地方において深刻な少子高齢化や過疎化に対し、幅広いサービスによって中小企業を支援し地方創生に貢献するJIDAIOコンサルティング株式会社 取締役の清水唯様にお話を伺いました。
- 1. 2020年に山口県にUターンされたと拝見しましたが、Uターンのきっかけをご教示いただきたいです。
- 2. 山口県で事業承継に特化している税理士事務所は少ないのでしょうか。
- 3. 事業を主に4つ展開されていると思いますが、事業内容について教えていただきたいです。
- 4. 「かんたん株価試算」開発のきっかけをご教示いただきたいです。
- 5. 「かんたん株価試算」についてPRポイントなどご教示いただきたいです。
- 6. 「かんたん株価試算」は事業承継について考える場を提供していますが、これは先代と継承者が対話する場としても使えるように思います。
- 7. 意思疎通の部分は血縁関係だからこそ、話しづらい部分があるように思います。
- 8. 今後の展望についてお伺いしたいです。
- 9. 事業承継ラボの読者に対してメッセージをお願いします。
2020年に山口県にUターンされたと拝見しましたが、Uターンのきっかけをご教示いただきたいです。
きっかけは、地元である山口県の現状に危機意識を抱いたことですね。
以前は東京の税理士法人で事業承継の支援をしていたのですが、当時2020年度のデータで山口県の「後継者不在率」という割合が全国ワースト3位と非常に高いことを知り、自分たちの地元に貢献したいという気持ちを感じて帰郷しました。
地方特有の問題として、そもそも事業者の絶対数が都市部と比べて少ないため、一つの企業が失われることによって地域社会や業界に発生するインパクトが圧倒的に大きいということがあります。
そのため事業承継やM&Aへの支援によって企業を存続させることが重要になってくるのですが、それができる税理士も不足しているのが現状です。
なぜかというと、事業承継支援は法人税や所得税、相続税などの幅広い知識と経験が要求される専門性の高い事業だからです。
だからこそ、我々はこれまでの経験を活かして地方創生に携わり、山口県全体の活性化に貢献したいと思っています。
山口県で事業承継に特化している税理士事務所は少ないのでしょうか。
そうですね、特化している税理士事務所はほとんどないと思います。税理士にもお医者さんのように専門分野があり、法人税、所得税、相続税とそれぞれ得意にされている分野があります。中でも事業承継は、会社や経営者・後継者個人やその家族など関係者が多く、税務面でも様々な視点から考える必要があります。なので、全国でも対応できる税理士は2割程度と言われています。
では今はどうしているかというと、地方の金融機関にまず相談し、金融機関と提携している広島であったり福岡であったりの先生に依頼するという形が基本だと思います。
そしてそこまで話が進むのはある程度規模の大きい会社に限られており、そこから株価試算等を経て事業承継支援を進めていくというケースが現場としては多いと感じます。
事業を主に4つ展開されていると思いますが、事業内容について教えていただきたいです。
現在当社は事業承継支援、М&A、相続税対策、クラウド会計支援と4つのサービスを柱として事業を展開しています。
この中でもやはり核となる部分が事業承継支援とМ&Aです。相続税対策支援とクラウド会計支援も、それに付随して必要となってきます。
たとえば親族内承継の場合、財産でも換金できるものと換金できないものがあり、それらをオーナーの意向も含めてどのようにご家族に分配するか、その過程で税金はどうなるのか、といったことを考えるだけでも税理士としての専門知識が求められます。
またそれとは別に、経営者ではない一般の方からも、親族からの財産相続に関するご相談など承っております。
加えてクラウド会計支援ですが、これはまだまだ山口のような地方と都市部の間で大きな差が開いている分野といえます。未だに伝票を紙で書いていて、それを手作業で仕訳しているような会社が多くあるんですね。
それをクラウド会計に転換しようとすると、業務フロー全般の見直しが要求されます。こうしたニーズは意外に事業承継との親和性が高く、後継者への承継をきっかけとしてこれまでの業務を一新し、生産性を高めていくという事例は多くあります。
総じて、地方の事業をより良い形で次の時代へと繋げていく、ということを第一とした事業を展開しております。
「かんたん株価試算」開発のきっかけをご教示いただきたいです。
きっかけとしては、事業承継のうえで株価試算というのは欠かすことができないのにも関わらず、それをできる環境がとても少ないという現状を受けて、承継に対するアクションを少しでも早く取ってほしいと思ったことがあります。
やはり承継の課題は会社によって千差万別ですが、その前提として現在の会社の価値を知って共有しておかないと、次のステップは見えてきません。
しかし税法の計算ルールは非常に複雑なので、そこを一歩踏み出そうとすると専門家に高い費用を払ってお願いしなければならないとなって、アクションが止まってしまう。
けれども、事業承継は一朝一夕で取り組めるものではないので、できるのならば5年後10年後という先を見据えて、少しずつ準備を進めていくということが本当に大事なんです。
だからこそ、このサービスで将来の承継について意識してくれる方が少しでも増えてくれればいいですね。
「かんたん株価試算」についてPRポイントなどご教示いただきたいです。
かんたん株価試算は無料かつ匿名で、経営者自身が自社の株価を試算できるWEBサービスです。決算書と法人税申告書が手許にあればわずか5分で試算できます。
