主に中小企業の親族内承継および事業改善を中心とした事業承継支援を展開し、3月には単著を出版された「事業承継&経営革新の専門家」 中谷健太氏にお話を伺いました。
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- 1.1. 実施されている事業承継支援についてご教示ください。
- 1.2. 確かに、根本的に後継ぎが事業を承継したくないという事例が少なからずありますよね。
- 1.3. エリアは関西ですか。
- 1.4. 得意とする業種などありますでしょうか。
- 1.5. 3月に二冊目の単著を発売されましたが、執筆の背景などご教示いただけますか。
- 1.6. 支援をされている中でどのような時にやりがいを感じますか。
- 1.7. 経営者としてのキャリアもある中谷さんは、「経営実務」と「コンサル」の両方を知る存在として類を見ないコンサルタントだと思いますが、ご自身の思う強みをご教示いただきたいです。
- 1.8. 最後に事業承継ラボの読者である、後継ぎの方と現経営者の方にメッセージをお願いします。
実施されている事業承継支援についてご教示ください。
私の事業承継支援の特徴は、「継ぎたい会社づくり」を軸として展開していることです。
現在、日本では後継者の不在が社会問題になっています。黒字企業であってもそのために倒産、廃業してしまうということは連日大きくニュースで取り上げられていますが、この現象が日本のものづくりや雇用に与える悪影響は非常に大きいと感じます。
しかし、基本的に多くの会社には顧問税理士が付いているはずです。税理士の方も、その他の士業の方々も事業承継に関して支援を実施しているはずなのに、なぜこのようなことが起きてしまうのでしょう。
私としては、それは現在の事業承継支援が節税や株式関係といったファイナンスの方面に偏っている部分があるためだと考えています。後継者不在という問題の本質は本来、会社に承継したいという魅力がないところにあると考えています。そうした意味で、何よりも「継ぎたい会社づくり」が重要なのではないでしょうか。
もちろん節税に繋がるような事業承継スキームも疎かにするわけではありませんが、会社の魅力の把握や増進、後継者の育成、また実際の継承後のアフターケアなどに重点を置き、税理士だけでは手が届かない部分を多面的に取り扱えるというところに、私の事業の特色があると感じます。
確かに、根本的に後継ぎが事業を承継したくないという事例が少なからずありますよね。
後継者不在の問題というのは、詰まるところ会社に継ぎたくなるほどの魅力がないということに尽きるんですよね。私は中小企業診断士ですので、そうした企業の経営改善が元々の強みでもあります。
またもし後継ぎへの継承が決まったとしても、先代との関係が悪化するパターンはとても多いです。これは先代も後継ぎも経験値や知識を保有しているからこそ自分の考えが優先し、お互いに相手を尊重できず、後継ぎがこれまでの経営姿勢へのリスペクトなく無茶な改革をしたり、逆に先代が口を出し過ぎたり、という行動に繋がってしまうのでしょう。
ですから、継承したくなるような経営改善に関する支援はもちろん、それ以降も継いだ側、退いた側両方への一貫したアプローチが必要だと強く感じていますし、そこを念頭に置いた支援を実施していますね。
エリアは関西ですか。
全国的にご依頼を受け付けていますが、特に関西を拠点としていますね。
特に事業承継支援においては、地理的に直接会えるほど近いことが大きな利点になります。配偶者にも子どもにも話せないことを話してもらう、という都合上、やはり顔を突き付けて本音を打ち明けなければいけないことが多いためですね。
得意とする業種などありますでしょうか。
業種に関しては特に得手不得手などはありませんが、基本的に親族内承継、従業員承継を中心に担当しているので、支援を行うのは小規模~中小企業に限られます。
上場企業などは専門ではないので、従業員数で言えばおおよそ10名から200名、300名といった企業が対象となるイメージですね。
3月に二冊目の単著を発売されましたが、執筆の背景などご教示いただけますか。
本を出版する意味として最も大きいものは、自分のスタンスを明らかにするということです。
まずタイトルからして、「子どもに会社をつがせたい」と思う人を応援している、つまり親族内承継を応援しているというスタンスの表明になっています。
そういう自分の軸を表明していると、M&Aを考えているような経営者から距離を置かれることもありますが、逆にそう(アンチM&A)であるからこそ響いてくれることもあります。
だからこそ自分の信念を目に見える形で提示したい、言葉を変えればいわば私の取扱書を作りたい、という考えが執筆の背景にありますね。
支援をされている中でどのような時にやりがいを感じますか。
一つに決めきれないくらいに色々なケースがありますね。
ご子息には本来継ぐ気がなかったけれど、次第に親の事業に興味を持ち始めて、最終的に承継することが決まったときのお父様の嬉しそうな顔など、すごくやりがいを感じます。
その他にも、事業承継支援をしていると親子喧嘩が激化したようなケースをよく見かけるのですが、その取り持ちをして関係を修復させることができたときや、業績が右肩下がりの企業の経営を改善して継ぎ手を見つけられたときや……。
さらに小さなところでも、著書を読んでいただいてわざわざ感想を頂いたり、講演会の終わりに「勉強になりました」と些細な一言を頂いたり、本当に日常にやりがいに溢れていますよ。
経営者としてのキャリアもある中谷さんは、「経営実務」と「コンサル」の両方を知る存在として類を見ないコンサルタントだと思いますが、ご自身の思う強みをご教示いただきたいです。
仰る通り、事業承継の支援者というと、やはり税理士や弁護士といった士業の方、企業所属のコンサルタントがほとんどで、実際に事業の経営をした経験がないことが当然です。
その観点で言えば、私自身も私の妻も経営者で、経営の目線を知っているということは多くの強みですし、著書にもそうした要素を多く取り入れています。
事業承継というのはあくまで人と人との問題なので、理論やセオリーでは片付かない感情の部分がありますし、それを経験によって肌で感じ取れていることが私の大きな強みですね。
最後に事業承継ラボの読者である、後継ぎの方と現経営者の方にメッセージをお願いします。
後継ぎとして生まれるということは、特別な挑戦権があるようなものだと僕は思っているんです。自分のやりたいことがあるとしても、親の基盤を利用することもできるので、他の同年代と比べて自己実現がしやすい立場にあるはずです。
それはもちろん責任や苦労と表裏一体ではあるのですが、後継ぎに生まれている以上、その挑戦権を放棄するというのはとても勿体ないことだと思いますね。
一方で現経営者の方にとって最も重要なことは、「継ぎたいと思える会社づくり」はもちろん、日頃から子どもに会社のことを伝えていくということです。
なにも早くから「継いでくれ」なんて言う必要はなくて、どれだけ些細なことでも子どもに経営の話をすることがその興味を育てることに繋がりますし、自分を後継者候補の一人として意識させるきっかけにもなります。
逆に一番良くないのは、若いうちは「自分の道を行け」なんて放言して、土壇場になって帰らせるというパターンです。これは双方に不利益しか生まないので、跡継ぎとしての意識を持ってほしいのなら、早め早めから取り組んでおくべきですね。