「事業承継」という言葉から連想されるのは、税理士や公認会計士といったエリート然とした専門家の姿かもしれません。しかし、今回インタビューにお答えいただいた株式会社ALPコンサルティング代表取締役、今野 不二人氏は、そんなステレオタイプを軽々と覆す異色の経歴の持ち主です。

 高校中退、フリーター、そしてトレーラーの運転手。そんな「現場」の世界から、簿記講師、FP講師を経て、コンサルタントへと転身。さらには、自ら2億円もの借金を背負い、医療法人をM&Aで買収・再建するという、ドラマのような実体験をお持ちです。

「教科書通りの承継支援はしない」「自分の型にはめない」と語る今野氏。その独特な支援スタイルの背景には、壮絶な経験から導き出された「人間臭い」哲学がありました。 能登半島地震での被災経験をきっかけに執筆された初の著書『紡遺~紡ぎ遺す~』(東京図書出版)に込められた想いとともに、今野氏の半生とコンサルティングの真髄に迫ります。


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今野氏の経歴についてお伺いしたいのですが、プロフィールにある「トレーラー運転手」という言葉が非常に気になります。

 そうですね、そこが一番食いつきがいいところかもしれません(笑)。 私は高校を中退していまして、その後は当時の言葉でいう「フリーター」をしていました。その流れでトラックの運転手になり、最初は軽トラックから始まって、少しずつ乗る車が大きくなっていき、気がついたら大型トレーラーの運転手になっていたんです。

そこからどのようにして、現在のコンサルタントという職業につながっていくのですか?

 トレーラーやトラックの運転手は今思えば好きでやっていたのですが、この仕事を一生続けることに自分自身は疑問を感じ、資格の専門学校である「大原」に通い始めました。そこで簿記などを学んでいたのですが、たまたまご縁があって「うちで講師をやってみないか?」と声をかけていただいたんです。 それがきっかけで、簿記やFP(ファイナンシャルプランナー)の講師をするようになり、そこから士業やコンサルティングの世界に足を踏み入れることになりました。

運転手から講師へ、という転身もすごいですね。その後、独立された経緯は?

 大原で正社員として働いていたのですが、FPなどを教えているうちに「自分でも実務をやってみたい」「独立したい」という思いが芽生えてきました。 最初は個人事業主として1年半ほど活動し、その後「株式会社ALPコンサルティング」を設立して法人化しました。社名の「ALP」は「Associates of Life Partner」の略で、様々な専門家と協力・協働しながら、お客様にとっての最適解を導き出したいという想いを込めています。


今野氏のキャリアの中でも特に衝撃的なのが、医療法人の買収・再建のご経験です。詳しくお聞かせいただけますか?

 これは私の親族が医師で、彼が勤めていた有床診療所を先代の理事長から買い取るという話が発端でした。 最初は買収交渉のサポート役として入ったのですが、いざ契約という段階になって、親族がその重圧に耐えきれず、二の足を踏んでいました。

 買収には当然、多額の資金が必要です。親族が尻込みしてしまったため、なんと私が個人的に2億円ほどの借金をして、診療所の土地と建物を買い取ることになりました。

 普通のコンサルタントなら「それはリスクが高すぎます」と言って止めるか、手を出さないでしょう。 でも、乗りかかった船というか、私が土地・建物を買い取り、親族には医療法人の出資持分(株式会社でいう株式のようなもの)を買い取ってもらう形で、なんとか承継を成立させました。

 その後、私はその医療法人の理事兼CFO兼事務長として経営にドップリ浸かりました。親族には医療行為に専念してもらいましたが、実印を押したことも通帳を見たこともない状態。つまり、医療以外の経営・財務・人事・対外折衝などは、すべて私が担うことになったのです。

まさに「落下傘」での事業承継ですね。現場でのご苦労はありましたか?

