この記事では、
「後継者への経営のバトンタッチを考えているけれど、借入金や個人保証を引き継いでくれるか不安…。」
「個人事業主が親族を後継者として事業承継した場合、借入金はどうなる?事前に行っておくべき対策方法は?」
といった悩みにお答えしています。事業承継を検討している経営者の方にとって、気になるのは事業の借入金がご自身の引退後にどうなるのか、といった点でしょう。後継者にとっても、事業を引き継ぐことによってどのようなリスクを負うことになるのかは重大な関心事であることに間違いはありません。この記事では、事業承継によって借入金がどのように扱われるのかについて解説すると共に、できるだけ早いタイミングで行っておくべき対策方法について解説いたします。

事業承継で借入金はどうなるのか

結論から言うと、現在の経営者に事業とひもづいている借入金がある場合、後継者もその借入金を引き継ぐ必要があります。法人企業として運営されている企業を引き継ぐ場合には、当然ながら借入金はその企業の名義となっていますから、後継者となる人もその借入金の負担を引き受けることになります。

一方で、個人事業として運営されてきた事業を引き継ぐ場合には、借入金の名義は現在の経営者個人となっているでしょう。そのため、個人事業の後継者については借入金の負担を引き継ぐ必要はありません。

後継者が借入金を引き継がざるを得ない状況とは

事業者の借入金というものは、事業の資金繰りと密接な関係にあります。企業は永続して利益を生み出し続けていく必要があるので、一度借入金を返済したからといって、もう借入金を作らなくても良い、というわけにはいきません。

例えば、現在3000万円の借入金があるという場合、毎年300万円ずつ返済を行い、5年間かけて返済額が半分ぐらい(1500万円)になったところで、また1500万円を借りて手元資金を維持する…といったような形をとることも多くあります。しかし、事業承継によって経営者の交代があった場合には、従来であれば問題なく通っていた融資審査が通らなくなると言ったことも現実に起こり得ます。

その場合、後継者は引き継いだ事業の経営ができなくなってしまいますから、後継者となる人が個人資産を担保に入れたり、経営者保証を行ったりというかたちで、実質的に借入金の負担を引き継ぐことになるのが一般的なのです。

金融機関は、さまざまな方法を用いて新経営者個人の担保能力を引き出そうとしてきます(つまり、新経営者個人名義で借入金の保証をさせようとしてきます)。当然ながら、以前の経営者と新経営者とでは金融機関に対する返済実績が全く異なりますから、信用力に大きな差があるでしょう。そのため、借入れのための条件が前経営者の時よりも厳しくなる可能性があることも理解しておく必要があります。

事業承継にあたってどのような借入金対策をしておくべきか

このような事情から、事業承継においては、単純に「現状そのままの事業を引き継げる」という考え方は適切ではありません。簡単に言えば、後継者となる人は「現状よりも厳しい財務状況の企業を引き継ぐことになる」という認識と準備が必要ということです。

それでは、後継者となる人は、事業承継にあたってどのような準備をしておくべきでしょうか。具体的には、以下のような方策を可能な限り早いタイミングで準備しておくのが良いでしょう。

  1. 後継者の個人資産を蓄積させておく
  2. 法人向けの生命保険に加入しておく

それぞれの対策方法について、順番に解説いたします。

後継者の個人資産を蓄積させておく

中小企業経営においては、経営者個人と経営する事業とは実質的に一体の関係となるのが一般的です。ごく簡単に言えば、事業の状況が苦しい時には経営者のポケットマネーを支出して補填するといった状況が生じることを、常に想定しておく必要があります。

事業承継を行うにあたっては、後継者となる人にこうした事業経営の実態について理解しておいてもらうと共に、いざという時のための個人資産を持たせておくことが大切です。具体的には、後継者となる人を事業内の重要なポスト(役員等)に就任させて経験を積ませると共に、役員報酬の増額等を通して個人資産が積み上がるようにしておくのが適切です。

法人向けの生命保険に加入しておく

経営者個人がお金の準備をしておく方法として、生命保険を使った対策も検討する価値があります。具体的には、現在の経営者を被保険者、受取人を法人とする生命保険に加入しておくことが考えられるでしょう。

経営者に病気や死亡といった事態が生じたときには、多額の保険金を受け取ることができますし、保険加入期間が一定期間を超えれば返戻金を受け取ることもできます。生命保険への加入というと身構えてしまう方が多いかもしれませんが、中小企業の事業承継資金への対策として、生命保険は優れた方法であることは理解しておいて損はないでしょう。

まとめ

今回は、近い将来に後継者に事業承継を行うことを検討している方向けに、事業のために借りたお金がどのような扱いになるのかについて解説いたしました。事業承継の後継者になる人にとって、自分自身の名義で借入金や個人保証を引き継ぐことは大変なリスクと言えます。

円滑な事業承継を実現するためにも、借入金の法律上の扱いについては事前によく理解しておいてもらう必要があるでしょう。これから事業承継の手続きを進めていく予定の方は、ぜひ参考にしてみてください。