М&Aにまつわる多様なサービスを展開するGOZENと地場産業の事業課題を解決する総合カンパニー株式会社トレジャーフットの合同事業であり、「不易流行(ふえきりゅうこう)」をキーワードに都市と地方どちらにも事業成長・新規事業創出・EXITをもたらすFUERUCOについて、田中祐樹様と布田尚大様にお話を伺いました。

まず、布田尚大様と田中祐樹様の自己紹介をお願いします。

(布田)

 トレジャーフットの金融事業部の部長であり、ソーシャルM&AファームGOZENの経営者である布田と申します。

 GOZENはМ&A仲介およびそれに伴うファイナンシャルアドバイザーを主な事業としていますが、ターゲット層は数年以内のスタートアップ企業であったりスモールビジネスであったりで、一般的なM&A仲介事業者との対象とは少し違っています。

 さらにマッチングだけに止まらず、ビジネスメディアと企画を組んだり、アーティストへの投資を行ったりと、私自身エシカルファッション会社にプロボノとして参加していたバックグラウンドもあって、クリエイターに寄り添った幅広いサービスを展開しております。

(田中)

株式会社トレジャーフットの代表を務めております、田中と申します。

当社は現在7期目で、鎌倉に本社を置き、地場産業の発展への貢献を目標として人材マッチングサービスなどを展開しています。

これまで特に地方の中小企業を対象として課題解決に取り組んでいたのですが、その過程の中でやはり事業自体を承継してもらうことの重要性を痛感する機会が多くありました。

そんなときに布田さんとの出会いがあり、GOZENとしての取り組みに共感を抱いたことから、トレジャーフットの金融事業部にジョインしていただくとともに共同事業としてFUERUCOを立ち上げました。 

お二人が出会った経緯からFUERUCOのサービス立ち上げの経緯をお伺いしたいです。

(田中)

 トレジャーフットはこれまでずっと地域の中小企業への支援を続けてきたのですが、その中で事業承継の必要性を感じることが多くありました。

 たとえばとある地域新聞社では、社長が倒れて容体が危ないとなったとき、病床で「自分にもしものことがあれば事業はトレジャーフットにやってもらえ」と仰られたということがありました。

 正直言ってうちの能力では無理なのですが、そうしたことから経営状況を改善させるだけでは地方中小企業にとって根本的な解決に辿り付けないのだという思いを抱きました。

 そこからМ&Aや事業承継に関心を持つようになったのですが、一方で金融や仲介のことは何も分からないし、取っつきづらい世界だというイメージは拭えずにいたところで、布田さんに出会ったんです。

(布田)

 二人で事業を立ち上げようと決意したきっかけとしては、感覚というか、「何をカッコいいと思うか」がすごく近い人だと思ったからですね。

 トレジャーフットには「ロマンとソロバン」という標語があり、社会的意義とビジネスとしての利益を両立させようという意思を表明しているのですが、GOZENのほうにも「美しさ正しさでメイクマネー」というキーワードがありまして。社会にとって意味があると同時に、「イケててお金が稼げるもの」を生み出したいという気持ちがどちらにもあるんです。

 そしてその二つの極の間でどうバランスを取るかというのは、それこそどういう音楽がかっこいいと思うか、飲み会をしていて波長が合うかどうか、という感覚的な部分がすごく大きいと思っています。 

サービス名「FUERUCO」に込められた意味について、特に「不易流行(ふえきりゅうこう)」を選ばれた背景をお聞かせいただけますか?

(布田)

 まずシンプルに「不易流行」という熟語の佇まいのよさですね。

 詳しく説明しますと、僕らが事業の対象としている地場産業は、長年積み重ねてきた普遍的な強みを保有していることが少なくなく、その点について例えば東京の大企業を上回ることも少なくありません。その意味で「不易」なものが存在することは間違いありません。

 一方で万事このままでいいかというと当然そうではないかもしれないと思っており、変わっていかなければいけない部分は無数にあります。社会の変化に伴った「流行」も必要だろうということです。

 その変わっていくものと変わらないものを最適なバランスでブレンドしていきたい、その気持ちが「不易流行」というフレーズに込められたメッセージといえます。 

FUERUCOが目指す地場産業の支援とはどのような形で行われるのでしょうか?具体的な取り組みを教えてください。

(田中)

