株式には普通株式以外に種類株式という株式が存在します。その一種である黄金株(拒否権付株式)を使うと、事業の承継時における株式の移転タイミングと、経営権の委譲タイミングのずれといった課題をスムーズに解決できるのです。
正式には、「拒否権規定(8号)」として定められた種類株式を黄金株と呼ばれます。黄金株がどのように事業承継に関わってくるのか理解しておくと、事業承継をスムーズにすすめられるでしょう。
10分程度で読み終わるので、ぜひお付き合いください。

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事業承継と黄金株

事業承継を行う際に黄金株を利用すれば、「後継者へ株式を委譲するタイミング」と「経営を任せるタイミング」のズレを緩和できます。
どのようなケースで利用すると効果的なのか、具体的に見ていきましょう。

事業承継で黄金株が役立つケースとは?

事業承継時に黄金株を活用するのは、後継者へ株式を移転するタイミングと経営権の委譲のタイミングが合わないケースです。
所得税や贈与税を考慮すると、非上場の中小企業が事業承継に取り組むのは株式評価が低いタイミングのほうが好ましいと言えます。
しかし、後継者の経験が足りず、その時点で経営権を移転するにはまだ早いケースも考えられるでしょう。
このような状況では、先代が黄金株のみを所有し、残りの普通株式を後継者へ譲渡・贈与するのがおすすめです。

株式移転に関する納税額を抑えつつ、後継者の誤った経営判断に対して抑止力を効かせることが可能となるでしょう。
事業承継時の課題解決にもつながるので、黄金株は事業承継において重要な要素になるのです。

黄金株は企業を守るためにも利用できる

黄金株は普通株式に比べて権利の強い株ですが、相続評価額は普通株式と同一となります。
黄金株は事業承継時に活用されるだけでなく、敵対的買収から自社を守るためにも利用できる株式です。
敵対的買収で自社株式のほとんどを買収されてしまうと、株主総会で吸収合併の決議が通ってしまいます。
しかし、敵対的買収の前に拒否権付株式が発行されていれば、吸収合併を拒否し、敵対的買収を阻止することが可能になるのです。

黄金株の注意点

この様に事業承継時に有効な黄金株ですが、注意が必要な点もあります。
それは、黄金株を所有している先代が亡くなった場合に、会社にとって不利益な株主の手に黄金株が渡ってしまう点です。

このような危機的状況を回避するためには、黄金株を発行する時点で、黄金株の株主が死亡した場合は会社が黄金株を取得できることを規定した「取得条項付株式」としておくことが大切です。

また、将来的に上場を考えている場合には、黄金株の発行には慎重になるべきです。

黄金株は、1株で拒否権を発動できる強い株ですので、他の一般株主の決定権が弱くなってしまう為、株式市場ではマイナス評価となってしまうからです。

まとめ

事業承継と黄金株の活用法について、以下にまとめます。

〇株式には普通株式以外に種類株式があり、その中で拒否権規定(8号)として定められた種類株式を黄金株と呼ぶ。
〇黄金株は、事業承継時に後継者への株式移転と経営権の移転のタイミングが合わないようなケースで活用される。
〇黄金株は、敵対的買収などによる吸収合併を阻止して会社を守ることができる株式。
〇先代が黄金株を残して普通株式のすべてを後継者へ譲渡・贈与すれば株式移転に関する納税額を抑えられる
◯後継者の誤った経営判断に対する抑止力を働かせられるので、事業承継時の課題解決が容易になる。
〇黄金株は、普通株式に比べて権利の強い株ですが、相続評価額は普通株式と同一。
〇黄金株の所有者が死亡した後に黄金株が企業へ戻ってくるような「取得条項付株式」として発行しているとリスク管理につながる。

黄金株は非常に強力な株式なので、その利点と欠点をしっかり理解して活用することで、事業承継を円滑に進められるでしょう。