家族経営や親族内承継の数は減り、会社の経営はオープンになってきています。その傾向のひとつがM&Aの増加です。
M&Aの件数は業界や地域を問わず、全国各地で増加の一途を辿っています。
ただ、M&Aという言葉ばかりが先行して、「売買が成立したら終わり」という認識のままでいると失敗します。
しかし、流れに乗ってただM&Aに取り組んでしまうと、事業の統合が上手くいかなかったり、シナジー効果が生まれにくくなったりといったデメリットが生じてしまうケースも考えられるでしょう。
M&Aやその後の経営を成功させるにはPMIを理解し、活用していく意識が重要です。
この記事ではM&Aを成功に導くための考え方PMIについて解説していきます。

PMIとは

PMIとは「Post Merger Integration/ポスト・マージャー・インテグレーション」の頭文字をとった略語です。M&Aを行ったあとに経営をうまく統合し、シナジー効果を最大限に引き出すためのプロセスやマネジメントを指します。日本M&Aセンターでは「資本提携後に売り手企業と買い手企業がともに成長する過程」と定義しており、M&Aに取り組む上で欠かせないポイントと言えるでしょう。
[ 出典 ]日本M&Aセンター

M&Aにおける統合プロセス

M&Aでは、企業同士の合意を取ることばかりに重きが置かれがちです。しかし、M&Aは契約を締結して対価を受け取ることが終わりではありません。

経営統合後の整備が不十分だと、業務上のミスや統合したシステムのエラーが発生することも考えられます。異なる会社同士が統合するので、企業文化の違いから従業員の関係に摩擦が生じる可能性も考えられるでしょう。これらに対して適切な対処を行わないと業務が停滞し、業績が悪化するだけでなく離職や内部対立の顕在化など様々な問題が出てきます。

M&Aをしたはいいものの統合が上手くいかず、シナジーが得られないだけでなくM&A自体が破談してしまう可能性があるのです。

しかし、統合したばかりの不安定な会社でPMIを実行することは容易ではありません。PMIをスムーズに進めるために、何を統合しなければならないのかを具体的に把握しておきましょう。

企業文化の統合

企業文化の統合はM&Aの中でも大事な要素の一つです。

会社によって経営理念や風土などが異なるため、統合したのちに従業員同士が連携を取りづらくなってしまうケースも散見されます。
もともと付き合いがあった会社同士のM&Aであっても、共に業務を行うとなると意識や関係性が変わるので些細な認識や価値観のズレが摩擦を生む可能性もあるでしょう。

M&A後に摩擦を生じさせないためには、双方の会社の経営陣が現場で意識や価値観のズレ、企業文化の摩擦が生まれていないか認識し、適切に対処を行っていかなければなりません。

業務プロセスや仕事の仕方の統合

PMIの最大のポイントの一つである業務の統合についても注意が必要です。業務統合が上手くいくことでコスト削減や効率アップなど様々なメリットが得られます。

具体的に統合するポイントとしては、

  • 業務のノウハウ
  • ビジネスの全体的な流れ
  • 従業員の働き方

上記のようなものが挙げられます。

現場の社員が混乱しないよう、現場での業務の進め方について、M&Aを行う2社間ですり合わせていきましょう。ひとつの会社にいると当たり前だと思っていることが、他社では全くやり方が違うことはよくあります。売買双方の会社でそれぞれの従業員が何度もミーティングを行い、認識のすり合わせが必要です。

また、上場会社が非上場会社をM&Aするケースでは、非上場会社が上場会社に合わせる形でPMIを進めるパターンが多いですが、それでも両者が歩み寄ってPMIを策定していくことが大切です。

社内システムの統合

企業は様々なシステムを構築して業務の効率化を図っています。業種や企業の規模によってもシステムは大きく変わってくるので、M&Aの際にはシステム面のすり合わせも考慮しなければなりません。営業部や法務部、経理部などの各部門ごとに構築されているシステムを細分化し、なるべく従業員が混乱しないように、両社の社員がより使いやすいシステムの構築を目指しましょう。

また、社内のシステムの中でも重要なポイントは以下の4つです。

  • 人事
  • 経理
  • 総務
  • 決算日、支払日

これらは会社の根幹となるシステムです。とくに決算日や支払日については自社内だけの問題ではなく、取引先への影響も多分に考えられます。
取引先への影響を考慮しながら内部のシステムを変更していく意識も大切です。

また、人事の統合についても注意しなければなりません。新卒や中途社員の採用では、採用基準に社風や企業の展望が色濃く現れます。そのため、M&Aを行ったあとに採用基準をすり合わせておかないと、求めている人材が獲得できなくなってしまうでしょう。追加で採用にかかる費用や時間といったコストが余計にかかってしまい、スムーズな経営ができなくなる可能性もあります。

M&Aを行う場合は各部門のシステムを今いちど見直して、双方が納得できる状態で経営を行うようにしましょう。

PMIが重要視される理由とは?