 ビジネスモデルとしてはエージェント型として極めて一般的なものです。

 では取り組みの独創性はどこにあるかというと、М&Aを一つの手段に過ぎないものとして捉えているところにあるだろうと思っています。

 経営者の方と課題についてコミュニケーションを重ねていき、М&Aを視野に入れつつもお相手にとってベストな手段を模索するとともに、売買が成立したあとも事業の定着まで包括的に支援を提供します。

 僕たちは元々М&Aで買収された後の企業のリブランディングなども請け負っていたので、ディールの前後の部分に経験値があるということは一つの強みとしてあります。

 契約成立の前と後を重視するМ&Aのあり方が、FUERUCOの独創性であり魅力ですね。 

クライアントとしてはバイサイドが中心になるのでしょうか。

(布田)

そうですね、事業を買収する主体はトレジャーフットがリレーションを保有する地場産業がメインです。

その方々に、GOZENがリレーションのある、セルサイドの候補者様をご紹介することもできます。

またトレジャーフットは地域のフリーランスやベンチャー経営者の方々にも支援を実施しており、今後そういった方々が一定の事業成長を成し遂げた際、ローカルtoローカルの形で、地場有力企業が買収する、といった今後の広がりにも期待しています。

GOZENが進める「ソーシャルM&A」とは、従来のM&Aとどのように異なり、どんな価値を提供するのでしょうか? 

(布田)

 大きなミッションとしては、文化や社会的価値と経済的価値を供えたディールを提供することです。

 これは逆に言うと、とにかく1円でも高く売れればいいなどとは決して考えていないということです。たとえばGOZENのお客様である若い起業家の方々を相手にしたとき、その方々のキャリアの観点で、今一円でも多くキャッシュを得るよりも、その事業をさらに発展させられる相手を選び、M&Aを本当の意味で成功させるトラックレコードを選ぶ方がはるかに有益です。

さらに分かりやすい活動としては、GOZENは一つディールが決まれば一つ関連する非営利団体に寄付をする、という活動を続けています。

このように、解決したい社会課題に対し、営利・非営利を問わず一緒に社会を良くしていきたいという考えのもと、様々な試みを行っています。

両社の提携により、どのようなシナジー効果が期待されていますか?

(布田)

GOZENとしては、現在関係があるバイサイドのクライアント様の多くが東京の企業に限られているため、地場企業にまでネットワークを広げられるという点に魅力を感じています。

地場企業の場合、例えば生産体制を持っていたり地域の商圏を持っていたりといったような、独自の強みを持つ可能性も多く、マーケティング能力に長けた東京の新興企業との新たなシナジーを生み出せる余地も大きいです。

(田中)

 トレジャーフットとしては、М&A仲介のメソッドを得ることができるという点はまず明確なシナジーです。

 さらに事業そのもののシナジーとしては、仲間を集めやすくなるという利点があると思っています。

 我々としてはすぐにМ&Aをしたいというクライアント様がいればもちろんいいのですが、忘れてはいけないのは、我々が出会う事業者のほとんどは既に潜在的なクライアントであるということです。実際に当社は潜在的顧客層である多くのフリーランスの方々と繋がりがあり、金融機関、行政にも広いネットワークを持っています。

もちろん、こちらの利益のために売却を持ちかけるようなことはありません。ただ長期的な付き合いの中で、人生でМ&Aが必要となるフェーズがいつか来るかもしれませんし、そのときは仲介業者として全力でご相談に預かるつもりです。

 関係する人たちを増やしていきながら、彼らの成長過程における手段として、М&A事業承継という選択肢を提示できる。これはその事業会社様にとっても社会にとっても素晴らしいことで、美しい世界を作り上げる一つの方法だと言うことができると思っています。 

地場産業やローカルスタートアップが抱える主な課題について、特にどのような問題が重要と考えられますか?

