和紙の伝統技術から産業用機能紙へ 事業承継と未来への挑戦 |セキネシール工業株式会社の

 埼玉県小川町に本社を構えるセキネシール工業株式会社は、産業用エンジンの密閉材料であるガスケット材料を主力製品として製造・販売する企業です。1946年の創業以来、伝統的な和紙技術をベースに独自の発展を遂げてきました。今回は、三代目代表である関根俊直様に、事業の変遷・強み・事業承継後の取り組みについてお話を伺いました。

目次

セキネシール工業株式会社の事業概要についてお聞かせください。

 当社は、特殊機能紙の製造・販売を行っている会社です。その中でもガスケット材料が主力製品であり、特に産業用エンジンの気密性を高め、オイルやガソリン、冷却水、空気の漏れを防ぐという重要な役割を担っています。
ガスケット材料は、エンジン内部の部品同士の接合部分に挟み込むことで、各種流体の漏れを防ぎ、エンジン性能を最大限に発揮させるために欠かせません。
当社の技術は、こうしたシール材(密閉材)の分野において確固たる評価を得ており、多くの自動車部品メーカーや産業機械メーカーとの取引を行っています。

創業当初から現在までの事業の移り変わりについてお聞かせください。

 当社のルーツは、江戸時代末期に遡ります。私たちの家系は、埼玉県小川町で伝統的な小川手すき和紙を製造していました。

 

しかし、昭和に入り、和紙の需要が減少していく中で、祖父が事業の方向性を見直す必要に迫られました。転機となったのは、当時小川町にあった埼玉県製紙工業試験場との出会いです。この試験場では、新しい工業用材料の研究が進められており、ガスケット材料の開発にも力を入れていました。
祖父はその研究に参加する形で、和紙の技術を応用したガスケット材料の開発に着手しました。当時の日本は戦後復興の真っ只中で、トラックや自動車の需要が急増しており、エンジンの気密性を高めるガスケット材料へのニーズが高まっていました。
この流れを捉え、当社は和紙から工業用機能紙へと転換を果たし、現在の事業へと発展してきました。

御社の強みについて教えてください。

当社の強みは、大きく分けて3つあります。

まずカスタマイズ対応が可能な特殊機能紙の開発力です。当社では、顧客のニーズに応じて「熱に強い紙」「電気を通さない紙」といった特別な機能を付加した紙を開発できます。和紙の製造技術で培われた配合技術が基盤となっており、他社にはない柔軟な対応が可能です。

そして研究開発から生産までの一貫体制があることです。当社では、研究・開発・生産の全てを自社で完結できる体制を整えているため、短期間での試作・改良・量産化が可能です。これにより、顧客のカスタマイズ要望にも迅速に対応できます。

また80年以上の歴史と実績による信頼も強みだと考えております。長年の実績があるため、多くの企業と長期的な取引関係を築いており、その品質と技術力には高い評価をいただいています。

事業承継後、MVVを再策定されたとお見受けしましたがその背景と反響について教えてください。

私が代表に就任した後、MVV(ミッション・ビジョン・バリュー)を再策定しました。
具体的には、「伝統をつむぎ、未来を救う」という新しいミッションを掲げ、和紙の技術を活かしながら、未来に向けた材料開発を進める方針を明確にしました。
また、ビジョンとして「世界に誇れる特殊機能紙メーカー」を掲げ、社員が自社の技術力に誇りを持てる環境を作ることを目指しました。
社員の反応としては、最初は変化に戸惑う部分もありましたが、MVV策定に関与したメンバーが中心となって社内浸透を進め、徐々に組織の一体感が高まってきたと感じています。

 

2020年1月に家業に戻られた背景をお聞かせください。

大学2年の時に祖父が亡くなり、その際に父から「将来、会社を継いでほしい」と言われました。当時は明確なやりたいこともなく、家業の重要性も深くは理解していませんでしたが、祖父の葬儀で多くの人に尊敬されている姿を見て、「自分もこうありたい」と考えるようになりました。
しかし、すぐに家業へ入るのではなく、大手自動車部品メーカーに入社し、業界の知識を学ぶことを選びました。その後、人材系企業で働いた経験を経て、「経営者の人生は楽しそうだ」と感じたことが、最終的に家業へ戻る決断につながりました。

 

