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長男が継ぐのが当たり前だった? 事業承継を取り巻く状況はどう変わってきたのか

長男が継ぐのが当たり前だった? 事業承継を取り巻く状況はどう変わってきたのか

かつて「家業は長男が継ぐのが当たり前」というイメージがあった事業承継。現在は外部人材の招へいやM&Aなど、さまざまな選択肢が生まれていますが、その背景には後継者不足の問題が存在するのです。

子どもが親の事業を「継ぐ」か「継がない」か、その意識が変化したターニングポイントはどこにあったのでしょうか。
事業承継の考え方がどのように変化してきたのか。
そして、これからの事業承継にどのように向き合うべきか。

『同族企業はなぜ3代で潰れるのか?』(インプレス)の著者であり、日本ファミリービジネスアドバイザー協会(FBAA)理事である武井一喜(たけい かずよし)さんに話を聞きました。

■血筋を重視する「ウジ社会」から、強い共同体を作る「イエ社会」へ

――事業承継の歴史をさかのぼると、「親の事業を継ぐ」という考え方は、かつての「権威を継ぐ」「政権を継ぐ」が元にあったのではと思います。親子間の継承は、歴史と共にどのように変化してきたのでしょうか。

一言で表現するなら、血族を重視した集団から、共同体を重視した集団へと変化してきたと言えます。
『文明としてのイエ社会』(著・村上 泰亮、公文 俊平/中央公論新社)の表現にならい、前者を「ウジ社会」、後者を「イエ社会」と呼びます。

――「ウジ社会」から「イエ社会」へ、どんな変化があったのでしょうか。

まず「ウジ社会」とは、血統を重視した集団です。
古代日本では、豪族による統治や天皇による国家形成に至るまで、血縁関係でつながった「ウジ社会」を中心としていました。

やがて、武士が力を持ち始め、血筋に関係なく優秀な人材を養子縁組で取り込み、集団を大きくしていきます。これが「イエ社会」です。

――血筋と関係ない人材を迎えながらも、養子縁組で「家族」にはなるわけですね。

そうですね。ウジ社会側から見ても文句が出ないように養子縁組での体裁を整え、親子であると宣言していました。
鎌倉時代から江戸時代にかけてイエ社会は発展していき、ウジ社会は解体され徐々に衰退していきます。

<キャプション>『文明としてのイエ社会』(著・村上 泰亮、公文 俊平/中央公論新社)より武井さん作成の図を加工・再編

――優秀な人材を養子縁組で取り込む以外に、イエ社会にはどんな特徴があったのでしょうか。

イエ社会は家督をトップに、庶子、家子、郎従、下人と層が広がっていくヒエラルキー構造をとっていました。これは、農耕や軍事に対して強い共同体を作るための構造です。
「イエ」という名のファミリーをベースに組織を形成する、まさにファミリービジネスの原形といえるでしょう。

一方で、意志決定の場ではトップダウンで全てを決めるのではなく、上下の各階級内でさまざまな根回しがされたうえで「満場一致」で決めていたといいます。

――あくまで、「集団」の意見として、意志決定をまとめていたんですね。

江戸時代後期になると、武家の慣習とされていたイエ社会型の組織は、農家や商人のあいだにも広まっていきました。いわゆる「村の首長」であった庄屋さんが代々家督を継ぐ、のもこの流れですね。
ファミリーとビジネスの境目はなく、家長やその親族と、働き手である奉公人が暮らしを共にしていました。

――江戸から明治へ時代が変わると、イエの形も変わったのでしょうか。

明治維新が起こると、廃藩置県や四民平等によって大名や家臣たちのイエが解体されます。

代わりに、これまで慣習で続いていたイエ社会が、明治民法によって「家」として明確に法制化されました。
つまり、すべての世帯で小規模なイエ社会を作るようになったのです。
そこで、イエのトップである家長は、全ての財産に責任を持つなどより強い力を持つようになりました。

■明治以降、「ビジネス」と「ファミリー」が離れていく

――「イエ」が世帯単位まで小さくなったということは、農家や商人などのファミリービジネスもイエ単位で継承されていったということでしょうか。

いえ、ここから大きな変化が起こります。明治以降、日本が近代化していくなかで、イエの中から「ビジネス」と「ファミリー」が分かれていったんです。

<キャプション>『家の論理』(著・三戸公/文真堂)より武井さん作成の図を加工・再編

これまで、農家は自宅のすぐそばに土地があり、工業は作業場と自宅を兼ねていることがほとんどでした。
つまり、「生産の場」と「消費の場」が、地理的にも心理的にもセットになっていたのです。

