監査法人トーマツという法人で事業再生支援の会社を立ち上げたご経験があり、旅館やホテルの事業承継支援のプロフェッショナルである株式会社インテグリティサポート代表 桐明幸弘氏に起業された背景や授業内容についてお伺いしました。
私はもともと、監査法人トーマツという法人で事業再生支援の会社を立ち上げました。それが2003年のことですが、当時は日本の銀行が百兆円もの不良債権を抱えているという時代で、事業再生しなければそういった債務整理ができないという問題がありました。
そこで三年ほどかけて事業再生支援というサービスに従事して、相当な量をこなして一旦区切りは付いたんですね。
ところが、残念ながら当時トーマツの中で、私がリスクの高い人間だという評価を得てしまいました。一方で私もこのままトーマツにいても自分の希望の仕事はできないと思ったので、お互いの合意のもと退職致しました。その後はまた新たにサラリーマンとして従事する選択肢もありましたが、もう宮仕えはうんざりと思っていただったので、結局一人で会社を立ち上げました。それが独立するきっかけですね。
社名の由来ですが、この「インテグリティ」という言葉はいろいろな意味を含んでいるので、単純に日本語にすることはできないんですね。しいて言えば「誠実」、「統合」、「調和」といったところですしょうか。
これは当時のデロイトトーマツのCEОの方が好んで使っていた言葉で、監査法人のメンバーはみんな「インテグリティ」を大切にして仕事をしましょう、という使い方をしていました。
私はこの言葉が大好きで、事業再生やМ&Aを仕事にするにあたって、この「インテグリティ」という精神が非常に大切だと思っているんです。「インテグリティ」な態度で色んな方をサポートしたいという意味を込めて「株式会社インテグリティサポート」という社名にしました。
支援内容は、大きく分けると三つになります。
一つは事業再生支援、これは銀行から借金を借り過ぎて事業を継続することが困難になっている会社について、債務を何とか整理して事業を継続する方法を探し、それを実行支援するというものです。
もう一つは事業承継支援で、これは業務の範囲が広いのですが、非常にシンプルに言うと、先代と後継予定者の間を繋ぐ仲介役のようなものですね。
やはり事業承継について両者が直接コミュニケーションを取るのは難しいので、その間の調和を取り持つというイメージです。
もう一つは純粋なМ&A。М&Aに関しては仲介ではなくて、売り手側のファイナンシャルアドバイザーを務めています。事業を第三者に売却したいというご相談を受けて、具体的にどのように売却するかということを考えています。
そのほかに単純な経営コンサルティングを担当することもありますが、主に柱となる事業はこの三つですね。
これは信託銀行に勤めていた経験によるものが大きいですね。信託銀行は主に不動産仲介と不動産売買の融資を業務としていて、つまりは不動産に非常に強い職種なんです。僕は入社して間もなく、不動産鑑定士という資格を会社の研修を受けて取得しました。
ここで財務会計を学んだことが、今の僕のコアになっていますね。
また旅館、ホテル、ゴルフ場、あるいはテーマパークといったレジャー産業に共通している要素は、不動産を所有しており、かつBtoCの商売であるということです。そして金融機関には担保至上主義といって、不動産という担保があればいくらでも融資をするという特性があります。
故にこうした産業は借金が積み重なりやすく、実際に2003年に僕が事業再生支援の舞台を立ち上げた当時、最も債務整理を必要としていたのもこの業界でした。
そのためには不動産の知識が求められるので、これはもう僕の出番なわけです。
結局、自分の専門知識とノウハウを活かした結果、この事業再生支援というビジネスに行き着いたという感じです。
当社の強みは、どんな会社、どんな状況であろうとそのニーズに合わせてサポートし得る体制を整えているということです。それはなぜかというと、僕のベースの知識があらゆるものに対応できるようになっているからです。たとえば金融機関の世界というのは特殊で、銀行マンの精神構造が分かっていないと銀行相手に交渉はできない。その点で銀行に勤めていたということもあるし、レコフというМ&Aの老舗にいたっていうことも非常にアドバンテージですね。
今、巷で行われてるМ&Aについてですが、これはちゃんとできる会社が本当に少ないと思っています。仲介業者が増えて、アドバイザーをできる人間がいないんですね。事業承継の理想はファミリーの中で連綿と続いていくことですが、不幸にして後継者が誰もいないとなったときには、事業に意味があればちゃんと引き継いでくれる相手を探して、金額じゃなくて相性で選ぶということが必要なんです。
しかし、今の仲介業者がやってるのは、誰でもいいから売っちゃえ、なんでもいいから売っちゃえ、いくらでもいいから売っちゃえ、という。それは間違っていますよね。
僕たちがレコフでやっていたМ&Aというのは、まったく今のやり方と違っていて、それこそ結婚の仲人のようなものでした。業界をよく勉強して、業界のポジショニングを把握して、そしてようやくМ&Aを提案しにいく。
それに比べると今のМ&Aっていうのは本当にいい加減に行われていて、未だに三十年以上前のやり方が罷り通ってたりするから怖いんですよ。
М&Aでは、買い手と売り手の両者が納得しなければいけません。これを達成するにはひとつの技術が必要で、事業価値を算出するバリュエーションひとつ取ってもその技術は、アート、芸術と言われることもあるんです。今は物凄く安易に行われていますが、本来のМ&Aはそういったものではないですね。
今一番問題なのが、コロナ融資のために本来ならば淘汰されなければいけなかったゾンビ企業が生き残っていることです。そしてこの状況は、2003年に僕が事業再生を立ち上げたときと非常に似ていて、コロナ融資でバブル的に増えた借金をどうにかして退治しなければいけない。
なので僕としては、コロナ融資を借りたはいいけど返せないという会社が、どうやってその次のステップとして事業を継続していくのか、というところに一番力を入れていきたいですね。それに関しては旅館業とかホテル業に限らず、あらゆる業種で支援が必要になると思います。たとえばIT系だとかでも。
世の中に事業承継のアドバイスをするという人はたくさんいるんですが、よく色んな情報を仕入れて、しっかり吟味してください。
本当に頼れる人を頼るべきで、あんまり何でもできますよと言う人には、「本当にこいつは何でもできるのか」っていうことを見極めないといけません。
特に相続対策と言い出す人は回避した方がいい。事業承継というと必ず相続と言い換える人がいるんですが、これが一番信用できないです。事業承継と相続はまったく関係ないですから、事業承継という話をしてまず相続税対策を持ち出す人は疑ってかかった方が良い、というのが一つの見分け方です。
本当に世の中の人は騙されやすいというか、どうしても大手だとか上場会社だとかであると信頼してしまいます。
しかし昨今は上場会社といえども利益相反的なМ&Aを行う企業が多いので本当に怖いですし、気を付けてほしいですね。
インタビュアー:桐谷晃世