有限会社オオミスタイルは、1975年の創業以来、縫製加工業を中心に地域に根付いた事業を展開してきました。長い歴史の中で積み重ねてきた技術と実績を活かし、地域社会とともに発展し続ける同社。50年を迎えた今、新たな時代に向けてさらなる挑戦を続けています。今回は後継ぎとして次世代の経営を担う中矢佳希様にお話を伺い、事業の概要や家業継承への思い、そして将来の展望について深く掘り下げました。

有限会社オオミスタイルの事業概要についてお聞かせください。

 創業以来、オオミスタイルは縫製加工を軸に事業を展開してきました。

 当社は主にカバンや小物雑貨の製造を行っており、メーカーからの依頼に応じて一貫して生産工程を担当しています。京都のバッグメーカーをメインクライアントとしているほか、全国のさまざまな企業と取引があります。

 こうした多様なニーズに応えられる技術力と柔軟性が、当社の特徴です。

貴社の強みについて教えてください。

 オオミスタイルの最大の強みは、長年培ってきた縫製加工の高い技術力です。50年近くこの業界で事業を続けてきたことで、アパレルだけでなくカバンや革小物、さらにはポーチやティッシュケースといった細かい小物雑貨まで、さまざまな製品に対応できる幅広いスキルが備わっています。

 加えて、どのような注文に対しても柔軟に応えられる点も強みです。お客様の要望に沿ったオリジナル製品を高品質で製作できるのは、オオミスタイルならではの強みと言えます。

創業当初から現在までの事業の移り変わりについて教えてください。

 創業当初は、主に婦人服の縫製を手掛けていました。創業者である先代がゼロから立ち上げたこの会社は、当時はアパレルメーカー向けに婦人服を生産していました。しかし、時代の変化とともにアパレル業界の需要が減少し、2000年頃からは事業の幅を広げるために、カバンや小物雑貨の縫製にも取り組むようになりました。現在ではこれらが主力事業となっています。

 さらに、数年前に事業承継が行われ、現社長である私の義母が正式に会社を引き継ぎました。新しいリーダーシップのもと、私たちはこれまでの伝統を大切にしつつも、次世代に向けた新しい価値の創造に挑戦しています。

社名の由来についてお聞かせいただけますか?

 カタカナ表記の「オオミ」には、驚きや新しさを感じさせる響きがあり、常に新しいことに挑戦していく姿勢を表現していると言えます。「スタイル」という言葉には、近江の精神や地元のアイデンティティを体現するという意味合いも含まれています。

有限会社オオミスタイルに入社されたきっかけを教えてください。

 私は元々公務員として警察官を務めていましたが、結婚を機に妻の家業を支える道を選びました。実家が縫製業を営んでいることは知っていたものの、最初から関わるつもりはありませんでした。

 しかし、長く続けるには自分に合わないと感じた公務員の仕事を辞め、家業を手伝うことにしたのです。警察官という職業はやりがいもありましたが、職場の環境や仕事の内容が自分に合わない部分も多くありました。

 それに比べて、家族が協力し合い一生懸命に働く姿が楽しそうに見え、そこで生き生きと働く彼らに影響され、家業を支える道を選びました。

現在、アトツギとして取り組まれている具体的な活動についてお聞かせください。

 現在は、生産工程での裁断業務から工場の運営、そしてバックオフィスの管理業務まで幅広く担当しています。具体的には、生地を切る作業をはじめ、現場の効率化や生産性向上のための取り組みを行いながら、経理や人事といった管理部門にも関わっています。

 跡継ぎとして、家業の全体像を把握するために、あらゆる業務に携わりながら、現場と管理の両面でスキルを身に付けています。

ヌノニシタイについて詳しく教えてください。

 「ヌノニシタイ」は、私たちの新しいブランドであり、地域の文化や物語を織り込んだ商品を発信するために設立しました。ブランドのコンセプトは「ツナガル×キッカケ」を提供することで、地元の素材や職人の技術を活かし、全国へ発信することを目指しています。

 現在は、滋賀県のヨシという植物を使った生地を使用した製品を取り扱っています。ヨシは琵琶湖周辺の生態系と水質を守る役割を果たしており、そうした背景や文化もお客様に伝えたいと考えています。私たちはこのブランドを通じて、地域の文化や歴史を多くの人に知ってもらうとともに、新しい繋がりを生み出していきたいと思っています。

入社前と後で感じたギャップについてお伺いします。

 最大のギャップは、従業員の給料面です。当社で長く勤めている従業員の中には、非常に高い技術を持つ方もいますが、給与水準が十分に反映されていませんでした。

 この現状を変えるため、私は給与や待遇の改善に取り組んでいます。例えば、最低賃金を上回る給与水準の確保、ボーナスの導入、そして時給の見直しを進めています。

 縫製職人の価値を向上させるためには、従業員が安心して働ける環境を整えることが必要不可欠であり、引き続きその改善に力を注いでいます。

事業承継に向けた準備と今後の課題について教えてください。

 事業承継自体は既に進行中で、現社長に引き継がれました。今後の課題は、家業の基盤をより強固なものにし、経営の安定を図ることです。

 これからは、新ブランド「ヌノニシタイ」を発展させ、従業員がより良い待遇で働ける体制を築くことに注力していきます。また、従業員の技術を活かし、次世代の縫製業界を支える後継者育成にも取り組んでいく予定です。

今後の展望をお聞かせください。

 今後は、縫製職人の価値向上を目指し、従業員が安定して生活できる給与水準を実現することが目標です。

 また、「ヌノニシタイ」を通じて、地域資源を活用した製品を全国に広げていきたいと考えています。長期的には、滋賀の文化や歴史を発信しつつ、全国の地域文化を大切にした製品開発にも挑戦していきたいと思っています。

 公務員時代の自分と比較しても、自社での取り組みを通じて社会に貢献できる実感を得ており、そこにやりがいを感じています。

最後に、事業承継ラボの読者であるアトツギの方々にメッセージをお願いします。

 事業承継は決して容易なものではありません。家族との関係が絡むため、時に意見がぶつかることもあると思います。

 しかし、リスペクトを持ちながらお互いに協力することで、承継のプロセスをよりスムーズに進めることができます。

 同じアトツギとして、お互いに支え合いながら、未来に向かって共に成長していけるよう願っています。挑戦を恐れず、自分らしい道を歩んでいってください。