一般的にはM&Aを行ったあと、統合した会社は不安定な状態になります。M&A後の不安定な状態でも経営を行うために、PMIは大いに役立ちます。PMIは、その後の方針を固めたり、社内状況の管理を行ったりする上で重要な指針となるでしょう。

ここからは、M&Aの実情にふれつつ、PMIが重視されている理由について紹介します。

M&A後のトラブルが増えている

M&Aの実態を見てみると、表面上は対等関係を構築しているのに、実態はパワーバランスが崩れてしまっているケースもあります。M&Aをしてもその後の各部署の統合がうまく機能しないと、致命的なリスクになりかねません。

つまり、PMIが徹底できていないと

  • 優秀な人材流出
  • 品質低下
  • 顧客離れ

などに繋がり、経営自体が危険にさらされます。

人員整理を目的にしているM&Aでは、売買成立後に人員整理まで手が回らずに当初計画されていた組織とは全く別の組織になってしまうこともあります。計画していた人員整理ができず、それが会社自体の不信感に繋がります。優秀な社員ほどそのような違和感には敏感で、会社を信じられないと思ったらスグに会社を出ていきます

また、市場規模のパイを増やすために競合企業を買収するケースもあります。しかし、競合だった会社の管理が全くできず高い買い物をして経営が傾くということもあります。

これらは、M&Aのプロセスが原因になっていることが多いのです。それを防ぐために、PMIが重要視されてきています。

確実にシナジーを発揮するため

買収などによって得られる相乗効果を発揮するためには、経営・組織のスムーズな統合が必要です。スムーズな統合ができると企業価値向上や事業の長期的・安定的な成長につながり会社が飛躍するポイントにもなります。
2社間の業務プロセスや経営意識をスムーズにすり合わせるために計画を立てていくPMIは、M&Aの際には必ずと言っていいほど必要な考え方です。

PMIはM&A後の成長をスムーズにする

PMIはM&A後の成長をスムーズにするための手順の一つでもあります。ここからは、どんな理由からPMIが活用されているのか、詳しくみていきましょう。

経営戦略やビジョンなどを浸透

M&Aは、自社にない知識・経験・技術を獲得できる有効な手段と言えます。しかし一般的には、経営理念やビジョンが異なる企業同士の統合では、売買の力関係に基づき、社員の不満や対立が出てくるのが自然です。PMIでは、経営理念やビジョンの周知・共有していち早く浸透させるための施策も計画して実行します。

経営統合によるリスクを軽減

PMIは経営・業務・意識などを単に統合するのではありません。統合前に、どのような障壁があり解決できる問題か否かを考えていきます。統合前にリスクを洗い出して対応計画を立てるので、統合時には早期に問題が解決できます。

経営者が、自社で抱える懸念点を腹をわって話すことで解決に繋がったり、統合によって強みに変わることさえあります。

事業を効率化しコスト削減

M&Aによる対象企業の買収・合併では、商品やサービスの設計・製造・運搬・販売までの一連の生産体制を統合することで効率化を測る目的もあります。お互いの企業のメリットを組み合わせることでシナジーが生まれ、品質の向上やコストの削減にも繋がります。PMIではどこを変えていけば一番効率が良くなるのかを考えることも大きな仕事。お互いの責任者や現場を巻き込みながらベストな方法を見つけられるようにしましょう。

PMIの流れやプロセス

PMIをどう進めたらスムーズに統合ができるのでしょうか。ここでお伝えするのは基本的なことですが、なかには経営者でも完璧に理解しきれいていないことも含まれている可能性があるので、注意しながら読み進めていきましょう。
PMIは、会社の経営と同じように前もって入念に準備をすること、そして淡々と遂行する力が必要です。

