М&Aコンサルティングを通じてあらゆる地域の獣医療インフラを持続させることを目標として、開始6か月で登録数が100件を突破した動物病院専門М&A仲介XM&A and COMPANYの創業者であり獣医師の小川篤志様にお話を伺いました。
- 1. XM&A and COMPANYの社名の由来をお伺いできますか?
- 2. 臨床経験やスタートアップでのご経験が豊富な中で、XM&A and COMPANYを創業するに至ったきっかけについて教えていただけますか?
- 3. XM&A and COMPANYの事業内容について詳しくお聞かせください。
- 4. XM&Aのサービスの強みは何だとお考えですか?
- 5. サービス開始からわずか6ヶ月で100件の登録があったとのことですが、この反響の要因についてはどのようにお考えでしょうか?
- 6. ・登録者のバイサイドにはどのような方がいらっしゃるのですか。
- 7. 動物病院のM&A支援において、獣医師が支援を行うことの強みやメリットは何だとお感じになりますか?
- 8. 事業承継支援において、譲り渡す側と譲り受ける側のマッチングで特に重視されているポイントは何ですか?
- 9. ご支援をされている中でやりがいを感じる瞬間を教えてください。
- 10. XM&Aを通じて、動物病院M&A市場にどのような変化をもたらしたいと考えていらっしゃいますか?
- 11. 最後に、今後のビジョンや目標についてご教示ください。
XM&A and COMPANYの社名の由来をお伺いできますか?
XM&Aと書いて「てんま」と読みます。漢字で書くと「伝馬」となり、これは江戸時代に存在した物流システムに由来しています。かつては一頭の馬が長距離を移動するのではなく、宿場ごとにリレー形式で移動していたんですね。
これは事業も同じことで、一つの会社を一人の経営者がずっと続けていくということはできなくて、複数の人間に乗り継いでいくからこそどこまでも遠くまで行けるんだと思います。
さらに獣医業は軍馬から発展してきたという歴史もあります。「馬」のイメージを用いることで事業内容を連想させるという意味合いも込めています。馬に始まり馬が繋いでいく、このような我々の事業の理想を象徴するフレーズとして、「てんま」を社名として掲げているんです。
臨床経験やスタートアップでのご経験が豊富な中で、XM&A and COMPANYを創業するに至ったきっかけについて教えていただけますか?
動物病院業界において、今М&Aや事業承継といったものは一種のブームとなっています。
ところが仲介事業を行うにあたって、動物病院の臨床・経営を理解していれば、より大きな価値を提供できるのではと感じたことがきっかけです。
なぜかというと、多くの場合М&Aに対するゴールが当事者によって異なるからなんです。動物病院業界に対するビジョンがないと、仲介者はМ&Aを成立させて手数料を頂くことだけが目的化してしまう。でも、譲り受ける側にとってM&Aは手段にすぎず、そこからがスタートです。そして業界構造としても同様に、持続可能なものでなくてはなりません。
私たちは、獣医師です。業界に身を置く一人として、これからの獣医師業界に責任があります。この責任に対して真摯に向き合うことさえできれば、ゴールを仲介成立の先に見据え、バイサイド・セルサイド両者の発展に貢献し、この業界を持続成長させていくためのМ&Aを増やしていくことができると信じています。
私は、動物病院での臨床経験はもちろん、上場企業での経営企画部長をしたり、VCのCEO、海外法人のCEO、スタートアップ役員と様々なスケールの事業で経営に携わってきました。結構珍しい経歴です。そうしたキャリアを活かせば、もっとこの業界に貢献できることが多いのではと感じ、創業を決意しました。当社は社内の役員も実際の臨床経験と50病院以上の動物病院グループのCEOという随一の経営経験を持っており、業界内で唯一のポジショニングを持つことも事実です。
XM&A and COMPANYの事業内容について詳しくお聞かせください。
主に動物病院の事業承継支援、М&A仲介を展開しており、それに伴ってコンサルティング事業も手掛けています。
先述したように、М&Aにおいて売り手と買い手のゴールは違います。売り手側のゴールは契約を成立させることですが、買い手にとってはそこから事業を発展させ続けること。そして仲介会社は往々に売り手と目的を共有してしまいがちです。
そこで当社としては、買い手にとっても良い契約を提供することにしっかりを責任を持つため、コンサルタントとして成約後も伴走させていただく仕組みを整えています。
XM&Aのサービスの強みは何だとお考えですか?