 職員が50名ほどいる組織でしたから、人間関係の調整や組織改革など、やることは山積みでした。 自分自身が借金を背負っているというプレッシャーもありましたし、まさに「当事者」として経営の修羅場をくぐり抜けました。 結果として、3年ほどで売上を伸ばし、経営を軌道に乗せることができました。

その後「理不尽な理由」で辞められたとお聞きしましたが

 はい。経営が良くなった途端、まあ、いろいろありまして(苦笑)。 詳細は伏せますが、簡単に言えば「用済み」のような扱いを受け、理不尽な形で追い出されることになりました。 ただ、個人的に所有していた土地・建物については、最終的にその医療法人に買い取ってもらいました。その際の銀行交渉も、なぜか売り主である私がやるという、不思議な「双方代理」のような状況でしたが(笑)。

まるでドラマのようなお話です。しかし、その壮絶な「当事者経験」こそが、今の今野氏の支援スタイルの土台になっているのですね。

 そうかもしれません。私のように「億単位の借金を背負って経営を立て直した経験」をもつ専門家はあまりいないと思います(笑)。

 事業承継の現場では、後継者が個人保証を入れたり、多額の借入をして株式を買い取ったりする場面が多々あります。その時の後継者のプレッシャーや恐怖心、孤独感を、私は身を持って知っています。 「私も同じように借金をして、経営をしたことがありますよ」と言えることは、他のコンサルタントとの決定的な違いであり、お客様からの信頼につながっていると感じています。


小説家としても活動されている今野氏ですが、2024年の元旦に発生した能登半島地震をきっかけに『脱出記』を執筆されたとか。

 はい。実はあの日、私はたまたま旅行で石川県輪島市にいました。あの瞬間はホテルの7階にいました。激しい揺れに襲われ、目の前で起きている惨状を見て、本気で「死んだ」と思いました。 「死ぬかも」ではなく、「あ、これは死んだな」と。

 幸いにも九死に一生を得ましたが、その極限状態の中で、「自分がこれまで経験してきたこと、伝えたかったことを形にしないまま死ぬのは嫌だ」という強烈な思いが湧き上がってきたのです。 以前から「いつか本を書きたい」という漠然とした思いはありましたが、あの地震がトリガーとなり、一気にスイッチが入りました。

 帰宅後、取り憑かれたようにパソコンに向かい、約24時間で一気に1万字ほど書き上げました。その後、加筆修正を加えて最終的には2万字程度になりました。

そんな今野氏が、昨年(2025年)12月に初の著書『紡遺~紡ぎ遺す~』(東京図書出版)を出版されました。出版後の反響はいかがですか?

 おかげさまで、多くの方から感想をいただいています。中には「今野さんって表現者でもあったんですね」と言ってくださる方もいて、少し調子に乗っています(笑)。 まだ発売から2ヶ月ほどですが、この本をきっかけに新しい仕事の話が生まれたり、久しぶりの方から連絡をいただいたりと、じわじわと波及効果を感じています。 ある信用金庫さんからは、「全支店に配りたい」というありがたいお話もいただいています。

 内容はノウハウ本ではなく、私の実体験をベースにした「小説形式」のビジネス書です。あえて小説にしたのは、事業承継のリアルな現場の空気感や、登場人物たちの感情の揺れ動きを伝えたかったからです。 専門書のような小難しい理論ではなく、「人間ドラマ」として事業承継を感じてもらいたい。そんな想いを込めました。


今野氏のコンサルティングにおける「強み」や「信条」について教えてください。

 私の信条は、「自分の型にはめない」こと、そして徹底的に「聴く」ことです。 多くの専門家やコンサルタントは、経験を積めば積むほど「自分の成功パターン」や「型」が出来上がっていきます。そして、目の前のお客様をその型に当てはめようとしてしまう。 「相続対策ならアパート建築ですね」「事業承継なら株価対策ですね」といった具合に。

 しかし、お客様にとっては、その事業承継や相続は「人生で一度きり」の大事な出来事です。私にとっては100件目の案件かもしれませんが、お客様にとっては「1分の1」の真剣勝負なんです。 だからこそ、私は自分の経験則や型を一旦脇に置いて、まずは徹底的にお客様の話を「聴く」ことから始めます。

「聴く」ことで見えてくるものとは何でしょうか?