長期的なPMI計画を策定する

PMIを成功させるポイントは、統合計画を迅速かつ長期的に定めること。

PMIはM&Aの締結が行われて、統合が始まった初日から着手するものです。通常は、経営陣で決定を下し、締結が行われるまでは現場への周知はされないものが多く、事前の告知も慎重になります。社員への告知を行う前に入念な計画策定を行うことが重要です。

統合開始の時点で計画がないと何も進まず、買収後の代表者の判断だけで行うと上手くいきません。はじめはよくても、徐々にほころびが出てきて取り返しがつかなくなる可能性もあります。

また、PMIには時間がかかります。スムーズに進めるためには現場レベルから調整していく必要があるので、統合プランはミクロな視点とマクロな視点をもって立てる必要があります。そのためにも、統合完了までをわかりやすく明記し、それぞれ遂行する責任者を決めるなど詳細な統合プランを作っておくべきです。

M&Aを行っている段階から売買会社双方で、網羅的かつ長期的な統合プランを策定しておけると理想です。

意思決定プロセスを決める

PMIを実行する際には意思決定プロセスを決めておくとスムーズに進みやすくなります。M&A直後は、新しい組織体制に慣れるまで現場で混乱が生じることが想定されます。

また、経営統合を進めていく過程で意思伝達が円滑でないとPMI自体が進まなくなってしまいます。双方の社員に対して誰が音頭を取って進めていくのかは早めに決めておきましょう。責任者は、再編後の組織がどのようになるのかをイメージしておく必要があります。再編後の組織イメージも、M&Aが行われる段階からお互いで共有されていることが大事です。

計画通りに進める

長期的なプランが立てられていて、意思決定プロセスが決まれば計画通りのスケジュールで進めるだけです。
ただし、綿密に立てたプランでもズレが生じたり、解決しづらい問題が発生することがあります。

また、責任を部署に丸投げするのではなく、よりよい方法がないかどうか、経営者みずからが模索することも大切なステップのひとつ。
売主や事業承継を行う際に相談したアドバイザーに相談をしてみるのも有効です。

PMIを成功させるポイントは?

ここまでのセクションで、PMIに必要なことや詳細に決めていくポイントをお伝えしてきました。最後にPMIを進めていくうえで欠かせない2つの要素をお伝えします。この二つがあれば社内の団結力も上がり、組織再編もスムーズに進むでしょう。

強いリーダーシップを持つ人材の擁立

M&Aでは組織が大きく変わるので、どうしても不安や混乱が生じます。
経営者や各部署をまとめる責任者クラスの従業員には、社員の不安や迷いを払拭できるような力強いリーダーシップが求められるでしょう。

特に中小企業では団結力が欠かせません。幹部一人一人がリーダーシップを持ってPMIに取り組めるように社長自らが働きかける必要があります。統合時に団結できてPMIのプロジェクトが円滑に進むのであれば、その勢いのまま企業が成長していくはずです。

経営者や責任者が動き方に迷い、明確な指示が出せないとPMIは円滑に進みません。指示を出すポジションの人間はリーダーシップを意識しておきましょう。

PMIと方向性を明確に示す

M&Aの内容はお互いの経営者の間でのみ共有されることが多いです。しかし、これはPMIからするとよくありません。組織が大きくなればなるほど、全社員に対しての意思の伝達が難しくなります。

社員に対してどのように統合が進んでいくかが共有されていないと、いざPMIがスタートするときにバタバタしてしまいます。組織の編成がどうなるのか、業務プロセスなどは必ず共有してスムーズに順応できるようにしてあげる必要があります。

また、社員だけでなく取引先や投資家・株主などのステークホルダーにもしっかりと情報を伝えることが必要です。取引先や投資家は、会社を応援してくれている存在です。「統合後に会社がどのようになっていくのか」「どんなビジョンで統合をするのか」を熱意を持って伝えられるとこれまで以上の関係の構築ができます。

まとめ

PMIは事業承継の中でも特に企業間の買収におけるM&Aで使われる言葉です。しかし、通常の親子承継や親族承継、社内承継でも同様のプロセスが重要視されます。

後継者がどのように企業に変革を与え、新たな企業体へと変化をしていきたいか。そのためのネゴシエーションを事前にとり、リーダーシップを取れる右腕や、未来の経営幹部候補を作ることで社員の不安は軽減され、より企業の発展を行うことが可能になるでしょう。