日本は数多くの老舗企業を抱える「長寿企業大国」でもあります。
しかし、その反面で中小企業や零細企業、個人事業主の多くが倒産、廃業に追い込まれている実情もあり、会社を精算するタイミングに悩んでいる経営者の方も少なくありません。
この記事では、会社を精算するタイミングとして適しているのはいつなのか、という点について、過去の事例を交えて詳しく解説していきます。
また、事業承継という手段を取ることでどのようなメリットがあるのか紹介するので、会社の精算を検討している方はぜひ参考にしてみてください。

会社を精算するタイミングは?

会社を精算するタイミングはいつなのでしょう。
一般的に会社をたたむ、廃業する、という手段を選ぶのは、次のような状況に陥ったときです。

  • 資金繰りが苦しい
  • 業績悪化が止まらない
  • 後継者不足・経営者の引退

それぞれのタイミングを細分化して、詳しくみていきましょう。

資金繰りが苦しくなったタイミングでの精算

会社は利益と損失を生み出し続けていく組織ですが、利益が上がらなければ、とうぜん存続していくことはできません。一時的に赤字が続くことはよくあることですが、金融機関や投資家から資金を調達すれば、急場をしのぎ、業績を回復させて企業を存続させることは可能です。

ただ、こういった状況が長期化してしまうと、何らかの経営革新を行わない限り、V字回復を遂げることは難しくなっていきます。

また、利益が上がらなければ資金が枯渇してしまうので、事業を拡大することはおろか、現状を維持することも難しくなってしまうのです。こういった状況下にある場合は、傷が浅いうちに会社を精算してしまったほうがよいケースもあります。融資が受けられなくなってしまうと現状維持すらままならなくなりますが、融資を受けた後に返済の目処が立たずに会社を精算すると、債務超過で会社をたたむことになるので「特別清算」の手続きを踏まなければならない可能性も出てくるでしょう。

特別精算では、経営陣が資金や資産を持ち寄って負債を返済しなければならなくなるので、事業存続の目処が立たなくなったら、闇雲に融資を受けるよりも早めに会社を精算する決意をしたほうが賢明です。

業績の悪化が止められない

資金繰りが苦しい、とまではいかなくとも、業績の悪化が止まらないので会社の精算を検討している、というケースもありうるでしょう。
業績悪化を理由に会社の精算を考えている場合は、まず「なぜ業績が悪化しているのか」をリサーチすることから始めます。自社が原因なのか、外部の環境が原因なのかを判明させないまま諦めてしまうのは早計です。

例えば、業績悪化の原因が売上減だとしたら、何らかの理由でニーズが別の場所へ移ったか、自社のクオリティ・価格が顧客の満足に繋がらなくなったと考えるのが妥当です。原因を突き止めたら、再度ニーズに応えられるように戦略を練り直す必要があります。また、コスト増によって利益が減少したのであれば、売価のアップか原価のダウンを検討します。他にも、自社内でコストカットできる部分がないか精査する必要があるでしょう。

このように、業績不振の理由が分かれば戦略を立てて戦うことができます。どうしても業績が回復する目処が立たない、という場合は早めに会社の精算に移るべきですが、その前に打てる手はなるべく打つようにして、様子を見てみましょう。

後継者不足によって事業の継続が困難

業績もよく、資金繰りも正常に行えている企業が黒字のまま倒産、廃業を決断する「黒字倒産・黒字廃業」が増加していますが、その原因は、深刻な後継者不足にあります。
少子高齢化の煽りを受けて、中小企業の経営者の年齢は上昇し続けており、それにともなって引退のタイミングもどんどん後退し続けているのが現状です。

年齢を重ねるほど、身体的にも、精神的にも経営を続けるのが難しくなっていきます。しかし、少子化によって後継者探しは難しくなっているため「事業を引き継ぎたくても引き継げない」という悩みを抱えている経営者も少なくありません。また、「そもそも引き継ぐつもりはない」と考えている中小企業の経営者も多く、社会的な背景や経営者の意識が事業承継が進まない理由の一端を担っています。

