伝統と革新を織り交ぜた挑戦|株式会社阪本

創業113年の歴史を誇る株式会社阪本。地域に根ざした仏壇・仏具の販売だけでなく、お寺の修復や新たな商品開発にも挑戦し続けています。クラウドファンディングを活用し、伝統産業に新たな風を吹き込む阪本の挑戦について、代表取締役の阪本琢磨氏にお話を伺いました。

創業113年の株式会社阪本の事業概要について教えてください。

 株式会社阪本は、創業113年を迎える仏壇・仏具販売の老舗企業です。主に地域の商圏で仏壇、仏具、ろうそく、お線香の販売を手掛けています。仏壇や仏具は地元の店で購入されることが一般的ですが、阪本は地域に根ざした事業を展開し、長年にわたり地元の人々に親しまれています。

 また、仏壇や仏具の販売だけでなく、お寺の修復や仏像の修復といったBtoBの事業も行っています。さらに、近年では伝統技術を生かした新たな商品の開発にも取り組んでおり、仏具の枠を超えたライフスタイル製品の展開を進めています。こうした幅広い事業展開が、阪本の長い歴史を支えてきた要因の一つといえるでしょう。

創業当初から現在までの事業の変遷について詳しく教えてください。

 阪本の事業は基本的には創業当初から大きく変わっていませんが、時代に合わせた適応を続けてきました。初代が仏壇屋で働いた後に独立し、株式会社阪本を創業しました。2代目の時代には、商店街の活気を活かして一時的に駄菓子屋も経営しましたが、結果としてすぐに撤退。その際に「忙しいだけで利益の出ない仕事はやるな」という教訓を得たそうです。

 また、1991年に法人化し、社名を「株式会社阪本」として現在に至ります。阪本というシンプルな社名にしたのは、将来的に仏壇事業が続かなくなった場合でも柔軟に事業展開できるようにするためという、先代のクレバーな判断がありました。

 近年では、伝統技術を活かした新しい試みとして、自社開発の商品を展開しています。特に「睡眠のためのお香」など、従来の仏事関連商品の枠を超えたプロダクトを生み出すことで、新たな市場を開拓しつつあります。従来の仏壇・仏具販売に依存しない収益基盤を築くことを目指し、時代に適応した経営を続けています。

貴社ならではの強みはどのような点にありますか?

 阪本の最大の強みは「親しみやすさ」と「専門性の高さ」の両立です。仏壇店は一般的に入りにくい印象を持たれがちですが、阪本ではそのハードルを下げることを意識しています。代表の私は30歳まで音楽活動をしていた経験があり、ビジネスの基礎も知らない状態で家業に戻りました。そのため、お客様と同じ目線で対話し、親しみやすい接客を心掛けています。

 また、地元のフリーペーパーに仏事に関する連載を103回続けていることからも、専門知識の深さも兼ね備えていることが分かります。顧客に対して最適な提案をすることを重視し、場合によっては「まだ仏壇を買わなくていいですよ」といったアドバイスも行うほどです。

 さらに、単なる販売業ではなく、お寺の修復や仏具の再生などの専門技術を活かしたサービスも提供しています。修復技術により、数十年前に納品した仏壇を再生し、顧客との長い関係性を築くことができるのも強みです。

事業承継において最も印象に残っている出来事は何ですか。

 事業承継の中で特に印象に残っている出来事として、お客様から「ひいおじいちゃんの代に阪本で作った仏壇を修理してほしい」と依頼されたことが挙げられます。100年以上の歴史を持つ企業だからこそ、このように代々受け継がれる製品の修理依頼があり、それを通じて顧客とのつながりを実感できる機会がありました。

 また、先代が事業を引き継いだ際に苦労した話や、長年のお客様から「阪本に任せておけば安心」と言われたことも、会社の歴史と信頼の積み重ねを感じる瞬間でした。

事業承継の準備で行ってよかったことはありますか。

 私の場合、事業承継の準備期間はほとんどありませんでした。ある日突然「来週から社長な」と告げられ、そのまま社長になったのです。これは先代が経験した事業承継と全く同じパターンだったそうです。

 ただ、社長になっても、先代が健在なうちに様々なチャレンジができたことは大きかったと振り返ります。次期社長としてのスキルを磨くことよりも、新しい事業に取り組むことが重要であると考えています。

クラウドファンディングを活用した新規事業について教えてください。

 阪本では、クラウドファンディングを活用して新しい市場への挑戦を行っています。その一例が「睡眠のためのお香」です。このプロジェクトは、伝統的なお香文化を現代の生活スタイルに取り入れることを目的として開発されました。

 クラウドファンディングの実施により、多くの支援者から資金を調達し、短期間での製品化が可能になりました。特にMakuakeでは、211人の支援者から906%の達成率を記録し、大きな反響を呼びました。この成功を受け、今後もクラウドファンディングを活用し、新たなプロダクトの開発や市場開拓を進めていく計画です。

事業承継を考えているアトツギの方々へメッセージをお願いします。

 事業承継ラボを見ているとすごい人ばかりだと思うかもしれませんが、自分にしかない強みを活かせば大丈夫。スキルが低くても、工夫次第で道は開けます。挑戦することを恐れず、ぜひ行動を起こしてください!

 また、事業承継は過去の伝統を受け継ぐだけではなく、次の時代に向けた新たな価値を生み出すことが重要です。新規事業への挑戦や、デジタル活用、海外市場への展開など、次世代の視点を持つことが求められます。阪本もこの理念のもと、今後さらなる革新を進めていきます。

事業承継ラボ

日本は大廃業時代に突入するとも言われ、 「事業承継」をいかにうまく行うか。そして、次の世代交代で新たなチャレンジを「IT」と「マーケティング」を活用して実施していく必要がある。 そんな、チャレンジングな強い日本企業の成長を支えて行きたいと考えています。 Facebook URL https://www.facebook.com/jigyoshokeilabo/ Twitter URL https://twitter.com/jigyoshokeilabo