「食べる想い出をつくる」をミッションとして、食品工場のノウハウを活かしあらゆるワンちゃんの想い出となる高品質ペットフード(フレッシュフード)を製造・販売する、株式会社ぺこふるの社長である菊池諒様にお話を伺いました。
執筆者:桐谷晃世
きっかけとしては、高品質ペットフード市場の可能性を感じたことがあります。
「ぺこふる」を設立する以前は6年間銀行員を務めましたが、これは家業を継ぐ可能性を考慮して、社会経験を積むつもりでの就職でした。
その中で自分の家業のような中小企業に対する支援や、スタートアップ支援に大きく関わるとともに、ペット市場とも関係を持つにつれ、高品質ペットフード市場に可能性を感じるようになりました。
加えて私自身も子どものころから愛犬家であり、その市場でこそ「思い出に残る仕事」ができると感じたこともありました。
そこに家業である食品業界の縮小という現状も重なり、2023年に銀行を退職して新たに起業するという決断に至りましたね。
そうですね、2年ほどかけて入念に準備を進めていました。
まず市場分析からスタートし、国内からアメリカ、ヨーロッパの市場をリサーチして、新たに展開していける可能性のあるフードに目星を付けました。
そこからは国内に競合他社があるのか、実際に販売できるのか、といった懸念点を詰めていき、ここまでに1年が掛かります。
そしてもう1年で試作に漕ぎ着け、本腰を入れて市場に参入できるという確信を持てたとともに起業する手続きを進めましたね。
正直に言うと、今家業のほうはМ&Aで買収されている状態なんです。
これは創業者でもある祖父が、自分で立ち上げたものを自分の代で終わらせたい、という理由で売却を決定しまして、僕はそのタイミングで家業に戻りました。
しかしペットフード事業は私個人が展開したいことだったので、第三者の資本が入った家業の一部としてではなく、完全に自分の資本で始めようと考え、新規に立ち上げました。
なので家業のほうは資本の過半数が第三者のものになっており、私と父が経営を担当しているという、なんとも言えない状態になっていますね。
僕の本心として、こうした現状はもったいないと思ってはいます。業績の悪化というのは事実ですし、老舗として改革が必要なのは間違いないのですが、ただ菊池家が経営者のままでもよりよい会社にしていけたという自信はありますから。
ですので「ぺこふる」の事業とは別に、そちらも買い戻したいという気持ちはありますね。
きっかけで言うと、国内でフレッシュフードという新鮮でおいしい冷凍ドッグフードが流行り出したタイミングだった、ということが大きいです。
フレッシュフードはペットの家族化という世界的な潮流を背景にアメリカで誕生したフードなのですが、日本国内ではまだ普及しておらず、特にロール状フードは海外ブランドしか展開していなかったため、国産のフードに需要があるのではないかと考えました。
また想いとしては、やはり自分の愛犬との記憶があります。
小学生のときに初めて犬を飼い始め、大学生のときに別れる経験をしました。大型犬のラブラドールでしたが、家族を亡くしたときに今までの思い出を振り返ってみて、「もっと色々なことをしてあげたかった」という気持ちが沸き上がってきたんです。
特に食べさせるものがいつも同じで、食に関する思い出が乏しかったことにそのとき初めて気付きました。そのような背景から、愛犬との「食べる想い出をつくる」ことをミッションとしてぺこふるを設立したんです。
そうですね、ぺこふるの特徴のひとつとして、「東北産」の原料にこだわっていることがあります。
現在は東北産の鳥肉と福島県産の馬肉を一般販売しており、今後も鹿肉や猪肉といったジビエ系の商品も開発を進めていく予定です。
この理由としては、やはり地元である東北の「食」の魅力を発信していきたいということが第一にあります。自然豊かで海の幸も山の幸もおいしい地元東北の食べ物が全国に広まってほしいですね。
特にワンちゃんに関してペット業界でよくある問題が、鳥豚牛といったメジャーな食べ物にアレルギーがあり、市販のフードを食べられない子が少なからずいるということなんです。
そしてそういった事情を知るにつれ、愛犬との「食べる思い出をつくる」をミッションに掲げている身として、自社の商品を食べられないワンちゃんがいるのではダメだと思うようになりました。
そのため当社の方針として、できる限り一つのお肉にこだわったフードを、鹿や馬といった様々な種類で展開していくことを決定しました。
こうすることで、どんなワンちゃんでも当社の幅広い商品の中からならば必ず食べられるものはある、という状態を作れるようになります。そしてその経験がワンちゃんの中で「食べる思い出」になってくれる、そうしたすべてのワンちゃんが食べることを楽しめる社会つくりに貢献したいと思っています。
継ぐか継がないかという話では大学新卒のころから、実際にいつ継ぐか、という具体的なプランに関しては、家業に戻る一年ほど前の時期から始めていました。
幼少期まで遡ると、祖父は僕が物心着く前から僕を三代目として扱っていましたし、お客さんに紹介されることもありました。
一方で、父からは「継がなくていい」ということを言われ続けていました。大変だ、メリットがないということを説明され、僕も承継するという決心をしたわけではありませんでしたが、それでもいずれ家業を継ぐかもしれない、という思いは頭の片隅から消えませんでしたね。
銀行に就職して以降は、経営者の方々と関わる中で経営に強く興味を懐きました。そんな折にМ&Aの話が飛び込んできたので、家業を継ぐというよりかは自分で経営をする、という感覚で起業の準備に入りましたね。
まず一つは、入社する前に先代社長や社員と関係を構築していたことですね。
僕の場合は入社前に毎月有給を使って帰省し、先代と会話する時間を作るとともに、全社員と1on1の面談を設定しましたが、これは良かったと思います。
なによりも、家業に戻る理由というのを周知させられたのは大きかったです。なぜか戻ってきた人、という立ち位置でいるよりは、ずっと働きやすい環境を作れました。
また財務諸表の確認を通じて自分なりの目標を描いたことも意味がありましたね。
これは私の前職が銀行員だったからということもありますが、やはり承継する前に自分たちの会社がどういう状態なのかを把握し、自分にとっての成功をイメージしておくことは重要です。
正直に言うと、経営をするうえで嫌なことや辛いことはたくさんあります。そんなとき、自分が本当にしたいことは何なのか、という軸を持っておくことで、折れずにいられると思います。