繰越欠損金とは、欠損金を次年度以降に繰り越して損金に算入したもののことです。欠損金を繰り越すことで税務上の赤字を別の年度に持ってきて黒字と相殺し、税金(法人税)を安くすることができるのです。

この記事では、欠損金繰り越しの税務(繰越期間や控除限度額など)についてわかりやすく解説していきます。また、準備として税務会計特有の用語の意味を確認します。

税務会計の基本用語~企業会計との違い

税務会計で使われる用語は耳慣れないものが多く、企業会計(損益計算)とも微妙に異なります。ここでは基本的な用語の意味を確かめておきましょう。

益金と損金

税務会計でもっとも基本となる用語が益金損金です。企業会計の言葉で置き換えると、益金は収益(売上高)、損金は売上原価・費用・損失に当たります。要するに、当事業年度に企業に入ってきた額が益金、企業から出ていった額が損金です。ただし、資本取引(株式発行・増資・減資・社債の発行と償還など)によるものは法人税計算では除外します。

所得と欠損金

益金から損金を引いた額が、法人税の課税対象となる所得です(企業会計の税引前当期純利益に対応します)。

これがマイナスになると欠損金と呼ばれ、もちろん法人税が課税されることはありません(ただし法人市民税の均等割分は課税されます)。それだけでなく、このマイナスの額を翌年度以降に持ち越してプラスの額と相殺することができます。これが繰越欠損金です。

所得(欠損金)と利益(損失)がずれる場合

このように税務会計と企業会計では異なる言葉づかいをしますが、単に言葉の上で縄張り争いをしているわけではありません。それぞれ目的や対象が異なるため、税務上の所得(欠損金)と会計上の利益(損失)が実際に一致しないことがよくあるのです。

具体的には、企業会計で費用として認められるもののうち税務会計では損金として認められない(制限が加えられる)ものが色々とあります。例えば、交際費・接待費などは原則として損金に算入されません(参考:国税庁「交際費等の範囲と損金不算入額の計算」)。役員報酬についても、不当に高額な部分については算入できないなどの制限があります。

繰越欠損金の税務

ここからは繰越欠損金の意味と適用条件について解説していきましょう。条件の詳細については国税庁のページを参照してください。

繰越欠損金とは?

ある事業年度の損金が益金を上回り欠損金が計上されたとします。この欠損金の額は言わば「所得控除クーポン」として一定期間効力を持ち、益金が損金を上回って課税所得が発生した年度に消費されて損金として算入されることになります。この「クーポン」あるいは損金算入額が繰越欠損金です。

適用には青色申告が必須条件

欠損金を繰り越して所得控除として適用するためには、欠損金の出た年度に青色申告書で確定申告を行い、繰り越し適用を受ける年度まで連続して(青色・白色を問わず)確定申告書を提出している必要があります。

繰越期間と控除限度額

欠損金が繰り越しされる期間には限りがあります。また、資本金や出資金の額が1億円以下の中小企業(ただし例外規定あり)は繰り越された欠損金全額が控除適用されますが、それ以上の企業については限度額があります。平成31年4月1日現在の税制による繰越期間と控除限度額は次のようになっています。

【繰越期間】
・平成30年4月1日以後に開始する事業年度で発生した欠損金は10年間
・それ以前の事業年度に発生したものについては9年間
【控除限度額】
平成24年4月1日~平成27年3月31日開始事業年度・・・控除前所得の80%
平成27年4月1日~平成28年3月31日開始事業年度・・・控除前所得の65%
平成28年4月1日~平成29年3月31日開始事業年度・・・控除前所得の60%
平成29年4月1日~平成30年3月31日開始事業年度・・・控除前所得の55%
平成30年4月1日~開始事業年度・・・控除前所得の50%

まとめ

繰越欠損金はとくに零細企業や起業したての企業にとっては力強い味方です。適用を受けるための条件と適用期間を正確に把握した上で活用してください。また、損金に算入できる費用とできない費用を明確に把握することが、繰越欠損金の活用を含めた法人税対策全般にとって重要です。

今回は繰越欠損金の概念と適用条件の理解に重点を置いて解説してきました。以上のことを理解しておけば、税理士を初めとする専門家への相談がスムーズに行くことと思います。会計の実務(具体的な計算や仕訳)については触れる余裕がありませんでしたので、必要なかたは以上の基本知識をもとにして適切な情報源を参照してください。