・2020年1月に家業に戻られて実施された業務をお伺いしたいです。

 入社当初から営業や採用、社内のIT化の推進、組織内のチームビルディングや1on1の導入など、会社の多方面を手掛けていましたが、一番大きかったのは組織内の風土の変革ではなかったかと思います。

 特に入社直後は、元々当社の売上がどんどん下がっていき、また事業の将来性が感じられなくなっていた時期で、それもあってか社内の人間関係がとても険悪だったんです。みんなが誰のことも信用していない雰囲気があって、それを覆すために対話ができる環境つくりを現在まで進めてきました。

 それに伴って、従来分かれていた営業部門と技術部門を統合するなど、ハード面の改革も進めているという感じですね。

 

・契約社員だった方を5人ほど同時に正社員登用された事について深くお伺いしたいです。

この当時は、同一労働・同一賃金の考え方が話題になっていて、うちの会社でも正社員と契約社員が分かれていたんです。ボーナス体系も違っていて、特に若手の男性社員は契約社員として2年働けば正社員になれる一方、50代後半の女性社員については「今さら正社員にしなくてもいいのでは」という雰囲気が存在していました。

しかし、それって同一労働・同一賃金の考え方と矛盾していますし、会社として「社員の福祉向上を目指す」という経営ビジョンを掲げているのに、その決断をしないのはおかしいと感じました。確かに固定費の増加は厳しいですが、それでも同じ仕事をしているなら年齢や性別に関係なく正社員に抜擢するべきだと思い、採用を決定いたしました。

 

・お父様から事業承継をされた中で思い出深いことはありますか。

そうですね、承継自体にはあまり苦戦することはありませんでした。私が入社する前から、4年後に承継するということを父と二人で決めていたので、その過程で大きな問題は起きず、父からはすごく任せてもらえていたと感じています。

むしろ大変だったのは、社内で改革を進める中での社員との関係でした。一昨年の12月までは父が社長でしたので、私は副社長として父を立てることを意識していました。トップが二人いてはいけませんから、社内からの見られ方も工夫し、父が発信する内容を私が裏で考える、という形を取っていたこともありました。

そのため、自分が主体的に取り組みたいことも代わりに父に語ってもらう必要があり、ニュアンスが微妙に違ったり、決裁権がないことでスムーズに進められないこともありました。ただ今は自分が社長になったので、社員の前でしっかりと自分の考えを表現できるようになり、そこが思い出深くはありますね。

 

今後挑戦していきたい事をお伺いしたいです。

当社では、次の3つの領域に挑戦していきます。

まず、EV(電気自動車)向け材料の開発です。現在、EV市場の拡大に伴い、バッテリーの安全性を高める材料の開発に取り組んでいます。特に火災事故を防ぐための断熱材料の分野に注力しています。

そして将来的には、次世代モビリティや空飛ぶ車などにも使われる材料も開発をしたいなと思っており、展示会などに積極的に出展を進めるなど、市場や顧客のニーズを掴むことにも注力をしております。

最後に地域活性化への貢献です。埼玉県小川町消滅可能性都市に指定されており、地域の産業を盛り上げる必要があります。私たちは「オープンファクトリー(産業観光)」を通じて、地域の魅力を発信し、観光産業との連携を深めていく考えです。

最後に事業承継ラボの読者へメッセージをお願いします。

事業承継は、決して簡単なものではありません。私自身、家業を継ぐまでに多くの葛藤がありましたが、「主体的に生きることの楽しさ」に気づいたことで、経営に対する姿勢が大きく変わりました。
後継者の皆さんには、「まずは多くの経営者に話を聞くこと」をお勧めします。実際に経営者と対話することで、会社の未来や自分の役割を見つめ直すきっかけになると思います。

伝統を大切にしながら、未来を切り拓く。そんな思いを持ちながら、これからも挑戦を続けていきたいと考えています。

事業承継ラボ

日本は大廃業時代に突入するとも言われ、 「事業承継」をいかにうまく行うか。そして、次の世代交代で新たなチャレンジを「IT」と「マーケティング」を活用して実施していく必要がある。 そんな、チャレンジングな強い日本企業の成長を支えて行きたいと考えています。 Facebook URL https://www.facebook.com/jigyoshokeilabo/ Twitter URL https://twitter.com/jigyoshokeilabo