ところが、都市化が進むことで、新たに工場を建てたり、住み良い場所に引っ越したりといったことが起こります。

――「生産の場」と「消費の場」が、物理的に離れていったわけですね。

同時に、心理的な距離も離れていきます。職場と住環境が離れたことで、家族総出で商売にあたることはなくなり、妻が仕事を把握することも、子が働く父の背中を見て育つ機会も減ってしまった。

さらに戦後、財閥解体がおこり、新たな民法で「イエ」(家督制度)が廃止されます。家長の力がどんどん弱くなっていくわけです。

――生活の場からビジネスがなくなっていき、家長も力を失っていく……。そうなると、子どもは「親の事業を継ぎたい」とは考えにくくなりますね。

その通りです。これはあくまで私の仮説ですが、家長の力が弱まったのは、第2次世界大戦も影響しているのではと考えています。
戦前のイエ社会で強い力を持っていた家長が、戦争経験で心に傷を負い、価値観が大きく変わってしまった。それが子どもの育て方にも表れているのではないかと。

――その世代の子どもが、いわゆる「団塊の世代」ですよね。

そうですね。戦争を経験した親世代が、子どもに対して頭ごなしに言い聞かせるのではなく、「子どもに生き方を押しつけてはいけない」「好きな道に進んでほしい」と教えるようになった。
戦前の強い「親父」像を排除するようになったのです。その教育方針は団塊の世代にも受け継がれ、さらにその子どもである団塊ジュニアも「家業を継がずに好きな道に進む」という選択肢を選ぶようになったのではと考えています。

■「家長=社長」とは限らない。「オーナー」という考え方

――家督を継ぐのが当たり前だった世代から、家督に縛られない世代に移り変わっているわけですね。いま、中小企業で後継者不足が叫ばれているのも、そうした背景からでしょうか。

原因の一つだとは思います。中小企業庁が毎年発行する『中小企業白書』によると、ファミリービジネスで親族内承継を選ぶ割合は2004年ごろに50%を切っています。その代わりに、親族以外の役員や従業員に事業承継する内部昇格、社外から後継者を招いて経営者とする外部招へいが増えている。また後継者不足に伴い、よそのファミリービジネスが後継者のいない事業を買い取るM&Aも見られます。

<キャプション>2014年度 中小企業白書 より

ただ、ここで注意したいのは「親族内承継ができない=ファミリービジネスの終了」ではないことです。

欧米では、社長とオーナーを切り離して考えることが多いんですね。
内部昇格や外部招へいで社長を招き、オーナー家がしっかり監督する。経営の業績によってはオーナーが社長をすげ替えることもあるでしょう。内部昇格や外部招へいで事業承継をしても、オーナーが監督する限りファミリービジネスは存続するんです。

――その点、日本では家長=社長と考えがちですね。

そうですね。日本は婿養子が後継者となるケースも多々ありますので、なおさら家長と社長を一緒に考えてしまうのだと思います。外部から社長を招いても、親族として取り込むわけですから。

――優秀な人材を親族として取り込むのは、まさに「イエ」の考え方です。

逆に欧米のオーナー家は血筋を重視しているので、ウジ社会的とも言えます。
親族内承継が減っている日本としては、欧米のオーナー家の考え方やあり方をもっと学んでもいいのではと思いますね。

■家督以前と以後で異なる「生涯現役」のその後

――後継者不足と並行して、中小企業の事業承継が進まない理由に「経営者の高齢化」があると思います。現役社長がなかなかバトンを渡さない、という事例もありますが、家督の力が強い時代でもこうしたことは起きていたのでしょうか。

なかには「俺は生涯現役」と考えていた人もいると思います。しかし家督という考え方があるからこそ、ちゃんと次の世代に引き継がねばならないという責任感もあったはずです。

――代々続いた家業を自分の代でつぶすわけにはいかない、と。

家督制度が生きていた時代に比べ、引継ぎへの意識が希薄になっているのも、事業承継が進まない一つの原因ではないでしょうか。
いかに次世代につなげてもらうかは、事業承継の支援者の重要なテーマでもありますね。

