MKUコンサルティング / 北島誠士氏
自身の実家の家業倒産という苦い経験を乗り越え、中小企業の持続的な成長と円滑な事業承継を支援するMKUコンサルタントの北島氏。現代社会の目まぐるしい変化の中で、多くの中小企業が多角化、人材育成、資金調達、そして事業承継という普遍的かつ喫緊の課題に直面している。本記事では、北島氏が長年の経験と研究から体系化した「コングロマリット構想」の核心と、その実現を強力に後押しし、オーナーの手元資金を極大化する「エンジェル税制」の戦略的活用法について、深掘りしていきます。
ーー本日はよろしくお願いいたします。北島様が中小企業の経営支援、特にコングロマリット(複合企業体)という考え方に至った背景には、ご自身の原体験が大きく影響していると伺いました。
北島氏:はい、私の原点は2000年12月に実家の工場が倒産した経験にあります。あの時の悔しさ、そして「他の家業には同じ思いをしてほしくない」という強い願いが、中小企業診断士を目指す直接のきっかけになりました。
ーーそれがすべての始まりだったのですね。そこから、どのようにして「コングロマリット構想」へと繋がっていったのでしょうか?
北島氏:商工ファンドのグループ企業でヘルスケア事業部の責任者を務める機会がありました。そこで同社が推進していた「102社構想」というコングロマリット戦略に触れ、初めて経営の奥深さを知ったんです。
当時の大島代表の経営手腕を間近で見て、中小のオーナー企業が事業承継を見据えながら拡大していく姿を具体的にイメージできるようになりました。
その後、リーブ21の岡村代表のもとでも複数の事業会社を兼務させていただき、この二人の偉大なオーナー経営者との仕事を通じて、「どうすればコングロマリットを最も効率的に実現できるのか」を何年も考え続けました。その答えが、今の私の活動の根幹となっています。
ーーなるほど。一方で、世の中には「多産多死」と言いますか、とにかく数多くチャレンジして、その中から成功事業が生まれれば良い、という考え方もあるかと思います。
北島氏:おっしゃる通りです。商工ファンドの大島代表のスタイルは、それに近いかもしれません。多くの事業を手掛けては失敗し、その中から数少ない成功例が巨大なコングロマリットを形成する。それも一つの形です。
しかし、リーブ21のグループでは、開始した事業のクローズ率が非常に少ないという対照的な側面も見られました。私が目指すのは、後者のように、不必要なエネルギーを使わず、より確実に成功へと導くコングロマリットの実現です。
ーーその「確実な成功」のために、北島様はご自身で体系化された「五大原則」があると伺いました。まず、その一つ目から教えていただけますか?
北島氏:最も重要なのが、第一の原則「キラー経営資源を強化し合う事業選択」です。
ーーキラー経営資源、ですか。もう少し具体的にお聞かせください。
北島氏:例えば、かつて商工ファンドグループに「MAG」という不動産賃貸保証会社があり、短期間で上場を果たしました。この成功の裏には、商工ファンド本体が持つ「キラー経営資源」が深く関係していました。当時、商工ファンドは他社が融資しない企業にも資金を貸し出し、絶大な信頼を得ていました。それを可能にしていたのが、圧倒的な「回収能力」と、膨大な顧客データを分析する「与信能力」です。これこそが彼らのキラー経営資源でした。
ーー その強みが、不動産賃貸保証事業にどう繋がったのでしょう?
北島氏:そのまま活用されたのです。不動産賃貸保証を始めると、今度は家賃滞納率や会社の倒産確率といった新たなデータが蓄積されます。このデータは、商工ファンド本体の与信データをさらに強化し、より精度の高い貸し出しを可能にしました。
つまり、新旧の事業が互いのキラー経営資源を強化し合う関係にあった。このように、自社の核となる強みを最大限に活かし、それをさらに強化するような事業を選択すれば、ほぼ間違いなく成功すると私は断言します。
ーーキラー経営資源を特定することは、自社の本質的な強みを見極めることであり、中小企業にとって特に難しい課題だと感じます。経営者が自社のキラー経営資源を見つけ出すための具体的なヒントはありますか?
