昭和2年以来の歴史を誇る老舗であり、近年は伸縮性がある家庭用塗料「ウレヒーロー」を開発し、SNSを活用した広告・販売を展開している斎藤塗料株式会社の5代目アトツギである菅様にお話を伺いました。
斎藤塗料は、昭和2年以来の歴史がある塗料の製造会社です。
塗料にも家庭用や建築用などの種類がありますが、当社は特に工業製品用のものを扱っています。
具体的には「プライマー」という下地塗料の製造を得意としており、これは大手製造会社のパソコンやデジカメ、カーナビの塗装にも採用される程度の技術力を有していると自負しております。
また最近では特殊塗料の開発・販売にも力を入れています。特に「ウレヒーロー」という収縮性と柔軟性のある塗料が広くご注目をいただいており、工業用の枠を飛び出して家庭用にも販売を進めている、というのが現状になりますね。
私は現在5代目の跡継ぎとして取締役を務めており、4代目社長は私の母が務めています。
僕が大学生のころ、3代目社長だった父が急死しました。そのときは学生だったこともあって「しばらくは好きなことをやれ」と伝えられ、30歳までには家業を継ぐか、他の企業で働くかを選ぶ、という話になりました。
最終的に家業に戻るという決断をしたのは、やはり母の苦労を支えたいという気持ちが大きかったですね。元々は主婦であった女性が、突然40人規模の会社を運営する立場になったということですから。
その心労を考えると、今度は私が母を助けたいと強く感じるようになったんです。
当初の1年ほどは技術部員として塗料の勉強をさせてもらうところからスタートして、同時に決算書を分析し、業務内容の理解と経営状況の把握を進めました。
中小企業の場合、原価や商品の利益率などの管理が曖昧で、商品に関する分析が不十分なことが多くあります。なのでまずはそうした見えない数字を見えるようにすることから始めましたね。
ウレヒーローは柔軟性と伸縮性に特化し、あらゆる素材に密着する特殊塗料です。加えて耐水性・耐薬品性・耐溶剤性にも優れ、ゴム・金属・プラスチック塗分け要らずのコーティング剤としても期待されています。
この塗料の歴史は2019年から始まりましたが、当初は印刷機の保護剤として開発されたもので、製造量も1缶2缶とかなりの少量でした。
ただしゴムにも密着するような柔軟性の高さには可能性を感じており、工業用の展示会にも出展させていただくなど、販路を広げる計画自体はありました。
あるとき、ウレヒーローの性質について公式SNSで発信したところ、フィギュアの補修に使えるということでホビーユーザーの間でバズり、私たちもフィギュアの分野で塗料の需要があるということを認識することができました。
そこでモニター募集などを経て一般販売用に調整する過程で、さらに光沢のあるキャラクターのコスチュームにも利用できるという話が生まれ、フィギュアからコスプレの造形までを用途として広く販売を開始した、というのが現在までの経緯になります。
実を言うと、SNSでの反響を狙っていた部分もありました。
一般販売をするに当たってお客様の要望を聞いていく中で、「柔軟性のあるメッキを作れないですか」という声をいただいたことがあり、実際にメッキ塗料がホビー界隈で話題になっていることも市場調査によって把握していました。
そしてこれが実現できたとしたらバズれるだろうな、という考えもあり、その通りに開発してみたらバズった、という。
なのでお客様の声を取り入れ、市場調査を行った結果として、意図してバズらせた、と言うことはできるでしょうね。
そうですね。
基本的に、絶対に毎日投稿するようにしています。他には日常でウレヒーローに言及してくださっている方がいればリプライを付けにいくなど、細々とフォロワーを確保する努力はしていましたので、気付けば今のフォロワー数になっていました。
ほとんど前職のやり方を踏襲しているつもりです。
新規のゲームを作るとき、いきなり完成品を売るということはありません。事前にα版やβ版でモニターを募集し、フィードバックをいただき、修正して製品化するという流れが必ずあります。
塗料販売に関しても同様で、バズったからすぐに売り出すわけではなく、モニターを募集して改良に努めましたし、またモニターに当選した方が発信してくださるおかげで皆さまの期待値も上がり、それが最高潮に達した段階で販売を始めました。
現在のウレヒーローの人気も、このような販売戦略が功を奏した結果としてあると思っております。
一番は組織作りですね。
中小企業にはよくあることですが、従来は個々人がバラバラに作業をしており、チーム間の連携などがまったくありませんでした。そこで私としては、改めてミーティングなどを導入し、全体としてのチーム作りに尽力してきました。
また年功序列の是正、人事評価制度の整備などにも注力しました。
年功序列制度というのは社員への評価が形式的なものになってしまい、社員各々に対してフィードバックを向けられないですし、逆に社員からの要望も発生しません。
なのでまずは上下でコミュニケーションを取り、双方が納得したうえで給与が提供されている状態を構築したいと考えております。
僕はまだ成果を出し切れていないので、そこまで自信を持って何かを言うことはできないのですが、アトツギ会で皆さんがキーワードとして挙げていらっしゃるのが、「結局行動するしかない」ということですね。
とにかく挑戦を続けることにしか活路はない、ということは確かだと思います。
ただしそうした挑戦には批判がつきもので、孤独を感じることもあると思うのですが、そんなときはXやオンラインサロンなど、挑戦するアトツギ同士が助け合っているようなコミュニティを覗いてみるのがよいと思います。
結局は一人で抱え込まず、周囲の助けを借りることが重要ですね。