「日本で一番職人さんを愛するメディア」を掲げるニッポン手仕事図鑑 編集長(株式会社ニッポン手仕事図鑑 代表取締役社長)の大牧圭吾氏に、職人の後継者問題に取り組んでいる「後継者インターンシップ」などを始めとした事業概要や起業した背景についてお伺いしました。
執筆者:桐谷晃世
事業としては日本の地場産業に関する多様な内容を扱っているのですが、中でも最重要ミッションとして、職人さんたちの後継者問題に取り組んでいます。
同時に、職人さんの仕事ぶりを題材とした映像を作成し、それを用いて外部に情報発信することにメインコンテンツとして力を入れています。
職人さんの技術を記録するだけならば、僕たちが介入するまでもなく、それこそスマホ一台あれば記録に残すことはできます。
けれども皆さんが仰ることとしては、事業承継を前提に考えたとき、技術に加えて仕事に対する思想、熱量といったものを理解していなければならない、と。なのでそうした職人さんたちの本音を一般の方々に届けるという部分に、私たちの事業の意味があると思っています。
元々伝統工芸への興味もあったのですが、創業の由来としてはそれだけではなくて、むしろ地域活性、地方創生といった要素をベースとしているところがあります。
僕は母親の出身が長野、父親の出身が京都で、幼少期からどちらの実家にも通っていました。
しかし大人になるにつれて、親しんでいた両親の故郷の個性が失われていくように感じてしまったんです。
日本の町って、隣町になるだけで伝承されてきた文化や風習がまったく違いますよね。そんな個性豊かな町や村の集合体という側面があるからこそ日本という国は面白いんだな、ということを同時に感じましたし、そうした地域の個性を後に残していきたいと強く思ったんです。
そのために何をすべきか考えたとき、やはり自分の中のひとつの答えとして、地域に密着して働いている地場産業の人々、それこそ伝統工芸の職人さんであったり、一次産業に従事されている方、あるいは町の床屋さんや中華屋さんであったり、そうした地域の個性を生み出している方々に貢献したいという思いがありました。そこからスタートしたのがニッポン手仕事図鑑なんですね。
ただ今でこそある程度軌道に乗りましたが、当初はほとんどゼロからのスタートでした。親会社であるファストコムの新規事業として立ち上げたのですが、そのときに与えられた予算っていうのが五万円ですから。今でこそ笑い話ですが、本当に文化祭のような状態だったんです。けれどもそういう小さな一歩でも何かが変えられるかもしれない、という所が当社の始まりでしたね。
先ほど述べたように、職人さんの思いを伝えるメディアとして手仕事図鑑を立ち上げて、活動の中で職人さんから直に課題の存在を伺いました。そしてそのときに感じたのが、職人さんのいわゆる後継者問題に対して、全国的に幅広く取り組んでいる人や企業がほぼ存在しないということなんです。
商品開発だとか、販路開拓だとか、海外マーケティングだとかの部分には多くの民間プレイヤーが先駆者としているのですが、後継者問題は国も積極的にやってない、県庁も町の自治体も民間企業も上手くできていない、じゃあ誰かがやらなければいけないと。そうして動画による情報発信の次に取り組むべき問題はここだろうな、という考えのもと動き出したプロジェクトが後継者インターンシップです。
実際のところ、本格的に事業として開始したのは2021年度からなのですが、2018年度からその前身となる活動を行っていました。やはり事業として行政と連携する以上は実績が必要になるので、2018年度から2年間自分たちで色々な形を模索していました。
そして実際に後継者も誕生したので自信も付いて、本格的に始動しようとしたのが2020年の初めだったんです。
しかし、そこでコロナウイルス感染拡大が始まってしまったので、悔しかったけれど1年間自粛して、21年度から本格スタートしたという流れです。
]はい、基本的に親族外の第三者承継です。
ただし、承継という言い方をすると語弊があるかもしれません。事業承継を視野に入れている場合もありますが、まずは技術後継者であって、将来的には独立して技術のみを承継するケースを想定している事例も数多くあります。
職人さんからすると、自分の屋号を残してほしいという人もいますが、どちらかというと産地を残していく方に意識を持たれている方が多いので、事業承継よりも技術継承者という意味合いの方が大きいですね。ですから後継者となった37名の内、何名が事業承継をするのかはまだまだ分からない段階です。
ニッポン手仕事図鑑が「もの作り系」とカテゴライズしてる学校が、把握しているだけでも全国に140校以上あるんです。これは国もリスト化できていないんですが、僕らが少しづつ情報を集めて、こうした学校とのネットワークを構築しています。応募者のおよそ八割ほどが「もの作り系」の学生さんですね。
ただし、そうではない学校から選ばれる子もいます。具体的には美術系、芸術系の学生さんが目立ちますが、やはり何らかの目的意識を持って進学をしている人たちですね。
去年、焼き物の産地の後継者に選ばれた子の中には、デザイン系の学校でろくろを初めて触ったという人もいました。
他にも現在社会人で、セカンドキャリアとしてインターンシップに参加する方もいらっしゃいます。「もの作り系」学校から一般企業に就職したけれどもまだ未練がある方もいれば、そういう進路の存在をそもそも知らずに、手仕事図鑑から初めてこの世界に入った方など、経歴は様々ですね。最年長では、四十代で弟子入りが決まった例もあるんですよ。
実はそこに目を向けて英語の字幕を作ったり、概要の説明文に英語文を載せたりという話は頂いているんですが、本格的に外国の方を対象とするのはまだ先だと思っています。なので狙ってはいないのですが、自然に視聴者が付いてくれているという感じですね。
また海外からの需要という面からいうと、後継者インターンシップとは別に商品開発インターンシップというプロジェクトを運営しているのですが、そこには留学生の方も参加してくださっています。
一方で難しい話になりますが、ビザの問題等、日本の伝統産業に外国人の方が参加するのは難しい、という現状があります。それは実際に伝統工芸の製法が海外に持ち出されて、そこから逆輸入された製品が日本のものを圧倒してしまう、という事例があったからそうなっているんですね。
一方で僕としては、本当に日本が好きで伝統工芸の仕事に就きたいという外国人の方はいるし、実際に伝統工芸を存続させる中でそうした人はすごく大事な人材になると思っています。僅かなリスクのために後継者問題を先延ばしにして結局衰退するよりは、本当に仕事が好きな人を見極めて承継してもらったほうが産地の利益になるはずです。
だからこそ現在のことなかれ主義、閉鎖的な現状維持に縛られずに、しっかりと物を言う立場にいたいですよね。その点では職人さんと対等に、良いことは良い、悪いことは悪いと言い続けられるようではないとニッポン手仕事図鑑を続ける意味はないと思いますし、逆に言うとこれまでそうでなかったからこそ今の伝統工芸がある。これからも、僕らは僕らなりに、本質から目を背けることなく、違うものには違うと言い続けようかな、と。
ディレクター/桐谷晃世