獣医師であり、同時にM&Aコンサルタントでもあるというのが、シンプルな強みです。
具体例で言えば、事業価値の試算です。純資産法やマルチプルといった簡便な方法は使わず、決算書を総勘定元帳まで見に行き、細かく病院の特長やレセプトデータなどを確認した上で試算します。なぜなら、純資産法やマルチプルでは見過ごされてしまう動物病院の価値があることを知っているからです。
私たちはこれまで、数百件の動物病院の決算書を見てきました。決算書上の営業利益だけでは魅力が小さく映っても、実際には大きなポテンシャルを持っていることもあります。近隣の競合状況、病院のケイパビリティ、新規顧客数など総合的に評価しないと見えてこない強みがどの病院にも必ずあります。こうした試算ひとつとっても、動物病院の決算上からわかる価値だけではなく、本質的な価値まで立体的に評価できる。さらに、実際に当事者として携わっていた経験から、承継・合併において重要であったり躓いたりするポイントまで身をもって知っています。
それが私たちの強みです。
サービス開始からわずか6ヶ月で100件の登録があったとのことですが、この反響の要因についてはどのようにお考えでしょうか?
うれしく思っています。もちろん、私たち自身への反響という意味でもそうですが、事業承継・M&Aというものに対する見方がポジティブになりつつあることを特にうれしく思っています。
M&Aと聞くと、はっきり言って良いイメージはありません。でもその潮目が変わりつつある。「伝馬(てんま)」のように、一人の院長が長く病院を経営しつづけることは不可能です。でも、地域の獣医療は長く続いて行かなければならない。そうしなければ飼育頭数は減り、産業全体が斜陽化してしまうからです。
事業承継はそのための唯一無二の手段です。そんな事業承継・M&Aに対して、私たちが参入することで少しでもポジティブなイメージを持っていただけるなら、それはとても意味があることだと思っています。
そんな中で私に期待してくれていた人たちもいらっしゃいましたし、口コミでも広まっているようです。
・登録者のバイサイドにはどのような方がいらっしゃるのですか。
開業を目的とした個人獣医師がほとんどです。
たとえば東京で新規開業しようとしたら、一億近くの費用がかかります。そして、初年度はほとんどが赤字です。もちろん、新店開業ですから、周りの動物病院ともうまくやっていかなければいけません。
ですが事業承継ならば初年度から黒字が期待できる、というか黒字化できないのであれば承継するべきではありません。ローリスク・ハイリターン、そして地域獣医療の競争環境も乱さない事業承継に注目が集まっているのはこうした背景がありそうです。
動物病院のM&A支援において、獣医師が支援を行うことの強みやメリットは何だとお感じになりますか?
