神奈川県横浜市に本社を構える株式会社スリーハイは、産業用ヒーターのオーダーメイド製造に特化した町工場。創業者の想いを二代目・男澤誠様 が受け継ぎ、理念経営へと舵を切り、地道な変革を積み重ねてきました。事業承継のリアルな葛藤と、そこから生まれた新たな挑戦に迫ります。

株式会社スリーハイの事業内容について教えてください。

株式会社スリーハイは、神奈川県横浜市都筑区に本社を置く、産業用・工業用ヒーターのオーダーメイド製造・販売を専門とする町工場です。主力商品である「シリコンラバーヒーター」は、一般家庭で目にするこたつやストーブといった暖房機器とは異なり、工場設備や産業機器に組み込まれる専門性の高い製品です。
私たちは単にヒーターを作るだけでなく、お客様の現場に足を運び、直接ニーズをヒアリングしながら、課題解決に最適なヒーターを一つひとつオーダーメイドで製作しています。10月から3月にかけての繁忙期には、約40名の従業員が一丸となって、細やかな顧客対応と確かなものづくりに取り組んでいます。

産業用ヒーターはどのような用途で使用されるのでしょうか?

産業用ヒーターは、社会インフラや工業製品の裏側で不可欠な存在です。例えば、ETCゲートの融雪用途では、ゲート内部に設置されたヒーターが雪を溶かし、車両通行を支えています。ほかにも半導体製造装置や医療機器、食品工場の配管保温など、多様な分野で活躍。これらの現場に共通して求められるのは、既製品では対応できない個別の条件に応じたオーダーメイド設計と止まることが許されない環境でも長期間安定して稼働する高い信頼性です。

創業のきっかけや背景について教えてください。

スリーハイの創業は、父・男澤利蔵が脱サラして始めた挑戦からスタートしました。営業職だった父は、製造よりも「売ること」に強みを感じ、ニッチな産業用ヒーターに目をつけました。「参入障壁が高い」という判断で独立し、地道な営業活動で市場を開拓しました。当時私は学生で、家業を継ぐ意識はなかったものの、父の情熱を間近で見て育ちました。

社名「スリーハイ」の由来を教えてください。

「ハイテック(技術)」「ハイタッチ(接客術)」「ハイファッション(創造術)」の三つのハイを社名に込めました。単なる製品供給にとどまらず、高度な技術、温かい対応、時代に合った感性を兼ね備えた企業を目指す。その精神は今も受け継がれ、「ものを想う。ひとを想う。」という現在のミッションへと進化しています。

世界中の「温めたい」に応えていく。」というモットーに込めた御社の強みを教えてください。

スリーハイの強みは、お客様にとことん寄り添う姿勢にあります。現場に足を運び、課題を一緒に考え、オーダーメイドで最適解を提供する。ただ製品を納入するのではなく、現場の課題解決と心の満足を同時に目指します。「頼んでよかった」と思っていただける関係性を、何よりも大切にしています。

MVV(ミッション・ビジョン・バリュー)策定の経緯について教えてください。

父の代では暗黙の了解だった理念を、私の代で言語化しました。経営塾で学び、「社会にどう貢献するか」を自覚的に発信すべきだと気づきました。「ものを想う。ひとを想う。」というミッションを軸に、従業員参加型で理念を育て、組織開拓も取り組んできました。

アニュアルレポート制作の背景について教えてください。

中小企業に情報開示の義務はありませんが、自ら発信することに意味があると考えました。財務情報も含めた開示を行い、社会に対して誠実な姿勢を示しました。この取り組みは、顧客、行政などのステークホルダーや求職者からの信頼獲得にもつながっています。

異業種から家業に入った、最も不安だったことは?

ものづくりも人との対話も得意ではなかったため、本当にやっていけるのか不安でした。特に職人気質な現場とのコミュニケーションには苦労しましたが、毎日会社に行き対話を続け、少しずつ信頼を得ていきました。

従業員との関係をどう築き直していったのですか?

父の助言もあり、自分が一緒に働きたいと思う人材を採用する方針に切り替えました。明るく前向きな人たちが徐々に職場の雰囲気を変え、自然な形でポジティブな組織風土が根づいていきました。

事業承継時、どのような引き継ぎ準備がありましたか?

営業管理からスタートし、仕入れ、財務、銀行交渉と段階的に権限移譲を受けました。急激な変化を避け、無理なく承継してくれたことが功の要因です。リーマンショック直後という厳しい環境でしたが、「這い上がるしかない」という覚悟を持つことができました。

事業承継後、特に苦労された点は?

父の「利益全額還元型経営」から、会社に利益を残す体制への転換に苦労しました。従業員への丁寧な説明と対話を重ねた結果、現在では無借金経営を実現し、持続可能な成長基盤を築いています。

復調に向けた具体的な取り組みについて教えてください。

コロナ禍では、オンラインショップ立ち上げとホームページ刷新を実施。非対面営業体制を整えたことで、逆境の中でも新たな顧客層を獲得することができました。これまでの経験がつながる感覚を実感しました。

後継者として「やってよかった」と思うことは?

すべてを一人で抱え込まず、従業員と共に考え、動くスタイルを築けたことです。組織に一体感が生まれ、個々の力が自然と最大化される環境ができました。

従業員を大切にする理由を教えてください。

従業員は、自らの大切な時間を会社に託してくれている存在です。だからこそ、働く環境を整え、気持ちよく力を発揮できる場を提供することが、私の責任だと考えています。

町工場カフェについて教えてください。

地域に開かれたショールーム兼カフェを設置し、地域住民や企業と自然な形で接点を持てる場を作りました。従業員もリフレッシュ空間として活用され、職場全体の活性化にもつながっています。

最後に、事業承継ラボ読者である後継者の皆さんへメッセージをお願いします。

事業承継に正解はありません。選んだ道を正解にしていく努力がすべてです。そして、その道を支えてくれるのは必ず従業員です。彼らを信じ、大切にしながら、自分らしい経営を築いていってください。