロセスを伴走するインテリジェンスツールは必須と言えるでしょう。

 

リスキリングの事例

アマゾンのリスキリング事例

米アマゾン・ドット・コムは5月、社内研修プログラム「アマゾン・テクニカル・アカデミー」を77人の従業員が「卒業」したと発表しました。倉庫作業員などが9カ月間の専門カリキュラムを受講し、ソフト開発エンジニアに必要なスキルを身につけました。クラウドサービスの「AWS」など最先端の部署に配属され、給与も倍増する見通しだということです。

 

マイクロソフトのリスキリング事例

Microsoftは、コロナに伴う失業者2500万人のリスキリングを「GlobalSkills Initiative」で無償支援しています。2020年6月30日に発表し、傘下のLinkedIn、GitHubとともに無償でリスキリング講座を提供しており、デジタル人材の育成並びに失業者の就労支援を行っています。

 

富士通のリスキリング事例

富士通は、2020年度の経営方針にて、成長投資を加速することを発表しました。社会・お客様への提供価値の創造と富士通自身のDX企業への変革のために、5年間で5,000~6,000億円程の投資を行う予定です。その中でも、会社や社員自らの変革のための投資として、人材のリスキリングを打ち出しています。

 

三菱商事のリスキリング事例

三菱商事では、「IT・デジタル研修」が新設されました。所属、年次年齢を問わず希望者が受講できる仕組みとなっています。オンラインが6講座、1000人が受講しました。

 

まとめ

今回は、今注目されている概念「リスキリング」について紹介しました。今後、多くの企業でリスキリングの実施が必要になっていくのは明らかでしょう。

伝統ある企業を引き継ぐ後継者こそ、リスキリングという概念について理解を深めるべきでしょう。大廃業時代と呼ばれる今日ですが、廃業防止の人材戦略として事業承継後の人材戦略としてリスキリングの実施が企業の発展に大きく繋がると言えるでしょう。