川信産業株式会社は、90年以上にわたり九州の農業を支える農業資材専門商社です。農協やたばこ耕作組合との強固な関係を活かし、資材の提供から施工まで幅広く対応しています。さらに、黒にんにくや黒らっきょうの生産・加工といった6次産業化にも挑戦し、地域農業の持続可能な発展を目指す取り組みを実施。今回は同社代表取締役社長の川畑喜久氏、事業内容や強み、家業を継ぐ決意、今後のビジョンについてお話を伺いました。
当社は、農業に関する幅広い資材を提供する卸売業を展開しており、農業の多様なニーズに対応できる体制を整えています。主な商材としては、農薬や肥料、ビニールハウス用のビニールやパイプ、畑の土壌を保護するためのマルチングフィルムなど、多岐にわたる製品を取り揃えています。特に、ビニールハウスの施工に関しては、設計から設置、メンテナンスまで一貫して対応できる強みを持ち、お客様のさまざまな要望に応じたカスタマイズも可能です。また、最新の農業技術を活用し、地域ごとの気候や農作物の特性に合わせた最適な資材を提案することで、農業経営の効率化を支援しています。
現在、熊本・鹿児島・宮崎の3県に拠点を構え、特に発祥地である鹿児島では、長年の経験と信頼を基盤に、地域の農協やたばこ耕作組合との連携を強化し、農家の方々の安定した生産活動をサポートしています。
当社がこの事業に乗り出したのは、農業資材の提供だけにとどまらず、農家の収益向上や地域農業の活性化を目指すためです。農家との深いネットワークを活かし、地域特産品である黒にんにくや黒らっきょうの生産・加工に取り組むことで、農産物の付加価値を高めることを目的としました。
特に、農業の高齢化や後継者不足が進む中で、地域資源を最大限に活用し、持続可能な農業モデルの確立を目指しています。市場のニーズに応じて事業規模を見直しつつ、品質向上や販売チャネルの拡大にも力を入れています。
当社の最大の強みは、90年以上にわたり築き上げた信頼関係と、現場に密着した専門知識です。農協や組合との長年の取引を通じて、農業に関する深い知見を蓄積してきました。 単なる資材の供給にとどまらず、農家の課題を理解し、適切な解決策を提案することが当社の価値だと考えています。
また、地域密着型の営業スタイルを採用し、農家の声に耳を傾けることで、時代の変化に即した柔軟な対応を行っています。
創業者の川畑信三が、日用雑貨を荷車で販売していたことが当社の始まりです。その後、鹿児島のたばこ農家から育苗用テントの供給依頼を受けたことを契機に、農業資材の卸売業へとシフトしました。当時の農家のニーズをくみ取りながら、時代に応じたサービスを展開し、地域の農業を支える存在へと成長してきました。
前職では最先端の技術に触れる充実した日々を過ごしていましたが、家業を継ぐ責任が常に頭の片隅にありました。
最終的な決断のきっかけは、父の新規事業への取り組みでした。家業に戻ることで、これまでの経験を活かしながら、事業の発展に貢献したいと考えました。特に、IT技術を活用した業務改善や新たな市場開拓など、外部の視点を活かして取り組んでいます。
想像以上に誠実で熱心な従業員に恵まれていた一方、ITの活用不足や業務効率化の余地が多くあることに気づきました。そこで、社内の業務フローを徹底的に見直し、デジタル化の推進に注力しています。
現在では、クラウドを活用したデータ管理や、バックオフィス業務に関するシステムの導入など、業務の効率化を進める取り組みを行っています。
事業承継に向けて、特に印象に残っているのは、従業員との信頼関係を築くプロセスです。入社当初は、「創業家の一族」としての視線を感じることもありましたが、現場に足を運び、配送や営業活動に積極的に関わることで、従業員の方々との距離を縮めることができました。
特に、ある大規模農家との取引を獲得する際、現場スタッフの協力によって成功に繋がったことは、事業承継の重要性を実感する貴重な経験となりました。
事業承継を終えた今、責任の重さを実感しています。従業員の生活を預かる立場として、会社のさらなる発展を目指す一方、これまでの経営方針や培われた信頼を継承することの大切さを強く感じています。未来に向けては、より革新的な取り組みを推進しつつ、地域に根ざした企業としての役割を果たしていきたいと考えています。
まずは経営基盤を強化し、企業文化の浸透を図ります。そのうえで、地域農業のニーズに応じた新規事業を展開し、持続可能な農業の実現に向けた支援を続けていく計画です。さらに、デジタル技術の活用を加速させることで、スマート農業への対応や新たな事業の創出を視野に入れています。