――現役社長が「まだまだ若い者には負けない」と頑張り続けた結果、次の世代が定年になってしまうのも、よくあるケースです。

事業承継は、先代社長本人の成長のためでもあるんです。アメリカの発達心理学者であるエリック・エリクソンは、人間が生まれてから死ぬまでの心の発達を8つの段階に分け、40代~50代を「ジェネラティビティ(Generativity)=次の世代に渡す時期」と位置づけています。

つまり、しかるべき時期に次世代へバトンを渡すことは、本人の心の成長につながるとのだと。
後継者を育て、見守ることで、人生がさらに前に進むとも考えられるのではないでしょうか。

<キャプション>日本政策金融公庫総合研究所「中小企業の事業承継に関するインターネット調査」より(2016年2月)

■200年以上続く企業に共通する「組織原則」とは

――いっぽうで、日本は「老舗大国」とも呼ばれ、200年以上続く企業が世界一多いというデータもあります。後継者不足に悩む企業と老舗企業の違いはどこにあるのでしょうか。

長く続く老舗企業のオーナー家は、明確な組織原則を持っています。
組織のあり方をしっかり受け継ぐことで、時代を超えてもブレずに事業を続けることができるわけです。かつての「家長」の役割を、ファミリーの組織原則が果たしているといえるでしょう。

――具体的にはどのような組織原則が伝わっているのでしょうか。

もちろん企業によってまちまちなのですが、多くの長寿老舗企業のオーナーファミリーに共通しているのは「年中行事や儀式」を大切にしていること。
例えば、あるファミリーは「一年間でこういう祭をやりなさい」と全ての手はずが決まっているそうです。宴席に出す料理や席順などが巻物に記されており、毎年忠実に行うのだとか。年中行事を欠かさないことで、それが教えとなって代々伝わるようですね。

――これはビジネスに直結するというより、ファミリーの間の結束を深めることに意味がありそうです。

そうですね。ファミリービジネスはロジックだけでなく、ファミリーの心との両輪で回さねば長続きしませんから。

――事業承継においても、「長男が継ぐべき」「外から迎えるべき」などファミリー内で気持ちが揃っていないと、うまく回らないということでしょうか。

その通りですね。家督が絶対と考えられていた時代から、今では外部招へいやM&Aなどさまざまな選択肢が存在します。家族会議で10年20年先の話ができて、ファミリーとして一つの答えを導けるのが理想です。

――組織原則によってファミリーの結束を深めることが、こうした場面で活きてくるわけですね。

ただ事業承継は、長い目で見れば一時的なものでしかありません。事業承継は単なる「イベント」ではなく、事業が何世代も続く途中にある「プロセス」と考えるべきです。

事業承継を経て末永く事業が栄えるには、普段からファミリーの関係を密にしていかねばならない。
そのお手伝いをすることも事業承継を支援する者の役割だと考えています。

取材先:武井一喜(たけい かずよし)

日本人初のFFI(Family Firm Institute:米国)ファミリービジネス・アドバイザー上級資格認定証保持者、FFIフェロー。FBAA(一般社団法人日本ファミリービジネスアドバイザー協会)理事。慶応義塾大学経済学部卒。コロンビア大学ビジネススクール経営学修士(MBA)。経済産業省「地域経済におけるファミリービジネスに関する研究会」委員(平成21年度)。
キャラクター商品メーカーを経て家業の寝具製造卸会社に勤務。基幹業務システム設計導入、リストラプラン策定実施、新規事業立ち上げの後、4代目社長。その後IT関連の起業に参加。’03年WellSpring設立。ファミリービジネスを対象にコンサルティング・研修・執筆活動を行っている。
著書に『同族経営はなぜ3代で潰れるのか? ファミリービジネス経営論』。
▼ファミリービジネスコンサルティング
http://www.family-business.jp/

ライター:井上マサキ

1975年 宮城県石巻市生まれ。神奈川県在住。二児の父。大学卒業後、大手SIerにてシステムエンジニアとして勤務。ブログ執筆などを経て、2015年よりフリーランスのライターに。企業広報やWebメディアなどで執筆するかたわら、「路線図マニア」としてイベント登壇やメディア出演など精力的に活動。

図版:藤田倫央
撮影:小野奈那子
企画・編集:鬼頭佳代(ノオト)

事業承継ラボではインタビュー記事以外にも、事業承継に役立つ記事を複数記載しています。
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