愛知県刈谷市を拠点に、不動産・建設・エネルギーと多角的な事業を展開するハタス株式会社。創業95年という歴史を持ちながらも、20代の兄弟が若き経営者として舵を取り、売上100億円という大きな目標に挑戦する「100年100億プロジェクト」を推進しています。伝統を受け継ぎつつ、次世代の経営に必要な“本質的な価値提供”を掲げるハタスの現在地と未来について、塚本氏に詳しく伺いました。

改めて、ハタス株式会社の事業内容を教えてください。

私たちハタスは、不動産、建設、そしてプロパンガスの3本柱を中心に事業を展開しています。具体的には、賃貸物件の建築、建てた物件の管理、地主様や経営者の方が所有する不動産の管理、さらには賃貸仲介サービスを手掛けています。また、創業当初から続くプロパンガスの供給も大切な事業です。

近年はさらに「ファミリーオフィス」という新たな領域に挑戦しています。これは、不動産を軸とした資産形成・資産承継のサポートを行うもので、金融機関のウェルスマネジメントに近い位置づけです。95年かけて私たち自身が経験してきた資産の築き方や承継ノウハウを、同じような課題を抱える富裕層や経営者の皆さまに還元していきたいと考えています。

御社は1930年創業と伺いました。これまでの歩みについて教えてください。

創業は1930年6月、練炭や菜種油を扱う「塚本商店」からスタートしました。その後、祖父の代でガス事業に参入し、地域の暮らしを支えるインフラとして定着していきます。さらに父の代になると、不動産管理会社を買収し、不動産業界に参入しました。当時は倒産寸前の企業を父が半ば覚悟を決めて引き継いだと聞いています。

管理業務を軌道に乗せた後、2000年代からはアパートの建築事業も本格化しました。最初は小規模でしたが、ここ6〜7年で大規模なアパート開発も手掛けるようになり、地域に根ざした総合不動産会社としての基盤を固めています。

95年続く企業として、どのような強みがありますか?

やはり「自分たち自身が資産形成・資産承継を経験してきた」ことが最大の強みです。家業を通じて資産を守り、増やし、次世代へつなぐ――そのプロセスで得たリアルな知見をサービスに反映できるのは、私たちならではの価値だと考えています。

例えば、新たに提供するファミリーオフィス事業では、ただのコンサルティングではなく、自らが感じてきた「親から教わって良かったこと」「逆に教わらずに苦労したこと」までも踏まえ、顧客目線に立った本質的なサポートを提供していきます。

また、Cube Noir(キューブノワール)といった不動産商品もその延長線上にあります。分割しづらい土地でも綺麗に資産承継できる仕組みを提供し、次世代の不動産活用と資産承継の両立を図っています。

事業承継は大きな転換期だったと思います。20代で継がれた当時の心境を教えてください。

正直、怖さよりも「親より大きな会社にする」というワクワク感の方が勝っていました。学生時代から会社にはアルバイトとして関わっていて、課題もたくさん見えていたんです。「ここを変えたらもっと良くなる」「これも改善できる」と感じる部分が多く、むしろチャンスだと思っていました。

そして、信頼できる弟が一緒だったからこそ、安心して飛び込めたというのも大きいです。兄弟で「塚本兄弟の名を轟かせよう」と話し合いながら、一歩ずつ進んできました。

お父様との企業買収を巡るエピソードも印象的です。

あれは社会人2年目で会社に関わっていた頃の話です。父と企業買収の方針を巡って激しく衝突し、最終的に父が退任することになりました。その後、私は正式に事業承継し、弟も大学を中退して加わり、兄弟経営がスタートしました。

父の突然の退任、経営陣の大量離職といった危機もありましたが、残った社員たちの協力と兄弟の連携で乗り越えることができました。

その危機的状況を、どう立て直したのでしょうか。

やはり「残ってくれた社員たちの存在」が一番大きかったです。辞めていく人たちよりも、会社に残り、会社を支えようとしてくれた仲間たちがいたからこそ、早い段階で立て直しに成功できました。

また、自分自身が率先して現場に入り、課題を見つけ、解決策を打ち出し続けることで、次第に社員からの信頼も得られるようになりました。

100年100億プロジェクトの構想について教えてください。

創業100周年に向けて、売上100億円を目指すプロジェクトです。単なる数字目標ではなく、私たちの新たなビジョン「ファミリーオフィス構想」とも密接に結びついています。

これまでのように、お客様から一方的に売上を上げるのではなく、お客様の資産を拡大し、その中で私たちも共に成長する。「顧客利益の最大化」を第一に考え、結果として100億円を実現するというモデルです。

その目標達成に向けた具体的な戦略はありますか?

一番大きいのは「LTV(顧客生涯価値)の最大化」です。短期的な売上だけを追わず、お客様の資産価値そのものを高めていくことが重要です。そのために、ファミリーオフィス型のコンサルティングを軸に、既存事業とシナジーを生み出していきます。

また、社内文化の醸成も欠かせません。お客様に誠実に向き合い、売り込みではなく顧客の利益を追求する営業体制を徹底しています。その象徴が、私たちが「売らないCRM」と呼ぶ独自の営業スタイルです。

新商品開発チーム「INNOVISTA」の取り組みについて教えてください。

INNOVISTAは、各部署から精鋭を集めた横断型のチームです。賃貸仲介、設計、資産活用、マーケティング、不動産管理など多様な視点を融合し、社員アンケートや市場分析を基に新商品を開発しています。

特に「Cube Noir」は、未利用地や変形地といった社会課題を解決する商品として誕生しました。戸建て賃貸という形を採用することで、資産承継や相続の円滑化、応用性やデザイン性の向上も実現しています。

兄弟経営ならではの強みや難しさは感じていますか?

私と弟は性格も得意分野も異なります。私は経営全般、弟はマーケティングや攻めの部分が得意。その補完関係が強みです。プライベートではほとんど会いませんが、仕事においてはお互いを尊重し合い、役割分担ができています。

最後に、後継者の方々へメッセージをお願いします。

とにかく「よく勉強し、よく考える」ことです。事業承継では、言葉だけの宣言では人もお客様もついてきません。自らが知識を磨き、誰よりも経営を理解し、行動で示す。それが信頼を勝ち取る唯一の方法です。

私自身、事業承継の際には知識不足で困った経験が多く、その反省からファミリーオフィス事業も立ち上げました。同じような悩みを抱える後継者の皆さんには、学びと実践を通じて、堂々と次世代の経営を切り拓いてほしいと思います。