まず、譲受側と譲渡側のマッチングを最適化しやすい点です。互いの強みが相乗効果を成せるように議論を重ねます。ここがすれ違ったまま進めてしまうと、お互いに不幸な事業承継になりかねません。
次に、事業価値の試算です。単なる数字の集積として見るのではなく、そこに至るまでの過程を見通すことができる。
たとえば手術がどのくらい行われていたか、新規顧客が伸びているか、地域における競合環境はどうか、などの判断材料から今後の伸び方について仮説を立てて、より実態に即した形で病院の事業価値を評価することができます。
そうするとバイサイド・セルサイド両者にとっても納得しやすい条件を提供できる、これがまず継承以前の強みです。
継承以降に提供できる価値としては、やはり動物病院の事業承継で発生しやすい論点を隅々まで譲受当事者として実体験しているということが挙げられます。
たとえば病院には半年に1回のX線漏洩検査が義務付けられており、もし漏洩していたとしたら改築などで費用が発生します。ところがこれが今までしていなかったというパターンがかなりある。ではそのことを知らずに承継したとしたらどうなるでしょうか。これは、動物病院を経営したことがない仲介者だとなかなか気づくことはできません。
事業承継という大局から見たとき重箱の隅のような小さな話に過ぎないのですが、それでもすごく重要なんですね。
こうした普通では気付かない箇所まで注意を払い、契約書に盛り込み、アフターケアも実施できるという点は、当社の大きな強みであるといえます。
事業承継支援において、譲り渡す側と譲り受ける側のマッチングで特に重視されているポイントは何ですか?
これは二つあります。一つは完全な中立を徹底するということ、もう一つは双方の相性です。
М&A仲介という立場は、常に悪魔のささやきと向き合い続けなければなりません。目先の利益(仲介手数料)を優先せず、譲渡側と譲受側にとっての最大メリットを目指す職業倫理と責任感が必要とされます。
そこで重要なのが中立的立場であり続ける信念の強さです。この軸がブレて「仲介手数料のために、こちらの味方をしよう」と考えてしまった瞬間に、私たちの価値と信用は全て失われます。
次に相性というのも、動物病院にとってはとても重要になってきます。
たとえばバイサイドが整形外科が得意な先生であれば、その分野が強い病院を紹介したほうが、事業の継続的発展の可能性は高まります。一方で、前院長が残る場合などでは、別の分野に強みがある獣医師であるとさらにその病院のポテンシャルを上げることができるかもしれません。こうした相性をどの角度から見るかを大切にしています。
業界全体のための仕事であるからこそ、どのようなマッチングが依頼者双方、引いては社会にとって重要であるかどうかを常に考え、仲介を実施しています。
ご支援をされている中でやりがいを感じる瞬間を教えてください。
事業承継・M&A仲介事業とは何かと考えたとき、僕は夢を叶える仕事をしているだと定義しています。
それはある先生にとってはリタイアしてのどかに暮らしたいという夢かもしれないし、ある先生にとっては今の環境ではできない医療を実現していきたいという夢かもしれない。
その夢に向かって近付いていることが実感できる瞬間は、とてもやりがいを感じますね。
XM&Aを通じて、動物病院M&A市場にどのような変化をもたらしたいと考えていらっしゃいますか?
動物病院が持続可能な産業であるためのエコシステムを根付かせたいと考えています。
これまでは、M&A・事業承継に対して決して良いイメージだけではありませんでしたが、事業承継は三方良しのスキームであるはずです。バイサイドには事業拡大の機会が、セルサイドには売却益とリタイヤした後の時間がもたらされる。そして、顧客である飼い主さまと動物たちの獣医療インフラは引き継がれ続ける。
特に「時間」というのは何にも代えがたいものです。動物病院の先生方は、入院の子たちの世話などがあり、多くが家族旅行にも行くことさえできません。せめてリタイヤ後には、ご夫婦、お子さん・お孫さんと旅行に行ったりする時間を持っていただきたいと願っています。
そういう中で円満に引退するシステムがあることはとても大事ですから、事業承継は後ろめたいものではない、従業員も飼い主さんも動物たちも守り続けていけるスキームだということをもっと普及していきたいです。
最後に、今後のビジョンや目標についてご教示ください。
ミッションとしては、動物病院業界の難題に挑むということを掲げています。
それはたとえば地域獣医療というインフラの維持であったり、動物の数そのものが減少しているという傾向であったりします。
そして事業承継・М&A仲介は、その難題を解決する手段の一つに過ぎません。ですので色々な団体や企業も巻き込みながら、我々独自の目線でこれらに切り込んでいき、少しでも解決へのお手伝いをできればよいと思っています。