(布田)

地場産業に関しては、圧倒的に人材だと感じています。

たとえば新規事業を作れる、事業を立て直せる、とにかく新しいことができる人たちが足りていないというのは感じます。

優秀な若者が東京を初めとする都市部を目指すのは一定は避けがたいので、どのようにして地方に魅力を感じてもらうかが大きな課題です。

その中で、地場企業に「就職」するのではなく地場産業にM&Aを行い、「子会社社長」としてコミットするのは、有力な選択肢の一つになると思っているんです。

地方創生という言葉の普及とともに、東京のデザインファームによる「デザインの力によるローカルプロダクトのリブランディング」といった活動が2010年代に盛んに行われましたが、そこからさらに踏み込み、資本構成でも一体となった「地方創生2.0」的なアクションが今後普及してくると思います。

(田中)

 10年以上前、わたしは沖縄において地場産業を経営する側にいたことがあるのですが、そのときに痛感したのが、ファイナンスリテラシーがある人が圧倒的に足りないということです。

 メガバンクはみずほ以外支店がないですし、地銀でも自分のような立場の人間では関わりを持ちにくかったりで、正直に言うと頑張りたいのに頑張りようがないと感じてしまったんですよ。

 それから10年が経って、東京にも出てきていますが、やはり東京にそういう人材は溢れているんです。これが都市と地方の情報非対称性の問題です。

 ですから私としては、地方の中小企業やローカルスタートアップをしている方々にとって気軽に相談できる、情報の非対称性を僅かでも小さくする存在になりたいと思っていて、これからの自分の活動もそうしたふうに意味付けているのではないかと考えています。

「アトツギベンチャー」への支援も視野に入れているとのことですが、FUERUCOの役割について具体的に教えていただけますか?

(布田)

一番は、シンプルに後継ぎベンチャーの方々がM&Aを活かして新規事業を始められる支援ができればよいですね。

家業を生かしながらより飛躍していくことが求められている人に対して、新規事業の種になるディールの提案を、FUERUCOとして積極的に行っていきたいです。

(田中)

 承継当初って、選択肢が多すぎて何が何だか分からない、という状況になりがちだと思うんです。

 そのときに僕たちは多様な選択肢を持っているし、別に方向性をМ&Aと決めなくともあらゆる方向からご相談に乗れるわけです。

 そのような気軽に話せるポジションにある会社として、価値が発揮できるでしょうね。

地方企業と都市圏のスタートアップのM&Aが、地域社会や経済にもたらす影響についてどのようにお考えですか?

(布田)

 とてもよい影響があると思っていますよ。

 図式化して言うと、今の地場産業は地域で積み重ねてきた信頼などを武器として持っている一方、新しい価値を起こしていく起業家の数がまだまだ少ない現状があると思っています。

 そこでМ&Aによって東京の新興企業の知識や新規事業をゼロから作れるような優秀な若者のコミットがあれば、地場の経済システム全体にとってインパクトがあるでしょうし、地域活性化の新たなモデルケースの一つになるはずです。

(田中)

 僕としては、新しい流通を生み出せると思っています。

 これまでの流通は都市to都市、もしくは大手資本が地方企業を買い漁るという図式でしたが、僕らが提供しているものはそうではない。

 地域の企業が採用以外の手法で他所から人を入れることで、新たな温かい結びつきが生まれることを目指しています。

FUERUCOのビジョンと目指す姿をお伺いしたいです。 

(布田)

 軽く先述しましたが、ここ10年くらいで地方創生というワードが流行りましたが、これからの10年は、そのアクションの中核に資本の領域が入ってくることになると思うんです。

コンサルティングやアドバイザリー、マーケティングやブランディングのサポートといった領域を超え、「財務諸表」上でも地域と繋がっていくために、ファイナンスの手法が重要になります。

だからこそ、М&Aはもちろん、PEファンドやVCに代表されるような、ファンド組成なども積極的に取り組んでいきたい推進していきたいと思っています。

(田中)

 今後日本の未来を考えたとき、地方分散で東京一極集中を回避しようとするけど、なかなか分散しないだろうというのが実態なのかな、と考えています。

 そしてそんな中で僕たちは本気でその循環に取り組んでいて、地方分散は非合理と言われてきたけど、これまでの努力の積み重ねもあって、ある時を境にダムが開かれたかのようにその流れが加速するのではないかと思うんです。

 そのためにも、М&A事業承継支援や金融リテラシーの普及、人材の流通など、複合的な取り組みによって地方の力を底上げしていきたい、というのが現在のビジョンですね。