北島氏:そうですね。まず「お客様がなぜ自社を選んでくれるのか」という問いを深く掘り下げることかなと思います。他社ではなく自社を選ぶ理由、お客様に提供している「特別な価値」は何か。これを突き詰めると、キラー経営資源に直結していることが多い。
そして、その強みが新しい事業分野でどう応用できるか、逆に新しい事業から得られるものが既存の強みをどう強化できるか、という相互作用を考えることが重要だと思っています。
ーー ありがとうございます。では、第二の原則についてはいかがでしょうか。
北島氏:「事業経営者の選定を誤らない」ことです。これは極めて重要な原則です。オーナー経営者は「自分で全部決められるから、ダメならまた変えればいい」と考えがちですが、それは大きな間違い。また、能力がある人にリスクが集中することを恐れたり、好き嫌いや先入観で人選したりするケースが後を絶ちません。
ーー では、北島様が考える「有能な経営者」の定義とは何でしょうか?
北島氏:「基幹事業のキラー経営資源を深く理解し、それを十分に活用し、さらに強化し合える経営を行える人間」、この一点に尽きますね。事業経営者の選択を誤れば、成功はほとんど見込めません。一番目の原則を間違えても有能な経営者なら倒産はしないかもしれませんが、二番目の原則を間違えると確実に失敗します。私は事業を始める前に必ず「星取表」を作成して検討しますが、ここを外すと150%うまくいかない、とまで言い切れます。
ーー具体的に、そうした人物を見極めるには、どのような問いかけが有効でしょうか?
北島氏:例えば候補者に対し、「当社の核(かく)となる強み(キラー経営資源)は何だと考えますか?」「その強みを新しい事業でどのように活かせますか?」「その事業から得られるものは、既存事業のどの部分を強化できますか?」といった質問を投げかけるようにしています。単なる事業計画の優劣だけでなく、既存事業とのシナジー効果や、相互強化の可能性を具体的に語れるか、という点で評価できます。
ーーここまで、事業選択と経営者選定という、コングロマリット構想の根幹について伺いました。次に、それを支える人材や資金についてお聞きします。第三の原則は何でしょうか?
北島氏:「事業数×2の人材育成計画」です。多くの経営者が「そもそも人材がいない」と嘆きます。一人優秀な人材が入ると、そこに依存せざるを得ない体質ができてしまう。そうではなく、優秀な人材が「量産される状態」を作り出す必要があります。
ーー「量産される状態」ですか。そのために、まず何をすべきなのでしょう?
北島氏:まず「10年後に何事業をやりたいか」を決め、「その事業数×2の人材を育てなければいけない」と決めることです。人事システムや育成塾、帝王学を学ばせることよりも、まずこの目標設定が重要です。
ーーなぜ「×2」なのでしょうか?事業の数だけ責任者が必要、というわけではないのですね?
北島氏:これには明確な理由があります。事業会社の社長はオーナーではないため、所有権がありません。そうなると、オーナーの意思を強く推し進めることが難しく、社長自身に過度のストレスがかかってしまう。
そこで、社長と副社長という二人体制にすることで、社長が重要事項を決め、副社長が執行するという役割分担が可能になり、負担が大幅に軽減されます。私の経験上、この体制は非常にうまく機能します。
だから、10年後に10事業を展開したいなら、20人の人材を育成する必要がある、ということです。
ーーなるほど、非常に実践的なお話ありがとうございます。しかし、中小企業では大企業のように研修制度が整っているわけではありません。育成環境はどのように構築すればよいのでしょうか?
北島氏:「知行合一(ちこうごういつ)」の考え方が重要です。私が定義する「正しい知行合一」とは、「お客様から学ぶ姿勢を持った外向きの人間」が、仕事を通じて成長していくことを指します。キラー経営資源がお客様の要求に応えることから生まれるように、お客様に教えてもらう姿勢こそが、企業と人材を正しい方向へ導くのです。
ーーもう一つ、中小企業の人材育成における課題として「チャレンジの階段」というお話もされていますね。
北島氏:その通りです。大企業には、例えば四谷学院の「55段階勉強法」のように、着実に成長できる細かい「チャレンジの階段」があります。
しかし、中小企業では平社員の次にいきなり営業部長、あるいは取締役といったように、階段が大きすぎることが多々ある。
能力のない人間に、いきなり120キロのバーベルを渡すようなものです。潰れるか、取り繕うかしかありません。
結果、会議や報告書ばかりが増え、誰も成長しない。オーナーは「チャンスを与えたのに、うちには誰も育たない」と嘆くケースが非常に多いですね。
ーーその状況を改善し、「量産できる環境」を作るためには、具体的にどのようなステップを踏むべきでしょうか?
