「日本を端っこから元気にする」をモットーに、離島における宿泊施設や飲食店の運営代行、まちづくり・コンサルティング業、便利屋サービスなど幅広い事業を展開し、島で暮らす喜びを実現する、株式会社りとまるの代表取締役社長 奥村 洋行様にお話を伺いました。

執筆者:桐谷晃世

株式会社りとまるの事業概要について教えてください。

  株式会社りとまるでは、主に離島を拠点として、宿泊施設や飲食店の運営代行サービスを承っています。

具体的には長崎県壱岐島、沖縄県宮古島においてリゾート宿泊施設を運営しており、今後はさらに博多や九州、沖縄でもオープンを予定しています。

それとともに長崎県壱岐島では事業承継をさせていただいた飲食店 「壱州茶屋 with ritomaru」や、「ritomaru cafe 大久保本店」の運営、家事代行サービスなどまちづくり事業、宿泊施設と合わせ観光事業の一環としてレンタカー事業も展開しています。

私たちの重要な取り組みの一つは、宿泊施設、飲食店ともにもともと島に存在していたものを利用しているという点です。

新しい人工物を作ることは、離島の美しい自然と生態系を損なう恐れがあります。「その島らしさ」に重きをおき、「今あるものを大切に」することによって、離島に新たな価値を想像することを目指し、りとまるは活動を続けております。

家事代行サービスを展開されていると伺いましたが、詳しく教えてください。 

 家事代行サービス、これは非常に面白いですね。

私は前職がホテルマンということもあり、「NOと言わないサービス」と、「地域に根ざしたサービス」のため家事代行サービスをスタートいたしました。驚くべきことに島民の方々から多種多様なご依頼を頂いております。

たとえばエアコンの取り外しを依頼されることもありますが、これは本来専門業者の役割で、当初私たちとしてもそのスキルはありません。

しかしだからといって断らず、こちらで業者の方を呼んで、そのスキルを教えていただきながら勉強し、次はできるようにする。そうした取り組みを心がけ、なんでも請け負う「何でも屋」「便利屋」として壱岐での立ち位置を確立することができました。

それからはお墓掃除から窓掃除、愛猫の世話、家財道具の処分、ネズミ駆除など、自分たちでは想像もしていないありとあらゆる依頼をいただいています。

私たちのコンセプトである「離島の魅力を発信する」ためには、地元の方々やその生活について深く理解し、信頼関係を築くことが不可欠です。こうした地道な活動が、私たちりとまるのミッションを達成する上で欠かせないものとなっています。

なぜ離島に着目され事業を展開されているのでしょうか。 

私が離島に着目し、事業を展開している理由は、自分自身が島の魅力に深く感動したからです。

海に囲まれた大小さまざまな島の大地と川、山、気候は、独自の文化や伝統、アイデンティティの形成に寄与します。日本には14125の島があり、有人島は416にも及びます。世界からみると日本は本州含めてすべて離島ということになりますが、多くの離島にも、日本そのものの独自性が各地にあり、次世代に受け継がれるべき貴重な資産があると考えています。

グローバル化が進行する中で日本そのものの魅力を守るためにも、離島の経済活動を活性化させることが不可欠です。そこで、私たちは事業展開を通じて、離島の魅力を引き出し、地域経済を活性化させることで、日本の持続的な発展に貢献したいと考えています。

株式会社りとまるの社名の由来を教えてください。 

 「離島を丸くする」と「離島に泊まる」を掛け合わせて「りとまる」としました。ロゴでは「&」と「,」を組み合わせ、地域と地域とをつなぐ、心安らぐ、休息する、といった意味を込めています。

 先述のとおり、日本も世界から見ると「離島」であり、日本全体の魅力発信には、一つ一つの離島の存在、魅力を守り続けるためにも地域の活性化がかかせません。そのためには、大都市圏や近隣地域、離島同士の繋がりは、人と人との繋がり、文化や歴史を紡いでいくうえで不可欠であります。

 今後は博多や那覇といった離島の中継地点にも進出していくつもりです。それはたとえば壱岐がそうであるように、島そのものに魅力があるのに、知名度はそれに比例してない場合が多いからです。観光客のリサーチに引っ掛かりを作るためにもきちんと対外的に発信活動をしなければいけません。

