また、M&A(合併・買収)についても大きな制限があるので注意が必要です。この記事では、特例有限会社特有の事情を解説しながら事業継承のポイントをまとめていきます。
なお、とくに明示する必要がない場合は特例有限会社を有限会社と表記しながら、解説していきましょう。
10分ほどで読み終わるので、ぜひ参考にしてみてください。
有限会社の株式と事業継承
まずは有限会社の株式の特徴と、株式による事業継承について解説します。
有限会社の株式は譲渡に承認が必要
会社法の施行によりかつての有限会社は廃止され、整備法(「会社法の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律」)に基づき特例有限会社として存続することになりました。
整備法では特例有限会社の株式について次のように定められています。
- 譲渡の際に会社による承認が必要
- ただし株主間で譲渡する場合は承認は不要
この2つの定めは「法律によって定款に書き込まれているもの」です。
これらに矛盾した事項を定款に記載することはできません。
誰が譲渡を承認するか?
会社法によると、「会社による承認=株主総会の決議(取締役会設置会社の場合は取締役会の決議)」が基本です。
しかし、定款で定めておけばそれ以外の機関を承認の決定者(承認機関)とすることもできます(例えば「代表取締役」など)。
ただし特例有限会社の場合は少々特別な事情があるので、注意が必要です。
まず、特例有限会社では取締役会が設置できませんので、株主総会が承認機関となるのが基本です。
また、特例有限会社の定款は有限会社時代の定款を引き継いで成立していますので、株主総会以外を承認機関とするには定款の「変更」が必要となります。
そして整備法によって自動的に株主総会が承認機関とされましたので、それ以外とするには定款の変更が必要なのです。
また、定款の変更は株主総会の「特別決議」によらなければなりませんが、特例有限会社では一般の株式会社と比べて可決の条件がやや厳しくなっています。
株式を通した事業継承のポイント
もともと有限会社という形態は小規模経営で持分の譲渡を予定していないタイプの会社を想定しており、特例有限会社となってもその特質は受け継がれています。
有限会社の株式は「譲渡」については制限がありますが、「相続・贈与」によって取得することにはとくに制限はなく、会社による承認は不要です。相続・贈与によって親族へ継承するのが一番スムーズな事業承継の方法と言えます。
また、外部への譲渡が制限される一方で株主間の株式譲渡は自由です。
この特徴には有限会社の「閉鎖性」が現れています。
すでに株主となっている後継者(例えば役員・従業員)に現社長の株式を譲渡して事業を継承するのも、法律上の制約を受けにくい事業承継方法としておすすめです。
相続・贈与では株式が親族内で分割されてしまいがちですが、これには注意が必要です。
株式が分散すれば株主総会の招集請求や議決の権利が分散することになり、経営の機動性・安定性を損ないかねません。
主要株主となった親族間で争いが起きれば企業の経営にも重大な危機をもたらします。
株主間譲渡が争いに油を注ぐ可能性もあるので、相続や贈与を行う際には話し合いを重ねて相続人の同意を得ておく必要があるでしょう。
株式の相続・贈与・譲渡によって事業継承を行う際には、継承後の経営を視野に入れなるべく一人の後継者に株式を集中させるのが賢明です。
2008年に施行された経営承継円滑化法では民法の特例や金融支援を設けることでこれをサポートしています。
有限会社をM&Aで継承するには?
ここからは、M&Aによって社外の第三者に事業を引き継ぐ方法を解説します。
株式譲渡による事業継承
株式を利用したM&Aにはさまざまな方法がありますが、有限会社で許されているのは株式譲渡で自社が「消滅」する場合だけです。
吸収合併で買い手となる企業を「存続会社」、売り手となり解散する企業を「消滅会社」と言いますが、有限会社は後者にしかなれません。ただし、現会社の子会社(株式会社)を設け、この子会社が他社を吸収して存続会社となるという方法(三角合併)などは存在します。
また、有限会社では株式交換によって他社を子会社としたり他社の子会社として存続したりすることも許されていません。
したがって、特例有限会社を株式譲渡によって社外の第三者へ継承するには、まずは一般の株式会社へ移行する必要があります。
有限会社のままで社外の第三者に引き継ぐ方法としては、次に解説する事業譲渡があります。
事業譲渡による事業継承
事業譲渡で譲渡の対象となるのは、事業を成り立たせている有形・無形の財産の集合です。
商品・社屋・設備などの有形財産から、取引先・のれん(企業のブランド力や信用の高さなど)といった無形財産まで含まれます。
事業全体を譲渡することで、有限会社のままで事業継承を行えるでしょう。
中小企業で親族内・社内に後継者が得られない場合に、事業譲渡による継承がよく行われています。
事業譲渡による継承のデメリットとしては、手続きの煩雑さがあります。
事業譲渡で必要となる手順をざっくりと解説すると、
- 2社間での譲渡交渉
- それぞれの会社での決議
- 2社間の合意締結
- 継承した事業の取引契約や雇用契約の結び直し
- 不動産の移転登記
- 特許権の移転登録
これらの手続きを個別に執り行う必要があるのです。
専門知識やノウハウが求められるので、自社内だけでこれらを完遂するにはハードルが高いケースも散見されます。
そのため、M&Aの専門家や事業承継のプロに依頼する方も少なくありません。
まとめ
特例有限会社は株式会社の一種ですが、かつての有限会社の特質を引き継いでおり、親族内など「内輪」での継承に適した法律設計になっています。
そのため、親族内継承を行う際には経営と相続の問題が絡まってくることも多いので注意が必要です。
トラブルをさけるために、経営承継円滑化法による支援を申請してみるのもよいでしょう。
有限会社のままで外部へ事業継承するには事業譲渡を利用することになります。
この場合、財産の価格算定や譲渡条件の調整、事業・契約の引き継ぎ、資金融資などに関して、専門家の助けが必要になると思われます。
いずれの場合も、民間の士業事務所や全国の自治体に設置された事業引継ぎ支援センターなどに相談してみるとよいでしょう。