自社工場での「製造請負サービス」により、ほしい商品を適切なタイミングで提供し、柔軟なものづくり体制を構築するオーエス電機工業所の次期社長である下山様にお話を伺いました。
執筆者:桐谷晃世
当社では、自社工場による「製造請負サービス」を主な事業としています。
メーカー様や部品のサプライヤー様は製品の製造を基本的に自社で担当されていると思いますが、そうした製造の部分を当社に外注していただくことで、必要なものを必要なタイミングに供給できるようになります。
それによって製造の人手不足の解消、在庫や設備を維持する場所不足の解消、そして労務管理の一切を削減することによるトータルコストの解消、といった部分でお客様の利益に寄与することが可能になるということが、当社の存在意義になります。
昨今色々な業界を見ても、人手が足りない、あるいは人を採用しても定着しない、すると品質も安定せずに現場の負担ばかりが増える、という負のスパイラルに落ち込んでしまっている企業が多数いらっしゃるように感じます。
そこで生産計画と必要な部材だけを任せれば、製造の様々な工程を丸投げできるというビジネスには大きなメリットがあると感じますし、実際に取引先様が徐々に増えているのが現状です。
そうですね、女性のパートさんが本当に多い会社になっていますし、そうした方々が少しでも働きやすい環境作りを心掛けています。
コスト的な問題もそうですが、やはり製造請負ということで、自社製品がない分、従業員の柔軟性が必要とされるという点が大きいですね。
Uターンしたのが2014年で、今年で10年目になると思います。
当時、私は東京で働いていたのですが、母親から急に電話がかかってきて、そのとき現場の責任者を務めていた従兄弟が退職するということで、もう戻ってきてほしいと頼まれました。そこで会社を休職して地元に帰って来たんですね。
当時はマンションを解約する時間もないくらい急な帰省で、もしかしたらもう一度東京に戻る選択肢もあったかもしれませんが、結局退職する決断をして、2014年の暮れから正式に入社しました。
いつかはそうなるという気はずっとしていました。
父親から直接伝えられたことはないですが、長男として親戚が集まるような場で「お前が将来継ぐんだぞ」と言われるような環境でしたし、そういう期待がされていることはずっと意識にありましたね。
これまでの自分の人生を振り返ったとき、大学院まで進学して、アメリカ留学なども経験させてもらいましたが、それは家業を経営している両親や、そこに勤めている従業員の方々のサポートがあってこそ成り立ったものだと感じています。
そんな恩義があるオーエス電機工業所が、自分が帰らないことでどうなってしまうんだろう、その歴史を止めてしまってもよいのだろうか、そんな気持ちから残る決心をしました。
ただし、そのときの心情は、決心というほど大層なものではなかったと思います。私がやらなければいけないからとりあえずやっている、という程度のものでしたね。
そうですね、2018年以降は、新規開拓による取引先の分散を心がけています。
これまでは、特定の取引先に依存している形態でも問題ない時代はあったと思います。
しかし、お客様の経営環境の変化や、コロナ禍などを経験して、今の環境の中で一社依存はあまりにもリスクが高いと感じたので、その分散をこれまで進めてきました。他にも課題はありますが、今の立場でできることに専念して、従業員が少しでも働き続けたいと感じて貰える会社づくりに尽力してきたつもりです。
これは後悔になってしまいますが、現社長との話し合いの中で、もっと素直でいたらよかったとは思ってしまいます。
普通の企業であったら、社長と部下というポジションの中で感情的な言い争いが起きることはないと思うんです。
しかし血縁関係があり、親子だということに甘えてしまって、関係を悪くした部分はあったかな、と。
会社の方向性についても、理不尽なことや納得がいかないことがあったとしても、次期代表として、もっと粘り強く対話していけばよかったと考えることはあります。
ご質問に戻りますが、現社長と母親と私の三人でメインバンクを訪問する機会がありました。、そこで先方から事業承継アドバイザーのプログラムを紹介していただき、事業承継の計画を立てることができました。スムーズとは言い難い部分もありましたが、経営者として現社長がどういう想いをもって、自社事業に向き合っていたのか、私にどう事業承継をしたいのか?など、今まで対話したくても直接聞けなかった部分を専門家の方に引き出していただき、思わず感情が高ぶることもありました。
その件があってからは、社長との関係性もかなり改善したと思います。
製造請負専門サービスが中核事業ですので、まずはこの事業をとおして、「アウトソーシングで製造業をもっと身軽に!」を実現したいと考えています。それと並行して、ライフステージにあった働き方が選択できる社会の実現にむけても、社内の環境整備に今以上に力を入れていくつもりです。
やっぱり事業承継というのはすごく時間がかかって、精神的な負担も大きいものです。
ただその取り組みの中で、「これに向き合っていると面白いな」と体感できるものを1つでも見つけて欲しいと思います。
それは既存の事業でも新規事業でもいいのですが、とにかく見つけられさえすれば、とことんそれに関して社長と向き合って、議論して、ひたむきにそちらに突き進んでいってほしいと思います。
本当に事業承継は長距離マラソンなので、義務感でやってしまうと心が折れてしまうし、続かないものです。また楽しんでいたとしても心が折れてしまいそうになるときはあるので、その際は周囲の専門家や、最近では跡継ぎのコミュニティを頼って、共に乗り越えていってほしいです。