黒字が続いているということは、社会から求められている産業、サービスであるということ。後継者不足を理由に会社を精算してしまうのはあまりにもったいないことです。精算して残った資産や現金を獲得するのもよいですが、事業承継やM&Aを成功させることで、精算よりも大きなメリットを享受できる可能性があります。

会社の精算を行った事例から精算のタイミングと手順を学ぶ

中小会社の精算は頻繁に起こっていますが、大きなニュースになることはあまり多くありません。そのため、会社を精算するタイミングをつかみにくく、決断を迷ってしまう方もいらっしゃるでしょう。

ここからは、実際に会社を精算した事例を読み解きながら、精算に踏み切るタイミングを分析していきます。

東海紙工株式会社の精算・解散事例

東海紙工株式会社の精算・解散事例をもとにしながら、会社の精算について見ていきましょう。

まず、日清紡株式会社が平成2年にM&Aによって買収し小会社化したのが「東海紙工株式会社」です。東海紙工株式会社は、高付加価値ナプキンを主力商品として扱っており、海外への輸出用に買収を行いました。しかし、思うような業績が出ず、平成12年からは赤字の決算が常態化する事態に。

すぐさま精算するのではなく、他の用途に転用できないかと検討してみましたが、扱っている商材がニッチな分野であることも手伝って、転用は難しいと判断されました。その結果、平成19年に会社の精算を行うことを決断。

生じた損失については親会社である日清紡株式会社の支出で賄われているので、このあたりは中小企業の解散とは少し勝手が異なります。

注目すべきは、直近の業績報告についてです。

平成16年の時点で当期純損失が900万円生じており、翌年の平成17年には黒字転換を果たしていますが、それでも300万円しか黒字が計上できていません。さらに翌年の平成18年に至っては2100万円の純損失を計上してしまっており、業績を回復させるのが難しいことが見て取れます。
売上そのものも縮小傾向にあるため、コストカットで利益を生み出したとしてもジリ貧になってしまうことに変わりはありません。

こういった状況では、早めに会社の精算を行わなければ損失がどんどん膨らんでいってしまいます。早めのロスカットが重要と言えるでしょう。

しかし、損失が続いたからといって精算に踏み切るのではなく、利益が出ない理由を明確にしてから決断に踏み切りましょう。東海紙工株式会社の例からも読み取れるように、保有している資産やノウハウ、取引先などを他の事業に転向できないか検討することも大切です。

会社を精算する手順を紹介

どうしても業績が回復できなかったり、後継者が見つからなかったりといった場合は、会社の精算を前向きに検討していきましょう。会社の精算を「行うかどうか検討する」のは慎重に行うべきですが、精算すると決まってからはスムーズに手続きを進めるのがポイントです。

会社の精算で必要な手続きについては、以下の記事で詳しく解説しているので、ぜひ参考にしてみてください。
会社清算の種類と流れをわかりやすく解説!

また、会社の精算には税務や手続きの面で様々な費用がかかります。以下の記事では会社の精算で必要な費用について詳しく解説しているので、あわせて確認しておきましょう。
会社を廃業する際のタイミングや手続き、費用を徹底解説!

会社の精算を選ぶ前に事業承継を検討しよう

会社を精算するのは最後の手段です。たしかに会社の精算は費用や責任をこれ以上増やさないために有効な手段ですが、もう一つ検討しておきたい手段として事業承継をおすすめします。

事業承継を成功させれば、以下のようなメリットを受け取れるのです。

  • 経営者のハッピーリタイアを実現
  • 事業の存続
  • 雇用の維持
  • 新規事業による業績の改善

このようなメリットを生み出すポテンシャルを持っている手法なので、会社の精算と合わせてぜひ検討していただきたいのが事業承継です。
事業承継で得られるメリットや手順については以下の記事で詳しく解説しているので、ぜひ参考にしてみてください。
事業承継のメリット・デメリットは?注意すべきポイントもあわせて徹底解説!