北島氏:まず「事業数×2」という目標人数を設定し、その上で「知行合一」、つまり社員がお客様と直接向き合い、課題解決を通じて学べる機会を意識的に作ることです。そして、中小企業なりにスモールステップの「チャレンジの階段」を設定する。
例えば、いきなり部長ではなく、小さなプロジェクトのリーダーを任せる。成功体験を積み重ねさせ、自信をつけさせることで、徐々に大きな責任を任せられるようになります。
ーー続いて、第四の原則、資金調達についてお願いします。
北島氏:「新規事業資金の確保は『キラー経営資源の強化』から」ということです。新規事業は当初、赤字からスタートします。3社、4社と展開するにつれ、オーナー家の資金や銀行借り入れだけでは限界が来ます。
では、どうすべきか。答えは「キラー経営資源を強化し合うような関係になっていれば、既存事業全体のキャッシュが増え出すので、それで賄える状態ができる」ということです。
ーーつまり、外部からの借入に頼るのではなく、グループ内で資金を生み出すサイクルを作るということですね。
北島氏:まさにその通りです。既存事業が新しい事業によってさらに強固になり、収益性が向上することで、全体のキャッシュフローが健全に増大する。この増大分を新規事業の投資に充てることで、内生的に成長を続けることができるわけです。既存事業の「お代わり」とも言える利益を、新規事業の「種銭」として活用する。このサイクルを確立することが鍵となります。
ーーそれでは、五大原則の最後、第五の原則を教えてください。
北島氏:「社員の様々な願望を数字と直結して説明できる会社になること」です。現代は採用が大変な時代です。社員の定着と成長のためには、彼らの願望と会社の経営を結びつける必要があります。
ーー具体的には、どのように説明するのでしょうか?
北島氏:「付加価値労働生産性(付加価値を人数で割ったもの)」と「労働分配率(付加価値に対する労務費の割合)」という二つの指標を使います。
例えば、社員が「忙しすぎるから人を増やしてほしい」と言ってきたら、「人を増やしたいなら、まず一人あたりの付加価値を上げる必要がある」と数字で説明できますよね。「給料を上げてほしい」「休みを増やしてほしい」といった願望も、全く同じロジックで説明できるのです。
ーーなるほど。社員一人ひとりの願望実現が、会社の成長と地続きであることを理解してもらうわけですね。ただ、数字を苦手とする社員も多いと思いますが、効果的に伝えるコツはありますか?
北島氏:まず経営者自身が、この二つの数字を明確に把握し、常に意識することです。そして、それを社員にも分かりやすく説明する努力を惜しまない。「今期、一人あたりの付加価値を100万円アップできれば、皆さんの給与に〇〇円反映できる」といった具体的な目標として提示する。
単に「頑張れ」と言ってもどうしたら良いかわからない場合も多いです。なので、「なぜ頑張るのか」「頑張った結果どうなるのか」を数字で示すことで、社員は納得感を持って仕事に取り組めるように促します。年1回の「経営指針説明会」などで全社員に共有することも非常に有効だと考えています。
ーーここまでは企業の成長戦略について伺ってきました。次に、その先にある事業承継と、その鍵を握る「エンジェル税制」についてお聞きします。なぜ、この制度に着目されたのでしょうか?
北島氏: コングロマリット構想を推進する上で、オーナーの手元資金の極大化は避けて通れません。特に、いざという時のための資金確保は死活問題です。この課題を解決する切り札の一つが「エンジェル税制」*1だと考えています。この制度を知っているだけで、非常に大きなメリットがあります。
しかし、制度は目まぐるしく変わるため、超有名会計事務所ですら間違えるほど、正確な理解が重要です。
ーー具体的に、どのようなメリットがあるのでしょうか?