 表面的な課題の奥にある、本当の「想い」や「感情」です。 相続の相談を受けていると、じっくり話を聞いているうちに、半分くらいの方が涙を流されるんです。 「実は親父に対してこんな思いがあった」「兄弟間でこんな確執があった」……。そういった感情のしこりや、言葉にできなかった本音が溢れ出してくる。

 教科書的な「節税対策」や「法的手続き」だけでは、こうした感情の問題は解決できません。むしろ、感情を無視してテクニックだけで進めようとすると、後で大きなトラブルになります。 私は、経営(ビジネス)の話だけでなく、家族(ファミリー)や所有(オーナーシップ)の問題まで含めて、全方位から話を聞き、感情のもつれを解きほぐしていくことを大切にしています。

事業承継士という資格をお持ちですが、あえてそれを前面に出さないのも、そうした理由からでしょうか?

 そうかもしれません。実は私は、事業承継士の資格を「取ろうと思って取った」わけではないんです(笑)。 元々、後継者塾の講師をしていたご縁で、「講師をするならこの資格も取っておいてよ」と言われて取得したという経緯がありまして。

 もちろん、事業承継士のカリキュラムで学ぶ「事業承継の全体像」は非常に有益です。税務、法務、経営など多岐にわたる知識を体系的に学べるのは素晴らしいことです。 ただ、資格を持っているからといって、すぐにコンサルティングができるわけではありません。現場では、知識以上に「人間力」や「聴く力」が問われるからです。


今後の展望や、業界に対する提言などはありますか?

 少し過激に聞こえるかもしれませんが、私は「無理やり延命させているゾンビ企業は、市場から退場した方が社会全体のためには良い」と考えています。 日本は中小企業・零細企業が多すぎます。生産性の低い企業が補助金や融資で生き延びている現状は、決して健全とは言えません。

 事業承継支援というと「会社を存続させること」が正義だと思われがちですが、私は「廃業支援」や「M&Aによる売却」も立派な選択肢だと思っています。 無理に息子に継がせて共倒れになるくらいなら、ハッピーリタイアして会社を畳む、あるいは大手企業に売却して従業員の雇用を守る方が、関わる全ての人にとって幸せな場合もあります。

「廃業」や「M&A」も前向きな選択肢として捉えるべきだと。

 そうです。ただ、廃業支援というのは非常に手間がかかりますし、報酬も取りにくいので、積極的にやりたがる専門家は少ないのが現実です。 しかし、手遅れになって倒産や夜逃げのような形になる前に、計画的に会社を閉じる「美しい廃業」をサポートすることも、私たち専門家の重要な役割だと感じています。

 また、今後は「株式の承継(相続・贈与)」ばかりにフォーカスするのではなく、「経営の承継(バトンタッチ後の経営)」にもっと光を当てるべきです。 株を渡して終わりではなく、後継者がその後どうやって会社を成長させていくのか。そこまで伴走できて初めて、真の事業承継支援と言えるのではないでしょうか。


編集後記

「トレーラー運転手」「2億円の借金」「輪島での被災体験」……。 今野氏の語るエピソードはどれも強烈で、一見すると脈絡がないようにも思えます。しかし、その全てが「今野不二人」という唯一無二のコンサルタントを形作る重要なピースとなっていました。 そのキャリアは、まさに波乱万丈。しかし、だからこそ彼の言葉には、教科書にはない「重み」と「温かみ」があります。

「綺麗事だけのコンサルティングはしない」。 泥臭い現場を知り尽くした今野氏だからこそできる、本質的な事業承継支援。悩める経営者や後継者にとって、彼は心強い伴走者となるに違いありません。


株式会社ALPコンサルティング

代表取締役 今野 不二人氏 (事業承継士 / 経営コンサルタント / 小説家)

高校中退後、トレーラー運転手などの職を経て、資格の専門学校「大原」の講師(簿記・FP)に転身。その後、独立し株式会社ALPコンサルティングを設立。 親族が経営する医療法人のM&A・事業承継に際し、個人で多額の借入を行い買収・再建を主導した経験を持つ。その実践的な経験とノウハウを活かし、中小企業の事業承継、M&A、後継者育成などのコンサルティングを行っている。 2025年12月、『紡遺~紡ぎ遺す~』(東京図書出版)を出版。

出版書籍
紡遺~紡ぎ遺す~