 私たちは離島の中継地点にも進出し、離島の魅力を発信し、事業を継続していくことで、地域間の結びつきを深め、離島の活性化に貢献したいと考えています。

 そのために離島の中継地点に進出することは必須ですし、瀬戸内海の島々のハブ拠点にも顔を出していって、事業の継続性を高めていきたいですね。

宿泊・飲食業の後継者不在問題に対しての取り組みも行っていらっしゃるのですか。 

 そうですね、取り組み自体は行っていますが、その様相は都市部での事業承継コンサルのそれとは大きく違っています。

 つまりは壱岐に住み、消防団に入ったり、公民館班長になったり、地元のイベントに参加したり、ボランティア活動をしたり、そういった何気ない交流の中で、何気ない話の流れで「どうにかしてくれないか」というご相談が出てくる。

 都会のビジネスでは、お互いの顔も見ずに契約するということはざらにあると思います。面識がなくとも料金が優先され、メールのやり取りや、オンライン打ち合わせだけで商売が決まってしまう。しかし壱岐のような地方では、お互いの日頃からの信頼関係が一番重要な要素になり値段は二の次ということはよくあります。

 ですので事業承継支援といっても、地域の方々と交流し、寄り添い、課題を見つけ解決するという大きなサイクルの一環として存在するイメージですね。

実施された140年続いた古民家モカジャバカフェ大久保本店の事業承継のきっかけを教えてください。 

 

昔の写真

 

 ここには元々140年ほど前に建てられた邸宅で、「大久保本店」という海産物の問屋が存在していました。後に空き家となりましたが、2008年にモカジャバカフェ大久保本店としてリニューアルされ、飲食店として再スタートしました。

現在の写真

 

 この店舗が昨年閉店することとなり、紆余曲折あって最終的に私たちが引き継ぎました。「モカジャバカフェ」というのは、前の運営会社が付けた名称ですが、それに海産物問屋時代からの屋号「大久保本店」を加えて「モカジャバカフェ大久保本店」となったのです。

承継したけっかけは、やはり人気店が閉鎖することによる島全体へのダメージを考えてのことです。都市部とは違い、地方、とりわけ離島ではひとつの店舗が島全体のニーズを満たしていることが多くあります。

このお店もやはり地域のニーズを支え続けていた店舗でしたので、島の魅力を守るためにはその役割を引き継いでいかなければならないと思い、承継を決意しました。

以前のモカジャバカフェ大久保本店時代から、昔ながらの薪釜土の設備がありましたが、それを使用したメニューはありませんでした。壱岐島内では薪釜土で炊きたてのご飯を提供するお店がなかったため、私たちはこの薪釜土を活かした、炊きたてご飯と壱岐牛カツをメインメニューとして、今年の4月から運営をスタートしたカフェになります。

モカジャバカフェ大久保本店の事業承継後の新たな挑戦などありましたらご教授いただきたいです。

 もちろん収益のこともありますが、それと同じくらい地元の方から必要とされる店になってほしいと思っています。

 具体的には、フードデリバリーサービスなどを構想していますね。

地元の方々も毎日牛カツを食べるというわけでもないですし、高齢化が進んでいる分、料理を作ったり買い物に行ったりということが負担になっているケースが多くあります。

そこで売上収益を地域に還元するという意味でも、幅広いメニューを提供する地元の総菜屋さんという立ち位置を目指していきたいです。

観光客の皆さまに喜んでもらえるのはもちろん、地元からも広く愛されるようになりたいですね。

最後に、株式会社りとまるの今後の展望についてご教授いただきたいです。 

 今後は島の基幹産業でもある農業・漁業にも着手したいですね。

 それは島民の方々への食料供給や環境保全はもとより、地域活性化の手段としても農業・漁業のような一次産業は欠かせないと考えるからです。

 壱岐で何でも屋サービスを始めてみて気付いたのが、意外と人(自分たち)の力だけでもできることは多い、ということです。

ノウハウや専門的な道具はあとからでもよいので先ずはやってみるという姿勢をもっとも大切にしております。

それはたとえばエアコンを取り外すことであったり、家を建てることであったりすることですが、畑を作ることも魚を取ることもその延長線上にあるのだと思います。

そしてそうしたときに強く感じるのが、その土地に資源があることの有難みです。都市生活に必要な工業製品を作るように複雑な工程を経なくても、自然の恵みさえあれば自分たちで住むところや食べるものを用意することができる。

そうした人間と自然との調和に寄与する存在となることが、りとまるの今後の目標ですね。