北島氏: まず「優遇措置A」が極めて有効です。これは、今や年間800万円の課税所得控除が受けられます。
例えば、課税所得2000万円のオーナー社長が、エンジェル税制の認定企業に800万2000円を投資すれば、その年の課税所得は1200万円へと減額されます。10年間で約3050万円、20年続ければ6100万円を超える節税効果が見込めます
ーー事業承継、ですか。
北島氏: はい。オーナー企業では、後継者への株式集中が望ましい一方で、株式以外の承継財産が不足しがちです。「優遇措置A」で得た資金は、その株式以外の承継財産の原資になります。また、後継者自身が使えば、親から株式を買い取るための原資にもなる。暦年贈与の110万円とは桁違いのインパクトがあります。退職金保険と組み合わせれば、さらに効果的です。
ーーまさに「知っているか否か」で大きく差が出る制度ですね。これを最大限に活用するため、経営者はどのような準備をすべきでしょうか?
北島氏: まずオーナー社長自身の課税所得を正確に把握し、将来を見据えた収益計画を立てることです。その上で、いつから、どれくらいの期間、この制度を活用していくのかという長期的な計画を立てる。そして、事業承継を見据えるのであれば、後継者や他の親族への資産移転計画と組み合わせて考えることが非常に効果的です。
ーーエンジェル税制には、さらに強力な「プレシード・シード特例」というものもあると伺いました。
北島氏: その通りです。これは、株価が意図せず高騰してしまい、譲渡益課税で莫大な税金が発生するものの、手元にその資金がない、という絶望的な状況を救う特例です。このプレシード・シード特例を活用すれば、一撃で20億円までの株式譲渡益課税を非課税にできます。
ーー20億円!それは絶大な効果ですね。
北島氏: はい。後継者が親から株式を買い取る際、親に発生する譲渡益にかかる所得税(約20%)が免除されるのは、非常に大きなメリットですよね。事業承継における税金負担を劇的に軽減し、円滑な株式移転を可能にします。
ーーこれほど強力な制度ですと、利用する上での注意点も多そうです。
北島氏: そうですね。なかでも最大の注意点は、制度の要件が非常に複雑であり、かつ変更も頻繁にあるため、常に最新かつ正確な情報を専門家を通じて把握しておくことです。AIツールでさえ間違った情報を出すほどですから、信頼できる税理士や事業承継士との連携が不可欠です。株価が高騰し、将来的な税負担が懸念される段階で、早期に検討を開始することが望ましいのではないでしょうか。
ーー北島様は、こうした専門知識を事業承継士の方々が持つことの重要性も説かれていますね。
北島氏: はい。事業承継士がエンジェル税制に関する正確な知識を理解し、経営者に提案できるようになれば、承継における揉め事を減らし、企業の安定経営に大きく貢献できると信じています。独占業務がない士業にとって、この知識は大きな武器になります。
例えば、プレシード・シード特例で節税できた額の一部を成功報酬として提案すれば、大きなビジネスになるはずです。競争が少なく、M&Aよりも良いビジネスモデルを構築できると期待しています。
ーー最後に、北島様ご自身は、目まぐるしく変わる制度の情報をどのように収集・発信されているのでしょうか?
北島氏: 複数の信頼できる専門家ネットワークからの情報に加え、私自身は『Perplexity』のような検索に特化したAIツールも併用しています。ただし、最終的には公式見解や最新の通達を確認することが不可欠です。そうして得た正確な情報を、私自身が実践で活用し、そのノウハウを小冊子のような形で体系化して発信しています。単なる知識の伝達に留まらず、具体的な提案方法まで提示することで、この専門性を活かしたビジネスが確立されることを願っています。
まとめ
MKUコンサルタントの北島氏が提唱する「コングロマリット構想」は、中小企業が持続的に成長し、変化の激しい時代を乗り越えるための具体的な羅針盤。キラー経営資源を核とした五つの原則は、企業が内側から強くなるための処方箋と言えるのではないでしょうか。
さらに、その成長の過程で避けて通れない事業承継の課題に対しては、「エンジェル税制」という強力なツールを戦略的に活用することで、オーナーの手元資金を最大化し、円滑な承継を実現する道を示していると感じました。
*1中小企業庁|エンジェル税制の仕組み