私達は「株価」は事業承継のファーストピンだと思っています。事業承継を考えた時に、クリアしなければいけない課題が多すぎて「何から手をつけていいのか分からない」、分からないから先送りしてしまうという経営者がほとんどです。
不確定な要素が多い事業承継の課題の中で、定量的に数字で見ることができるのが株価です。また、株式は「いつ、だれに、どうやって渡すのか」によって、株価や税金が変わってきます。そのため「株価」という定量的な情報で可視化することで、考えるべき課題や優先順位などが明確になります。かんたん株価試算で自社の価値を確認し、その結果からまずは何を考えれば良いのか、後継者や専門家へ相談するというきっかけにしていただくためのツールだと思っています。
現在は、経営者向けの「かんたん株価試算」と、税理士事務所や金融機関などの支援機関向けの「かんたん株価試算BIZ」の2つがあります。
経営者向けの「かんたん株価試算」では、自社の株価試算だけでなく、承継には切っても切り離せない「相続税の試算機能」もついています。2024年8月には、「事業承継計画書作成機能」もリリース予定です。事業承継計画が作れるWEBサービスは他にないと思います。
事業計画書は本来、専門家を交えながら会社の個別事情を反映させて作り込むものです。ですが「かんたん株価試算」では、まずは考えるポイントを大所に絞って、”質問に答えるだけ”で、社長の頭の中のプランをスケジュール表に落とし込んでもらえるようになっています。計画書を作る中で、「迷う点」や「もっとこうしたいという点」がきっと生まれてくると思います。そんなときは、その計画書をもって顧問税理士に相談したり、かんたん株価試算からお悩みに応じた専門家へ相談していただけるようなサービスも用意しています。
また、支援機関向けの「かんたん株価試算BIZ」の場合は、支援機関が複数の会社の株価算定をすることを想定しているので、保存機能が充実しているほか10年分の株価シミュレーション機能、Excelで試算結果レポートを出力することもできます。なので支援機関の方は「かんたん株価試算BIZ」を通して、自社の付加価値を高めていただき、お客様の事業承継を後押ししてくださることを願って開発しています。
「かんたん株価試算」は事業承継について考える場を提供していますが、これは先代と継承者が対話する場としても使えるように思います。
その側面もとても大きいですね。
親族間の承継の場合、当事者同士で意志表示がはっきりしないケースが非常に多いんです。
後継者の方も何となく会社に入って、経営者も何となく継いでくれるものだと思っているというケースです。
こうした場合に難しいのが、譲る側も譲る決断がしづらく、後継者としても自覚が曖昧なままズルズルと進んでいってしまう。こうなると継承は上手くいかないんですね。
そこで大事なのがやはり互いに合意を取っていただくということと、何よりもデッドラインを決めるということ。
将来的にいつ継承を確定させるかを共有するだけで、両者の行動の仕方もまったく変わってきます。
ですから「かんたん株価試算」の利用が両者に会社の将来のことを意識させ、引いては当事者間で対話するきっかけとなれば幸いですね。
意思疎通の部分は血縁関係だからこそ、話しづらい部分があるように思います。
ですから親の側からはっきり言うことは少ないですよね。
それでご子息は自分の好きなことをやりたいと思って、家業とは全然違う分野に興味を持って、けれども数年後には家業に戻って来て欲しいと言われてしまった、ということが起きてしまう。ただ親御さんからしてもお子さんのキャリアにおいて非常に重要だからこそ、なかなか切り出しづらい話だと思うんです。
他にもたとえば株の話ですと、いくら贈与されたらどの程度の納税負担が生じるのかといったことは後継者の方が特に気がかりだと思いますが、そうしたお金の話は親には中々聞けないという心理があります。
そこで決算書さえ手に入るような状況ならば、このサービスを使って後継者自身が株価を確認することもできます。メール送信機能も付いていますので試算結果を他人と共有することもできますし、そこから親子間のコミュニケーションが弾んでいけばいいですよね。
今後の展望についてお伺いしたいです。
私達の目標は、全国の承継のボトルネックを解決して、事業を次世代に繋げることで地域経済を盛り立てていくことです。
そうした意味で親族や従業員さんへの承継も、М&Aも同列に支援しているのですが、地方ではМ&Aに抵抗を示す人が少なくありません。大事なのは事業承継の選択肢を増やして、当事者にとって一番いい承継を実現することです。なので税法上の株価を入口にして、М&Aを包括した事業承継支援を進めていきたいですね。
事業承継ラボの読者に対してメッセージをお願いします。
率直に言うと、何がきっかけでも構わないのでできるだけ早い段階で当事者間の合意形成と意志表示を取っていただきたいということですね。
何から始めていいか分からないという方は、「株価試算」か「事業承継計画の作成」のどちらかイメージしやすい方から始めるのがオススメです。承継計画は年齢を記載するのですが、5年後が70歳になっていると「意外に時間がない!」と気づく方もいらっしゃいます。
事業承継は本当に長期的なプロジェクトなので1年程度でできることは限られており、それこそ5年後・10年後を見据えた長いスパンでの準備が必要となります。
事業に対する思いが強いからこそ、時には感情的になったり対立したりすることがあります。こうした時に必要になるのが、感情を沈静化する時間です。そして、時間だけでは本質的な解決にはならないので、話し合いの機会をたくさん設けることが事業承継の成功に繋がるはずです。